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第一章 旅立ちの時
2 仕事
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食事を済ませたあとは、各々の仕事にかかる。しかしその前にあたしは家から届いた手紙を読むことにした。自室に戻る途中待ちきれなくて封を切りながら扉を開けた。
中身は花の柄の便箋2枚で、内容はお仕事は楽しいかとか、病気してないかとかで、後は近所のこどもたちが描いたらしい小さい絵が端っこにあった。
いつもこうやって家族が手紙をくれる。また今度の休暇に帰りたいな。仕事が終わったら返事も書かなきゃなー。
嬉しくてたたん、と片足ずつジャンプしてから引き出しに手紙をしまった。
使用人の中でも担当が決まってるんだけど、あたしの仕事は主に掃除。
昔から掃除は好きだ。一心不乱に手を動かして取り留めもなく考えごとをするのも楽しいし、掃除した場所が綺麗になるのも嬉しいし。
片田舎出身でそこまで学のないあたしが王城なんかで働けてるのも、掃除好きが高じて清掃の資格を取れたからだ。
ひとまず近くの窓を開けて、澄んだ朝の空気を城の中に取り込む。天気も抜群にいいし、登ったばかりの朝日を全身に浴びて、ようやく目が覚めたような気分になる。
物置部屋から掃除用具を持ってきて、窓枠のホコリをとったり、床を掃いたりして、長い廊下を行ったり来たりしてるうちに、時間は過ぎていく。
「……よし、この階の掃除おわり!」
城は横の塔を除けば6階建てだ。だから次は5階の掃除。床に置いてあった掃除用具をまとめて持って、階段を下りる。
5階に降り立って廊下の端を目指して歩き始めると、曲がり角の向こうから人が来た。
「! おはようございます、ルティナ様」
あたしは掃除用具を置いてぺこりと頭を下げる。
「おはよう、レイデ」
今挨拶を返してくださったこの方は、王女のルティナ・エル・エスパダス様。白いワンピースに身を包んだ、金髪碧眼超美少女って感じの、16歳。
当然彼女の方があたしより立場が上だけど、歳はあたしの方が上だから 妹みたいに思ってたり、いなかったり。
たまにお茶会なんか開いて、あたしたち侍女も招いてくださったりするの。立場とか顔を鼻にかけたりしない、立派な人だ。
「あっ、ルティナ様。今日のリボン、この前のお誕生日の……」
「そうよ。もったいなくてなかなか開けられなかったんだけど……しばらくはこれでいこうかなって思ってるの」
砕けた口調で、髪に結んだ白いリボンの髪飾りに触れるルティナ様。これは少し前のルティナ様のお誕生日に侍女のみんなで選んで買って送ったものだ。鮮やかな金髪に真珠のような光沢のある白いリボンが眩しい。
「よくお似合いですよ。お気に召したみたいで嬉しいです!」
「当然よ、みんながわたしのためにえらんでくれたんですもの。似合わないはずないわ。」
そう可憐に笑って見せるルティナ様。嬉しくてあたしも同じように笑い返した。
「そういえば……レイデ」
「なんですか?」
急に名前を呼ばれて首を傾げる。
「じいやが貴方に用事があるって言っていたわ」
「執事長が?」
実は食事のあとも密かに気にしていた執事長の名前が今になって出てきた。もしかして朝礼を休んだこととなにか関係があるのかな。
「ええ。またあとで聞きに来てって」
「わかりました。ありがとうございます」
あたしがそう頭を下げると、ルティナ様は淑やかに笑いながらあたしの横を通ってその場を立ち去っていく。……やっぱりルティナ様に似合うのは桃色より白だよねえ、とかなんとか思いながらその後ろ姿を見送った。
体悪くしたとかじゃないみたいだし、それは安心。……しかし、執事長が言いたいことってなんだろう。怒られるようなことした覚えは無いから、なにか仕事の話だとは思うけど……。
あたしは首を傾げながら、掃除用具を片付けたあと執事長のところへと向かう。
執事長は70歳を越える老人で、現在のエスパダス王国の城で王族に仕える中では最古参にあたる人物だ。昔は超二枚目で凄腕の剣の使い手だったらしいけど、ほんとかな。
「失礼します、執事長。お呼びとのことで」
扉をとんとんと叩くと部屋の中から返事があった。
「どうぞ、入ってください」
「失礼します」
重い扉を押し開けて執事長室に入ると、質素な部屋の真ん中のテーブルそばの椅子にいつもどおり執事長が腰掛けていた。
執事長は、白いグローブの手でズレた片眼鏡を上げた。
「レイデ。あなたに任せたい仕事があります」
椅子を指し示されたので、頷いてあたしも執事長の向かいの席に座った。
「なんなりと」
「城の裏の倉庫があるでしょう。そこの掃除をしてもらいたいのです」
「え! でもあそこはずっと鍵が閉まってて開かなかったはずじゃ……」
エスパダスの城の開かずの倉庫の話は有名だ。鍵がどこにも見当たらなくて、もう100年以上開いてないとかなんとか。
「それが、昨日ようやく倉庫の鍵が見つかったんですよ!」
「ほんとですか! 一体どこに?」
「図書室の古本に挟まっていたそうですよ」
普段は落ち着いた態度の執事長も今日はなんか嬉しそうだ。あたしも嬉しい。だって100年もずっと締め切ってた倉庫なんてすっごいお宝とか掘り出し物とか入ってるに違いないじゃない!
「もし手伝いが必要ならほかの者を呼びますが、どうですか?」
「いりません大丈夫! ひとりで平気です!」
わくわくで思わず口調が早くなる。
「わかりました。ではさっそく、お願いします」
「はーい!」
あたしは元気よく返事をして、倉庫の鍵を受け取った。ボロい紐がついてて、先っぽになんか木のビーズみたいのがくっついてる。
鍵を制服のポケットにしまうと、執事長にお礼を言ってから部屋を出た。
中身は花の柄の便箋2枚で、内容はお仕事は楽しいかとか、病気してないかとかで、後は近所のこどもたちが描いたらしい小さい絵が端っこにあった。
いつもこうやって家族が手紙をくれる。また今度の休暇に帰りたいな。仕事が終わったら返事も書かなきゃなー。
嬉しくてたたん、と片足ずつジャンプしてから引き出しに手紙をしまった。
使用人の中でも担当が決まってるんだけど、あたしの仕事は主に掃除。
昔から掃除は好きだ。一心不乱に手を動かして取り留めもなく考えごとをするのも楽しいし、掃除した場所が綺麗になるのも嬉しいし。
片田舎出身でそこまで学のないあたしが王城なんかで働けてるのも、掃除好きが高じて清掃の資格を取れたからだ。
ひとまず近くの窓を開けて、澄んだ朝の空気を城の中に取り込む。天気も抜群にいいし、登ったばかりの朝日を全身に浴びて、ようやく目が覚めたような気分になる。
物置部屋から掃除用具を持ってきて、窓枠のホコリをとったり、床を掃いたりして、長い廊下を行ったり来たりしてるうちに、時間は過ぎていく。
「……よし、この階の掃除おわり!」
城は横の塔を除けば6階建てだ。だから次は5階の掃除。床に置いてあった掃除用具をまとめて持って、階段を下りる。
5階に降り立って廊下の端を目指して歩き始めると、曲がり角の向こうから人が来た。
「! おはようございます、ルティナ様」
あたしは掃除用具を置いてぺこりと頭を下げる。
「おはよう、レイデ」
今挨拶を返してくださったこの方は、王女のルティナ・エル・エスパダス様。白いワンピースに身を包んだ、金髪碧眼超美少女って感じの、16歳。
当然彼女の方があたしより立場が上だけど、歳はあたしの方が上だから 妹みたいに思ってたり、いなかったり。
たまにお茶会なんか開いて、あたしたち侍女も招いてくださったりするの。立場とか顔を鼻にかけたりしない、立派な人だ。
「あっ、ルティナ様。今日のリボン、この前のお誕生日の……」
「そうよ。もったいなくてなかなか開けられなかったんだけど……しばらくはこれでいこうかなって思ってるの」
砕けた口調で、髪に結んだ白いリボンの髪飾りに触れるルティナ様。これは少し前のルティナ様のお誕生日に侍女のみんなで選んで買って送ったものだ。鮮やかな金髪に真珠のような光沢のある白いリボンが眩しい。
「よくお似合いですよ。お気に召したみたいで嬉しいです!」
「当然よ、みんながわたしのためにえらんでくれたんですもの。似合わないはずないわ。」
そう可憐に笑って見せるルティナ様。嬉しくてあたしも同じように笑い返した。
「そういえば……レイデ」
「なんですか?」
急に名前を呼ばれて首を傾げる。
「じいやが貴方に用事があるって言っていたわ」
「執事長が?」
実は食事のあとも密かに気にしていた執事長の名前が今になって出てきた。もしかして朝礼を休んだこととなにか関係があるのかな。
「ええ。またあとで聞きに来てって」
「わかりました。ありがとうございます」
あたしがそう頭を下げると、ルティナ様は淑やかに笑いながらあたしの横を通ってその場を立ち去っていく。……やっぱりルティナ様に似合うのは桃色より白だよねえ、とかなんとか思いながらその後ろ姿を見送った。
体悪くしたとかじゃないみたいだし、それは安心。……しかし、執事長が言いたいことってなんだろう。怒られるようなことした覚えは無いから、なにか仕事の話だとは思うけど……。
あたしは首を傾げながら、掃除用具を片付けたあと執事長のところへと向かう。
執事長は70歳を越える老人で、現在のエスパダス王国の城で王族に仕える中では最古参にあたる人物だ。昔は超二枚目で凄腕の剣の使い手だったらしいけど、ほんとかな。
「失礼します、執事長。お呼びとのことで」
扉をとんとんと叩くと部屋の中から返事があった。
「どうぞ、入ってください」
「失礼します」
重い扉を押し開けて執事長室に入ると、質素な部屋の真ん中のテーブルそばの椅子にいつもどおり執事長が腰掛けていた。
執事長は、白いグローブの手でズレた片眼鏡を上げた。
「レイデ。あなたに任せたい仕事があります」
椅子を指し示されたので、頷いてあたしも執事長の向かいの席に座った。
「なんなりと」
「城の裏の倉庫があるでしょう。そこの掃除をしてもらいたいのです」
「え! でもあそこはずっと鍵が閉まってて開かなかったはずじゃ……」
エスパダスの城の開かずの倉庫の話は有名だ。鍵がどこにも見当たらなくて、もう100年以上開いてないとかなんとか。
「それが、昨日ようやく倉庫の鍵が見つかったんですよ!」
「ほんとですか! 一体どこに?」
「図書室の古本に挟まっていたそうですよ」
普段は落ち着いた態度の執事長も今日はなんか嬉しそうだ。あたしも嬉しい。だって100年もずっと締め切ってた倉庫なんてすっごいお宝とか掘り出し物とか入ってるに違いないじゃない!
「もし手伝いが必要ならほかの者を呼びますが、どうですか?」
「いりません大丈夫! ひとりで平気です!」
わくわくで思わず口調が早くなる。
「わかりました。ではさっそく、お願いします」
「はーい!」
あたしは元気よく返事をして、倉庫の鍵を受け取った。ボロい紐がついてて、先っぽになんか木のビーズみたいのがくっついてる。
鍵を制服のポケットにしまうと、執事長にお礼を言ってから部屋を出た。
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