ReaL -墓守編-

千勢 逢介

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第三章・血斗

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   Ⅱ


「はじめ」

 傍らにいるトリガーの静かな声を合図に、勇三は目の前の問題にとりかかった。

 四方をうちっぱなしのコンクリートに囲まれた寒々しい空間、目の前の台には、分解されたライフルが置いてあり、少し離れたところに鉛と銅の合金で生成された一発の弾丸と、それをおさめる湾曲した弾倉が置かれている。

 勇三はまず、ライフルの内部を形成するこまごまとした部分からとりかかった。
 機関部を組み上げ、所定の位置にはめ込んでいく。一週間前まではマニュアルと実物とを見比べ、よちよち歩きのような動きで行っていた作業も、全行程を頭に叩き込んだいまならスムーズに行うことができた。

 とはいえもともと細かい作業が苦手な勇三の手つきには、いまだにたどたどしさが残る。
 組み合わせた鉄筒を弾丸の通り道であるバレルと噛ませたときには、目標タイムの半分以上を費やしていた。すぐさま組み立てたばかりの銃身を置き、銃床部分にある廃莢機構の内部部品を押し込むようにセットしていく。

 ようやくライフルがいつもの見馴れた姿を取り戻したとき、制限時間はすでに秒読み段階に入っていた。弾倉に金色に輝く弾丸を押し込むと、ライフルに装填する。

 組み立てを終え、いきおいよく右手を挙げる。目標時間の二分に到達するまで、まだ数秒の余裕が残っていた。
 勇三はささやかな達成感を味わいながらライフルを見、それからトリガーを見た。

「やり直しだ」だがトリガーが言ったのはそれだけだった。
「どういうことだよ?」 
「言ったとおりの意味だ。それともいまの作業は完璧だったのか?」
「たぶん……」思わず気圧され、勇三の声が萎む。
「たぶん、なんて答えは無いぞ。あるのはイエスかノー、そのどちらかだけだ」

 睨みつけるような勇三に対してもトリガーの眼は理知的で冷静な色をたたえていた。

「ああ。もちろん」腹立ちまぎれに勇三は言った。「作業に間違いはなかった」
「だったら……」トリガーが指し示すようにライフルに鼻先を向ける。「撃ってみろ」

 勇三は下唇を舐めたあと、ゆっくりとライフルに手を伸ばした。

 勇三とトリガーがいたのは地下の射撃場だった。
 ライフルを置いていた台の向こう側、十数メートルほどの距離に人の上半身を象った射撃用の的が吊り下げられていた。

 右足を後ろに引いた勇三は、銃床を右肩にあてて頬をつけ、立射でライフルを構えた。照門と照星を合わせ、一直線上に標的をねめつける。一度ライフルをおろし、目を閉じて浅い呼吸を繰り返す。
 ふたたび照準を合わせると、より鮮明に標的をとらえることができた。この距離なら当てられる……勇三にはそんな確信があり、また短いながらもその確信を裏打ちできるだけの経験と自信があった。
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