聖女マストダイ

深山セーラ

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第三章 酒場の流儀

4 用事

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「……やらなきゃいけないこと、いっぱいある」

 あたしがそう呟くと、ルークは神妙な顔で頷いた。あたしは立ち上がるとベッドそばの、上に聖剣を置いている引き出しを開けた。

 観光案内とメモ帳とえんぴつが目に入る。今はこういう格安の宿に泊まって外でご飯食べて観光して、みたいなのが流行ってるらしい。

 あたしはメモ帳とえんぴつをとるとベッドに座った。やらなきゃいけないことはここにメモして、終わったら消す。そしたら無駄に今後に悩まなくて済むから。あたしがそう説明したらルークはきらきらと目を輝かせた。

「流石はご主人じゃ!」

「やっぱり旅は計画的にしなきゃね」

 やることリスト、と罫線の1番上に書いた。

『貴様にしてはまともな発言だな』

「うるさい」

 もうしっかり反論する気も失せて、4文字だけ返す。今はえんぴつにだけ集中。

「まずは……なんだろ、やっぱり金策?」

 お金稼ぎ、と2行目に書き入れた。やはり世の中先立つものは金である。今の全財産といえば、ここの宿泊費で1800円消えたから、198円。このままじゃ次のお昼ご飯もなければ今晩泊まるところもなし。聖女も全然楽じゃない。

 しかしお金を稼ぐと言ってもどうするのか、昨日も同じようなこと考えた覚えがあるけど全く思いつかない。

 お金稼ぎ…………の方法を思いつく、と続きを書き足した。

「……ひとっつもわかんね」

 ルークがメモを眺めながらぽつりと呟いた。え、そんな字汚い? って思ったけど違う。そういえばルークそもそもあんまり字読めないんだった。……これも課題だなー。

 ……スクリプトル王都といえば、酒と知恵の都として名高い。エスパダスといったら平和ボケ能天気王国で有名だけどこっちもこっちで変わったとこだ。

 元々原料の生産が盛んだったから、スクリプトル王都じゃ昔っからお酒が名産で、実際国内でも多くの人がお酒好きらしい。

 知恵の方に関しては、数百年前の王様と女王様がえらい本好きだったのと……飲んだくれでどうしようもない国民たちを見かねて各地に図書館を建てまくったとかなんとかで、今じゃ平均してひとつの街にひとつ図書館がある計算になるらしい。すごすぎ。

 ……ルークを図書館に連れて行ってこども向けの絵本からでも読ませたら字読めるようになるかな。学習はスモールステップで行うべき、って誰の言葉だったか忘れたけど、ほんとにその通りだ。

 ……あれッ、学習じゃなくて創業だったよーな気もする。どっちだっけ。

「……図書館に行く」

 とりあえず3行目に書き書き。図書館はタダで入れるからお金のこと気にしなくていい。庶民の味方。国営万歳。

『あまりひとつの街に長居することは許さんぞ』

「あーも、わかったわかった。二晩以内には移動するから」

 城からの追っ手が来るから、って言いたいんだろうけど、こんなところまで来るかなあ。なにしろ国境ももう超えてるのに。

 エスパダスって脳天気な国民性のせいかそもそも犯罪率低いから、どっかの雑誌に載ってる暮らしたい国ランキングでも長年上位に居座ってるらしい。

 その犯罪率の増加に今回加担したのがあたしなわけだけど、そういうわけでエスパダスは罪人を追いかけるための警備隊もあんまり強くないっていうか、鈍っちゃってるっていうか、多分この調子だとスクリプトル王都とかの近隣の国への周知も遅くなるし。

 ……多分他国も含めて警戒態勢に入るのはまだ先な気がする。

 レイは口うるさく言ってくるかもしれないけど、そんなに気にしなくていいんじゃないかなあ。

「……んー、あと、家族に手紙返事出して、新しい服買って……ルークの髪切らなきゃ!」

 4、5行目……まで書いて、ふと思い出す。ルークは自分の顔を指さしながらちょっと目を見開いて首を傾げた。

「おれっ?」

「うん、おれ」

 あたしは頷く。長いとじゃまだし、そもそもあたしロン毛って好きじゃないし。好みの問題だけど、ルークは別にこだわって伸ばしてるわけじゃないだろうし、切ってもいいはずだ。

「長いと邪魔でしょ」

 そう言ってあたしはルークの髪に触れた。ケアなんか全くしてないまま伸ばしてちゃしょうがないけど、ごわごわだった。

「そりゃまー、そうじゃの」

 ……個人的にはこれが一番の優先事項かなー、とか何とか思いながら、上から……お金稼ぎ、手紙出す、髪切る、の項目にえんぴつで丸をつけた。

『……髪型が旅費の調達と同列か』

「いーでしょ別に!」

 ここのアメニティではさみとか置いてないかな。もしあったら即刻髪切りたいくらいなんだけど、どうだろう。

 メモはいつの間にか半分ほどが埋まっていた。……概ね書けたとは思うけど、まーだなんか忘れてるような、そんな気がする……。

「……ん~~~……」

 頭をひねる、というかベッドの上に座ったまま上半身ごとひねる。ルークが不思議そうな顔のまま真似してきた。その動きを眺めているとなぜだかどうやらひらめく。

「……そうだ! 冒険者ギルド!」

 ココにあたしたちが冒険者なのかって聞かれた時のことを思い出す。冒険者ギルドで登録すれば冒険者の証をもらえて、身分証としてつかえるし、ギルド加盟店では割引受けられたりするらしい。

「えー、冒険者登録……っと。これで全部かな?」

 なんとなくルークの方を見たら、人姿だと毛皮ないから寒いのか、自分を抱くように腕を手で摩りながら頷かれた。
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