ートルクメニスタンの民話ー ヤルティ・グロック

みずっち82

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ートルクメニスタンの民話ー ヤルティ・グロック(小さな小さな男の子の冒険)。

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 このお話は、本当にあった事なのか?
 それとも無かった事なのか?
 ある日、太陽で焼きつくような砂の上を、おじいさんが ひとりでロバに
 乗ってのろのろと進んでいました。
 おじいさんはラクダの手綱を引いていました。
 夜明けまで製粉所で働いていたので、とても疲れていました。
 ラクダも背中に重い袋を乗せていたのでやっぱり疲れていました。
 ロバも背中におじいさんを乗せていたので疲れていました。
 おじいさんは歌をうたっていました。頭に浮かんでくる事を。
   息子がいたらな~。
   どんなに小さくたっていいよ。
   けしの花のような元気な顔をした子供でさ。
   あかるい太陽のようでさ。
   みつばちみたいに働きものでさ。
   そうだったら、とっても幸せなのにな~
 とつぜんおじいさんは、誰かが自分をよんでいる声をききました。
 誰だ?
「お父さん、お父さん、息子が欲しいんでしょ。ぼくを息子にしてよ。」
 おじいさんは おどろいて、ロバを止めて足元を見ました。
 でも地面にはラクダのエサの、とげのある草が生えているだけでした。
 又、声がしました。
「飛んでいる鷲を見たいなら地面を見たってしかたがないよ。」
 そこで、おじいさんは空に目を向けたけど、何もありません。
 その時、大きな声がしました。
「お父さん。雲の中に ヒョウはいないよ。」おじいさんは言いました。
「姿を現わしてくれ。すぐに姿を見せてくれ。」待ちに待った自分の息子を
 早く見たいものだと思いました。そしてラクダの耳から体をのり出している小さな 小さな男の子を見つけました。
 その子は楽しそうに おじいさんを見て、かんだかい声で言いました。
「ボクはここだよ。ここだよ。ボクの事見える?おねがい!
 ボクをこのせまいところから出してよ。」
 おじいさんは ラクダの耳から子供を引っ張り出して、自分の手のひらに   のせました。
 男の子はとっても、とっても、小さかったのです。
 彼の頭は トルクメニスタンの男の子達のように 前がみはそって、両耳の
 上の髪の毛だけおさげにしていました。
「名前は 何て言うんだい?」とおじいさんは、やさしく聞きました。
「おまえは小さいね。ラクダの耳の半分くらいの大きさだね。」
 子供はおじいさんを見てニッコリしました。
「ボクをそう呼んでよ。その名前が気に入ったよ。」
 おじいさんはその子を(耳の半分の大きさのという意味で)
「ヤルティ・グロック」と名付けました。
 ヤルティ・グロックは ピョンと立ち上がると本当の馬の使い手みたいに、
 いねむりをしている ロバに向かってさけびました。
「ホイ、ホイ、ロバよ。早く家へつれて行け!お母さんが作っているピラフがこげちゃうよ。」
 おじいさんとヤルティ・グロックを乗せたロバは耳をぶるっと ふって、歩き出しました。ラクダも動きだしました。

 さて、そのころおばあさんは 何をしていたのでしょう。

 おばあさんは中庭のまん中へんに、白い敷物をしいてその上に、座って  じゅうたんを織っていました。
 おばあさんは、小さいウールの結び目を作りながら、自分の不幸を考えて  いました。
 人はさみしい時には泣いたり、歌ったりするものです。
 おばあさんもこんな歌をうたっていました。
   私に息子がいたらな~
   爪ぐらい小さくたっていいさ。
   息子のためにじゅうたんを織るのにな~。
   カーネーションの花ビラのようにまっ赤なじゅうたんを
   日没の太陽のように金色にかがやくじゅうたんを
   夜の空のように青いじゅうたんを。

 


 おばあさんが門の方を見ると、おじいさんがロバにのってかけ足でやって
 くるのが見えました。
 年を取ったラクダが 主人の後を けんめいについてきていました。
「オーイ!ばあさんや。」とおじいさんは遠くからさけびました。
「幸運が、わしらにもやってきた。小さい息子を さずかった。」
 ヤルティ・グロックは、ラクダの耳と耳の間に座って、チラチラと
 おじいさんとおばあさんを見ていました。
 おばあさんは、子供を自分の暖かい手のひらにのせて、やさしく 赤いりんごちゃんとかラクダの子とか話しかけました。
 昼が過ぎ夕方に なってきました。
 おばあさんは となり近所の家を歩きまわって、この小さな子供の仕度を
 するのを手伝って下さいと たのみました。
 おばあさんは おもてなしをするのに ケチケチしませんでした。
 大なべにピラフをいっぱい作り、丸パンをたくさん焼き、テーブルの上に  おいた木の皿には、たくさんの干しぶどうと 甘いメロンのスライスを  いっぱいのせました。
 女の人たちは、歌ったり、楽器を鳴らしたりしながら、ヤルティ・グロックの支度をしました。そして、夜中までかかって
 小さなスカーフから3枚の上衣を作りました。そして、毛皮の帽子や靴も作りました。
 彼女たちはヤルティ・グロックに色々着せて、右から見たり、左から見たり
 して、拍手をしたり、笑ったりしました。
「かっこいい馬の乗り手みたいだわ。」
 ヤルティ・グロックは両親に言いました。
「ありがとうございます。みなさんの思いやりに感謝します。やがてお返し
 する時がくるでしょう。そして人々のお役に立つ時がくるでしょう。」

 ある時、ヤルティ・グロックは となり村から自分の家にむかって歩いて
 いました。
 長い事、歩いていたので、とっても疲れていました。ヤルティ・グロックは
 小さいので、村までの道は、遠くて、遠くて、早く家にたどり着きたくたって
 そんなこと、できっこありません。
 とつぜん ヤルテイ・グロックは馬を目にしました。
 馬は、道のはしっこに生えている、乾いた草をむしり取って食べていました。
 馬のそばに、乗り手が立っていました。
 若くて立派な乗り手です。
 彼は、ずれた鞍のへりを直していました。
 《一人だって、二人だって大して変わらないよ。》とヤルティ・グロックは
 思いました。
 《一人きりで馬を飛ばすのは、さみしいに決まってるよ。》と、ひとり言を
 言うと、
 ヤルッテイ・グロックは 馬にかけ寄り、しっぽをつかむと、上の方に
 はい上がり、すばやく馬の広い背中にのり、さっさと座りました。
 もちろん乗り手は何も気づいていません。
 彼は馬の腹帯をしっかり、ぴったりと引きしめると、鞍に飛び乗り、馬に
 ひとムチあてました。
 馬は、いきおいよく走り出しました。ヤルティ・グロックは、騎手の背中に
 くっついて いました。うれしくて飛び上がりそうでした。
 《まもなく家に着く。おかゆが食べられる。》とヤルティ・グロックは
 うっとりしていましたが、村への道とは、方向が違う。
 馬は砂獏の方に向かって、まっしぐらに飛ばしている。という事に気がつきました。
「オイ!オイ!」とヤルティ・グロックはさけびました。
「おまえはどこに馬を飛ばしているのだ!気が狂ったか!道に迷ったか?
 砂獏に消えてしまうじゃないか?オレはお前と一緒に消えるのか?
 じょうだんじゃないよ」
「誰だ!オレの背中でピィピィ 泣いているのは?」
 と騎手は変だと思い、全速力で走っている馬を止めました。そして振り返ってヤルティグロックをすぐ見つけました。
「オレはヤルティ・グロックと言うんだ!」子供はおどろいている騎手を落ちつかせました。
「しかし、何のために、馬を砂漠に向けて走らせているんだ?
 そんなムダな事をするより、オレを家まで送ってくれ」
「それはできない。駄目だね」と、若者は悲しそうに言いました。
「オレは、自分の不幸を砂漠の中にうめてしまうまでは、人と会わないと
 決めたんだ。」
「お前の不幸ってそんなに大きいのかい?」
「すごく、大きいんだよ。言葉じゃ言えないよ。」と言って騎手はため息を
 つき、だまってしまいました。
「悲しい時は、だまってないでさ、大きい声で話した方がいいよ。」
 とヤルテイ・グロックは大声で叫びました。
 そして「もしかしたら、オレがあんたを助けられるかも知れないよ。」
「それはないね。誰もそんなこと出来ないよ。」と若者は悲しそうに
 言いました。
「オレは美しいグリィーアサリィを自分の人生をかけて愛しているんだ。
 でもオレは貧乏だし、彼女の雇い主は村一番の金持ちなんだ。
 そいつはずるいやつで、決して自分の雇人を自由にしないんだ。
 オレ達の結婚を認めないんだ。」
「今、すぐ馬からおりろ。そして自分の行くべき道を行くんだ!」
 若者はむっとしました。
「ほっといてくれよ。」
 でもヤルティ・グロックはその場から動きません。そして言い返しました。
「お前はこんなに大きい体をしているのに心はどこに行ったんだ。
 お前は自分の悲しみを砂の中にうめてしまいたいんだろうが、あんたの近くに住んでいる村の人たちにも悲しいことはいっぱいあるだろう?」
「そうだよ。村の人達には悲しいことがいっぱいあるさ」と若者は言いました。
「だから、みんなの家にある悲しみを集めれば良いんだよ。」と
 ヤルティ・グロックは、叫びました。
「そして、集めた悲しみを7頭のラクダにのせて、村に戻ってこれないほど遠くに運べばいいんだよ。」
「そうしたいけど、オレにはそんな力はないよ」
「おまえにその力がないって!」とヤルティ・グロックは笑いました。
「おまえの胸は雪ひょうのように、広いし、手は鉄より硬そうだよ。」
 騎手は本当に怒りました。
「今すぐに馬から降りろ!自分が何も出来ないなら、人にとやかく言うん
 じゃない。」
「オレが何にも出来ないって?」と今度はヤルティ・グロックが怒りました。
「出来るさ!馬を元来た方に向きを変えろ!村の方に飛ばせ!オレ達が村人の悲しみを全部集めるんだ!」
 そして、二人は馬を村の方に飛ばしました。

 なんこの村は、貧しいんだ。
 ヤルティ・グロックはこんな貧しい村を見た事がありませんでした。

 最初の農家のところで馬を止めました。
 二人は、ものすごく年をとった背の低い、腰の曲がったおばあさんを見ました。
 長い年月と悲しみが腰を曲げたのでした。
 おばあさんは、低くおじぎをして言いました。
「お若い方、私の悲しみはすごく大きいんです。あの高い
 カベに囲まれた屋敷の中に、悲しみのもとが住んでいるんです。」

 次の家の前に行くと、門から、男の子が走り出てきました。
 男の子は穴だらけの上着を着ていました。誰か立ち聞きをして
 いないか、辺りを確かめるように見まわしてから、ささやくように言いました。
「お父さんが言ってるよ。すべての悲しみは、あそこからやってくるんだって」
 と言って、あの高いカベを、指さしました。

 二人が3軒目の家に近づくやいなや、泣き声と叫び声が聞こえてきました。
「いったいここで何がおきているのだ?」とヤルティは不安になって
 聞きました。
「この家で誰かが病気になったとか、死んだとか?」
「そうじゃないんだ。」と騎手は悲しそうに言いました。
「この家は、ここに住んでいる人達が大事にしている物からナベ、カマに至るまで、いっさい、かっさい、持っていかれたんだ。あの白いカベの向こうにさ。」
「その呪われているカベの向こうに誰が住んでいるんだい?」
 とヤルティ・グロックは聞きました。

「狂ぼうなトラとか、邪悪なドラゴンとか?」
「あそこに住んでいるヤツは狂暴なトラや邪悪なドラゴンより
 もっと悪い奴だよ」と騎手は答えました。
「そいつは大地主で高利貸のカラベックの事だよ。
 どん欲なクモみたいなやつで、村のみんなをだまし、村人の血を吸っているんだよ。
 ヤツは、自分のところで働いているグリー・アサーリイはおれの恋人だけど、彼女との結婚を認めないんだ」
「その悪魔のところにすぐ行こう!」とヤルティ・グロックは騎手にみとめてもらいたいので、立ち上がって声をはりあげました。
 でも若者は首をふりました。
「お前も気づいているだろうが、門には錠前がかかっているし、鉄の杭も
 つきささっているし、召使やおそろしい犬が昼も夜も見張っている。
 カラベックの屋敷には鳥だって入れないし、けものだって入れないんだ。
 なんで人間が入れるんだよ。」
 そんな事を聞いてもヤルティ・グロックの決心はゆるぎません。
「お父さんが、いつも言ってた。『戦いから逃げるヤツは死んでも良い』って。オレはおくびょう者になりたくな  い。ケチな金持ちのカラベックの屋敷に早く行こうよ。」
 カラベックは、毎日、朝から地下室へおりて行きました。
 そこには金貨がぎっしり、つまった箱が並んでいました。
 カラベックは羊の油をいっぱい入れたランプに火をつけて、そして金貨の
 数えなおしを始めるのでした。
 このごうつくばりのカラベックには鳥のさえずりや、チョロチョロ流れる水の音や春の日の光のきらめきなどには何の喜びも感じません。
 ごうつくばりの冷たい心には、貧しさも、人々の涙も届きません。
 朝から晩までただ一つの事だけを《どうやってもう少しお金をためるか、
 そして、もっと自分の富を増やすにはどうしたらいいか?》だけを、考えて
 いました。
 その日も同じでした。
 100番目の袋を金貨でいっぱいにすると、100番目の箱の中にそれを入れて、7つの鍵をかけました。
 ここで、ごうつくばりのカラベックはカサカサという音を聞きました。
 穴からチョロチョロと小ネズミがのぞいていました。
 そしてかすかにピィピィとないていました。
 小ネズミは「オイ、ごうつくばり。むなしいね。自分の金にビクビクしているのかい?今じゃ、砂漠に金の雨が降ってきて、お前の金貨なんて価値がなくなっているよ。」
「チィッ!」とごうつくばりのカラベックは言いました。そして、ネズミに靴を投げつけました。小ネズミはすぐに消えました。

 


 今度は天井から、長い糸をつたってクモがおりてきました。
 クモは足を動かしてひそひそと言いました。
「小ネズミを傷つけたってムダさ。小ネズミは本当の事をお前に言ったのさ。
 砂漠に金の雨が降ってからは、村人たちは、カラクム砂漠に行って、シャベルで金をかき集めているそうだよ。」
「うそだ!うそだ。」とごうつくばりのカラベックはしゃがれ声で言いました。
「オレの地下室にある金より多くためたヤツはいないんだよ」
「ヒッヒッヒ!」と、かべをはっている黒い大きなゴキブリが笑いました。
「この村のさいごの貧乏人が、カラベーク!お前よりもっと金持ちになる
 だろうよ」
「オー!」とごうつくばりのカラベックはうめきました。
「頭がおかしくなりそうだ!」
「そりゃ大変だ。」と小ネズミが、また穴から身をのり出して、ピィーピィ
 言いました。
「昔の友達として、ちょっと忠告したかっただけよ。いたずらに時間をムダにするな。カラクム砂漠に急げ。村人たちに取られる前に金を集めて袋の中に
 入れろ。」
「そうだそうだ。ヤレ、ヤレ、ヤレ。」とクモがささやきました。
「金をかき集めて、遠くの国へ運べ。そしてそれを3倍で売るんだ!」
「そしたら、この世で一番の金持ちになるぞ!」とゴキブリが触かくを
 動かしながらクスクスと笑いました。
「エーイ、エーイ」と業突く張りのカラベックは、わめき出しました。
「でも、誰がオレをカラクム砂漠につれて行ってくれるんだ?
 オレは、づーっとつましい暮らしをしてきたから、馬もラクダもロバも持って
 いない。」
「それじゃあダメだね。」と穴からネズミがチューチュー言いました。
「カラクム砂漠にはぜったいに、たどりつかないね。」
「金は手に入らないね。」とクモがささやくように言いました。
「ヒッヒッヒ。」と黒いゴキブリが笑い出しました。
「貧乏人がわれ先にと取ってしまって、お前には小さな金の粒さえ残ってないね。」
「そうはさせねえよ。」とごうつくばりのカラベックがほえるように言いました。
「オレが、まっさきに砂漠につく。金はオレのものだ。」
 ごうつくばりのカラベックは、中庭に走り出して、召使を呼ぼうとして、
 《もし、使用人達が金の雨の事を知ったら、すぐさま砂漠に行って勝手に富をつかみとるにちがいない。》とハッと、気がつきました。
 そこで、ごうつくばりのカラベックは使用人たちから見えないように、はって
 外に出ました。そこで馬に乗った騎手に出会いました。
 ごうつくばりのカラベックは喜びました。「オー!友達!」と言いました。
「オレはお前を知ってるぞ!」
「お前はオレに100ティンガの借金があるぜ。だからオレをカラクム砂漠に連れて行け!そしたら借金の半分はかんべんしてやる。」
 騎手は「1000銅ティンガを払うと言ったって。今、お前を連れて行く
 ヤツはいないぜ」
「お前に2000やるよ。」
「5000と言われたって、お前をカラクム砂漠に連れ行くのはいやだね」と
 騎手は、きっぱりと言いました。
「でも、グリイ・アサリィを嫁にくれるなら、すぐに連れて行ってやる!」
「分かったよ。グリイ・アサリィを連れて行け!おしくはないさ!」と
 業突く張りのカラベックはわめきました。
「今すぐにオレを砂漠に連れて行け!」
 騎手は笑いました。
「よろしい、乗れ!」
 ごうつくばりカラベックは馬のしりによじ登りました。
 騎手はカラクム砂漠へ馬を走らせました。
(彼らは)長い事走り、風のように早く走りました。
 丸一日経って、太陽がカラクム砂漠のむこうに沈み始めました。
「下りろ」と騎手は命令して馬をおさえました。
 ごうつくばりのカラベックが辺りを見まわしたが、死んだような砂漠以外
 何も見えません。
 砂はまい上がり波のようになって水平線まで続き、この果てしなく続く砂漠の海の中で輝いている物は何一つありません。
「オレをどこに連れてきたんだ!お前はずるいヤツだ。」
 ごうつくばりのカラベックは叫びました。
「お前が、カラクム砂漠に連れて行けと言ったんだぞ。」とつぜん 小ネズミの高い声がピィーピィと聞こえてきました。
「どこに金があるんだ⁉」ごうつくばりのカラベックはたけり狂ってほえました。
「さあ!掘れよ!見つけろよ。」とクモの声が答えました。
「オレをだましたな。」と高利貸しはうめきました。
「ヒッヒッヒ。」とゴキブリの声がしました。
「お前は何回も近所の人達をうらぎったじゃないか?」
 ごうつくばりのカラベックはキョロキョロとあたりを見回しました。 
 すると、騎手の肩の上にラクダの耳の半分くらいの背丈の小さな男の子が
 腰かけているのを見つけました。
 この小さな男の子が地下室でいろんな声で話していたのです。
 男の子は笑って指で金持ちをおどしました。
 ごうつくばりのカラベックは驚いて、後ずさりしたので、馬から砂の上に
 落ちました。
「これで終わりだよ。」とヤルティ・グロックが騎手に言いました。
「オレ達が人々の悲しみを砂漠まで運んできたんだ。馬の向きをかえて、村へ戻ろう。」
「待ってくれ!オレも一緒につれて行ってくれ!」とごうつくばりの
 カラベックが必死で頼みました。「イヤだよ。」とヤルティ・グロックは叫びました。
「誰も悲しい過去に戻りたくないさ。ずるい人間よ。お前は自分の力で家まで帰れよ。」
 騎手が馬に鋭く声をかけると、馬は黒い雲のような砂まじりのほこりをまきあげて走り去りました。
 長い事、ごうつくばりのカラベックは馬を見送っていました。
 それから砂漠のある場所を掘りました。そしてちがう場所も掘りました。
 でも、もちろん、一粒の金も見つかりませんでした。
 ごうつくばりのカラベックはのろのろと歩いていました。
 1日目が過ぎ、2日目が過ぎました。3日目に砂漠に黒い砂嵐がおきました。そして、黒い砂嵐はごうつくばりのカラベックと人々の悲しみを一緒に
 永久にカラクム砂漠の中に埋めてしまいました。

 村では、皆が、美しいグリイ・アサリイと若い騎手の結婚式を祝っていました。
 その後、村の人達は夕方になると集まってきては、ひと時を楽しむのでした。
 金の雨の事や機敏なヤルティ・グロックの事など、良く話題になりましたとさ。

 


   ヤルティ・グロック(トルクメニスタンの民話)
    絵          V・トルブコービッチ
    聞き取りによる編集  A・アレクサンドローワ
                     M・トゥベローフスキ
    出版  モスクワ  1975
    翻訳  みずっち82
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感想 3

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みんなの感想(3件)

Mutukcha
2024.06.16 Mutukcha

とても面白かった、ありがとうございます!

解除
taku
2024.06.15 taku

久しぶりに民話を読んで面白かった、教育的な側面もあり楽しめました。

解除
marie
2024.06.15 marie

  ごうつくばりのカラベック、砂漠へ置き去りにされる様までの描写がイキイキと描かれていて、民話らしい説得感に満ち溢れていました。長い作品、一気に読める翻訳でした。とても躍動感があり説得力に満ち溢れ楽しい作品でした。

解除

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