ReaL -墓守編-

千勢 逢介

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第二章・墓標に刻む者

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   Ⅵ


 ビルの合間を走る<アウターガイア>の道路を見回しながら、勇三は霧子のあとについていった。
 レギオンの襲撃を警戒しての行動ではあったが、彼の興味はすぐに別のものへと移っていた。

「なあ」勇三が霧子に声をかける。
「なんだ? いいから油断するなよ。ここはもうレギオンどもの巣穴なんだ」
「いや、監視カメラがさ。さっきからどこにも見当たらないんだよ」
「おまえ、そんなもの探してるのか?」霧子が驚きつつも呆れたような表情で振り返り、ため息とともに続ける。「監視カメラならそこらじゅうにあるよ……いや、正確にはカメラによる録画じゃなくて、あるデータを映像情報に変換したもので――」
「待った」警戒した勇三が言葉を遮る。「また難しい話か?」
「たぶんな。というより、わたしも詳しくは理解できていないが。ニューなんとかって物質を使った不可視の透過式立方体グリッドによる空間解析とか……」

 あごに指先を添えて解説する霧子を見て、勇三は頭を抱えたくなってきた。
 これから<グレイヴァー>として生きていくために、あとどれだけの知識を叩き込まなければならないのか。

「ふたりともお喋りはそこまでだ」イヤホンの中からトリガーの声が割って入る。「もうじきレギオンの群れとぶつかる頃だ。正確な位置まではわからんが、十分前までその道の先に複数の反応があった」

 レギオン……それこそがこの憂鬱の原因だ。
 陰気な思いを抱えたまま歩いていると、正面の街灯に照らされて目の前に障害物があらわれた。

 それは道を塞ぐようにして並べられた車両だった。ふたり乗りの軽自動車やトラック、中には大型バスが横転した状態で置かれている。

「なんだこれ」
「迂回するぞ」

 霧子が緊張感のにじんだ声で言ったが、勇三はそれを無視するように足を進めた。

「レギオンがいるのはこっちなんだろ。なら遠回りしなくてもいいじゃねえか」
「おい、よせ!」
「勇三、行くな」トリガーも加わる。

 だがふたりが制止したときには、勇三は車両同士にできたわずかな隙間に身を滑り込ませているところだった。ベストと帯革を身に着け、ライフルまで背負った状態で思うように身体が動かない。
 それでも彼は、人ひとりがやっと入れるだけの隙間に強引に身体を押し込んでいった。

 いつレギオンに襲われるかわからない緊張感、そして恐怖が、焦りを生んでいた。背後から霧子が追いすがろうとする気配も、かえって彼を急がせる要因となっていた。

「危ない!」

 霧子の声がするのと同時に、勇三は頭上を見上げた。バンパーに身体を押しつけていた乗用車の屋根越しに、隣接したビルの壁が迫っている。
 崩落だと気づくのと同時に、勇三はようやく車両の隙間から抜け出すことができた。
 いきおいそのままに倒れこんだ直後、すぐ後ろでなにか巨大なものが地面に叩きつけられる大音量があがる。

 巻き上がる土煙の向こう、伏せたまま振り返った先に巨大な影がそびえていた。
 レギオンか……そう思ってライフルを構えた勇三だったが、足元に転がってきた石つぶてを見てすぐに思い直した。

 はたして土煙が薄らいだ向こうにあらわれたのは、道を塞ぐがれきの山だった。
 車両を下地にコンクリートの直線的な面と部分的に飛び出した鉄骨が、一瞬のうちに高さ五メートルほどの壁を築いていたのだ。
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