ReaL -墓守編-

千勢 逢介

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第四章・エンド・オブ・ストレンジャーズ

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 高岡は静かにため息をついた。
 厄介なのはここからだ、なにせこの連中に頭を下げなければならないのだから。

「しかし対象の警戒心は強く、南北どちらの封鎖ポイントにも近づこうとしない。現在は包囲網の南側をうろつくにとどまり、大きく移動する様子もない。そこでこの作戦の早期遂行のため、<グレイヴァー>の助力を乞いたい」
「なるほどな」ふたたび口を開いたのは、あの傷痕の男だった。「要するにおれたちを魚釣りの餌にしたいってわけか」
「そうだ」高岡はそれだけ答えた。下手な言い訳が通用する相手ではないからだ。
「おい聞いたか、おまえら?」男が笑い飛ばす。「このこぎれいなスーツの兄ちゃんが、化け物の鼻先でケツを振ってみせろとさ!」

 室内はどっと笑いに包まれた。

「作戦の功労者には特別褒賞も別途追加する!」

 騒がしさが支配するなか、無駄だと知りながらも高岡は声を張り上げて続けた。
<アウターガイア>において、冗談や悪ふざけで<グレイヴァー>の右に出る者はいない。こいつらときたら、まるでスペイン統治時代の海賊さながらに下品で、陽気で、残虐だ。

「いいか、作戦はこうだ! 路地の角ごとにハンヴィーを待機させ、リレー方式でレギオンをひきつけて――」
「車を何台用意しようが関係ねえさ! おまえらはおれたちに尻拭いをしろっていうんだろ!」

 高岡がいくら声を高めても、<グレイヴァー>同士の茶化し合いは止まらなかった。それどころか、囃し立てる彼らの声には次第に怒りが混ざりはじめていた。
 高岡はこの依頼を上首尾に終えることを半ば諦めかけていた。少なくとも、連中の気が済むまでこの馬鹿騒ぎがおさまることは望めそうにもない。そもそも『こぎれいなスーツの兄ちゃん』をやっつけられる機会を、彼らがみすみす見逃すとは思えなかった。

 視界の隅でドアが開き、もうひとり誰かが入ってくるのが見えた。
 目の前の状況に手いっぱいで最初は取り合うつもりのなかった高岡だったが、その人物が誰だかわかって思わず息を呑んだ。
 彼と目が合い、相手もうなずいてみせる。
 周囲もその気配に気づいたのだろう、それまで騒ぎ立てていたならず者たちも少しずつ静まりかえっていく。

 集めた注目にも頓着せず、その人物は空いていた椅子に腰かけると、静かに挙手をした。
 高岡は嫌な予感しかしなかった。その相手が、いまここにいる誰よりも危険な存在だと知っていたからだ。かといって、いま彼にできることは相手の発言を促すことだけだったのだが。

「今回の仕事、わたしが引き受けよう」

 その人物、入江霧子は高岡から視線をはさないままそう言った。
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