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第一章 旅立ちの時
9 獣人
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再び目を覚ました時には、寝る前と変わった空の色……が見えるはずだった。が、しかし。
「あ、おでれぇた。……おはよーございます!」
目の前には、上下逆にあたしの顔を覗き込む男。聖剣とは全く似ていないし、それに、すごく訛った口調。田舎出身とはいえあたしの所でもここまでは訛らない。
「お、おはようございます…………な、なに、だれ!?」
ついつい返事しちゃったけど、全然知らない人だ。
あたしは聖剣を握ったままの右手と空いた左手を胸の前に寄せながら慌てて起き上がった。いつの間にか狼不在。代わりに襟ぐりとかが伸びきったボロボロの服、っていうか布切れをまとった不審な男が1人。
自由に跳ねた黒髪が伸びていて、後ろでひとつに括ってはいるものの、不格好な感じだ。目が隙間からちらちら見える以外は、顔のほとんどを前髪が覆っていて陰気で清潔感の無い見た目の割に、男の口調は元気だった。
「おれ、あんたが昨日助けた犬めじゃ、ほら!」
よく見ると左の二の腕に「く」の文字を左右逆にしたような傷がある男は、そう言うと白い布……あたしが昨日狼の後ろ足に巻いてあげたエプロンを出してきた。血がついてたけどとりあえず返してもらった。
「あらほんと…… え~~嘘~~ 昨日はこんな姿じゃなかったじゃない!」
普通に考えて狼がいきなり人間になるわけがない。けど男はあたしの言葉を聞いても態度を変えなかった。
「月が出とる間だけは獣の姿になれっけえ、こん姿じゃねえと口もきけんしのぉ」
「ははぁ……」
そう話す確かに男の口には牙が覗いていた。まあ、食い殺される心配はないようなので安心。しかし返事に困って、聖剣を見た。無言だった。
「とにかく……昨日の晩は、げにどーも! 誰かと寝こじるんもしばらくじゃったけん、あんたが女神に見えちまったよ……」
最初は怖いって思ったけど、そんなキャラでもないっぽい。ほとんど髪の毛で隠れた男の顔。照れているらしかった。
なに言ってるのか最後しかわかんなかったけど、聖女の次は女神か……やっぱり普通の女の子に戻りたいなんて、頭の端っこでぼんやり思ったり思わなかったり。
『……昨日の晩は、どうもありがとう。誰かと寝るのも久々だったから、貴方が女神に見えてしまったよ、か?』
しばらくだんまりだった聖剣がいきなり男の言葉の内容を翻訳しだした。うーん、さすが少なくとも100歳超え……あ、いや、600歳超え? の老人なだけある。声かっこいいんだから、命令とかばっかりじゃなくて、いつもこうやって普通に喋ってくれればいいのに。
「え! わかるの?」
「……その剣、喋んのけ?!」
「うん。変でしょ」
あたしが聖剣に返事するのと同時に、男はびっくりしたように言った。ってか、他の人にも声聞こえるんだ? じゃあ昨日はルティナ様にだけわざと聞こえないようにしてたとか、そういう感じかな。
『言葉が通じなければ会話が終わらんだろう。……それよりも、早くここを移動するぞ。城からの追っ手がくるまであまり猶予もないはずだ』
……確かに、未遂に終わったけどルティナ様を狙ったのは他の人から見ても明らかだし、他にもテーブル斬っちゃったし、勢いで窓も割っちゃったし、城の壁にも傷つけちゃうし。最悪だ!
もう全部責任転嫁しちゃお。聖剣、許すまじ。
「……帰るって言ったら?」
しかし素直に従うのが癪だったから、一応聞いてみた。
『こうなる』
途端にあたしの左手が剣を抜いて、刃を首にそえた。冷たい刃があたしの首の皮膚に傷をつけようと迫ってくるのをなんとか反対の力で押しとどめる。
「なっ、なにしよんじゃ!?」
男はびっくりして剣をあたしの首から剥がそうとしてくれた。しかしびくともしない。
「……わかった、わかったから」
あたしはもうヤになって、諦め気味で聖剣にそう言った。
……一応脅しはするものの、一度あたしと契約してしまった以上は聖剣もあたしが死んだら困ることには間違いないだろうから、多少の仕返しくらいは平気だと思う。
『貴様の代わりはいくらでもいるぞ』
……前言撤回。
「あ、おでれぇた。……おはよーございます!」
目の前には、上下逆にあたしの顔を覗き込む男。聖剣とは全く似ていないし、それに、すごく訛った口調。田舎出身とはいえあたしの所でもここまでは訛らない。
「お、おはようございます…………な、なに、だれ!?」
ついつい返事しちゃったけど、全然知らない人だ。
あたしは聖剣を握ったままの右手と空いた左手を胸の前に寄せながら慌てて起き上がった。いつの間にか狼不在。代わりに襟ぐりとかが伸びきったボロボロの服、っていうか布切れをまとった不審な男が1人。
自由に跳ねた黒髪が伸びていて、後ろでひとつに括ってはいるものの、不格好な感じだ。目が隙間からちらちら見える以外は、顔のほとんどを前髪が覆っていて陰気で清潔感の無い見た目の割に、男の口調は元気だった。
「おれ、あんたが昨日助けた犬めじゃ、ほら!」
よく見ると左の二の腕に「く」の文字を左右逆にしたような傷がある男は、そう言うと白い布……あたしが昨日狼の後ろ足に巻いてあげたエプロンを出してきた。血がついてたけどとりあえず返してもらった。
「あらほんと…… え~~嘘~~ 昨日はこんな姿じゃなかったじゃない!」
普通に考えて狼がいきなり人間になるわけがない。けど男はあたしの言葉を聞いても態度を変えなかった。
「月が出とる間だけは獣の姿になれっけえ、こん姿じゃねえと口もきけんしのぉ」
「ははぁ……」
そう話す確かに男の口には牙が覗いていた。まあ、食い殺される心配はないようなので安心。しかし返事に困って、聖剣を見た。無言だった。
「とにかく……昨日の晩は、げにどーも! 誰かと寝こじるんもしばらくじゃったけん、あんたが女神に見えちまったよ……」
最初は怖いって思ったけど、そんなキャラでもないっぽい。ほとんど髪の毛で隠れた男の顔。照れているらしかった。
なに言ってるのか最後しかわかんなかったけど、聖女の次は女神か……やっぱり普通の女の子に戻りたいなんて、頭の端っこでぼんやり思ったり思わなかったり。
『……昨日の晩は、どうもありがとう。誰かと寝るのも久々だったから、貴方が女神に見えてしまったよ、か?』
しばらくだんまりだった聖剣がいきなり男の言葉の内容を翻訳しだした。うーん、さすが少なくとも100歳超え……あ、いや、600歳超え? の老人なだけある。声かっこいいんだから、命令とかばっかりじゃなくて、いつもこうやって普通に喋ってくれればいいのに。
「え! わかるの?」
「……その剣、喋んのけ?!」
「うん。変でしょ」
あたしが聖剣に返事するのと同時に、男はびっくりしたように言った。ってか、他の人にも声聞こえるんだ? じゃあ昨日はルティナ様にだけわざと聞こえないようにしてたとか、そういう感じかな。
『言葉が通じなければ会話が終わらんだろう。……それよりも、早くここを移動するぞ。城からの追っ手がくるまであまり猶予もないはずだ』
……確かに、未遂に終わったけどルティナ様を狙ったのは他の人から見ても明らかだし、他にもテーブル斬っちゃったし、勢いで窓も割っちゃったし、城の壁にも傷つけちゃうし。最悪だ!
もう全部責任転嫁しちゃお。聖剣、許すまじ。
「……帰るって言ったら?」
しかし素直に従うのが癪だったから、一応聞いてみた。
『こうなる』
途端にあたしの左手が剣を抜いて、刃を首にそえた。冷たい刃があたしの首の皮膚に傷をつけようと迫ってくるのをなんとか反対の力で押しとどめる。
「なっ、なにしよんじゃ!?」
男はびっくりして剣をあたしの首から剥がそうとしてくれた。しかしびくともしない。
「……わかった、わかったから」
あたしはもうヤになって、諦め気味で聖剣にそう言った。
……一応脅しはするものの、一度あたしと契約してしまった以上は聖剣もあたしが死んだら困ることには間違いないだろうから、多少の仕返しくらいは平気だと思う。
『貴様の代わりはいくらでもいるぞ』
……前言撤回。
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