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第六章・炎と水と
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このまま放っておこうか。啓二から視線を逸らしながら、勇三はそんな考えを抱いていた。自分に悪印象を抱かせれば、今後はあの同級生に付きまとわれずに済むかもしれない。
一度は線路沿いの道に向けかけた前輪を、しかし勇三はロータリーへと向けなおした。
「乗れよ」
バイクを停めた勇三は、ホルダーからはずしたヘルメットを啓二の胸元に突き出した。
いつかガールフレンドができたときに一緒にツーリングするため、と叔父が買ってくれたものだったが。最初に乗せたのがただの同級生、それも同性だと知っても、きっと彼は喜んでくれるだろう。
「ストラップは自分でなおせよ」
啓二は最初、差し出されたヘルメットをきょとんと見つめるだけだったが、すぐににっこりと笑ってそれを受け取り、バイクの後ろにまたがった。
「意外だな、てっきり見捨てられるかと思った」
「お望みならそうしてやろるよ。おまえは歩いて行け」
「つれないこと言うなって、勇三」
啓二が呼び方を自然に変えてきたので、勇三ははじめそのことに違和感をおぼえなかった。そしてそのことに気づいたあとも、不愉快には感じなかった。
そうして臨んだ試験を、勇三は無事に合格することができた。そして結果の通知日に集まった受験生のなかで啓二を見つけ、彼もまた合格したことを知った。その頃の中学ではほとんど授業が行わることもなく、顔を合わせる機会がまったくなかったため、久しぶりの再会だった。
その通知日に出会ったのが啓二の幼馴染である塩見広基と、広基と同じ中学に通う照輝彦だった。
広基は小学校卒業を機に啓二と離れて私立校に進学したものの、金銭的な事情からエスカレーター式の高校進学を断念していた。輝彦もまた、私立中学から同じ公立高校を受けていた。
勇三と輝彦は、啓二と広基というかつての友人同士のつながりで知り合ったのだった。
啓二はそれから中学校の垣根を越えて、卒業式も迎えないうちから暇さえあれば勇三たち三人を遊びに誘った。
もともと悪目立ちが過ぎ、これといって親しい友達もいなかった勇三だったが、どういうわけか啓二の呼びかけは邪険にできなかった。
そうした出会いから半年足らずのいま、勇三は輝彦に対してはじめて戸惑いを感じていた。
あのとき、違う決断を下していたら……啓二を見捨てて友人同士になっていなかったら。
そうすれば輝彦の正体を知らずに済んだのかもしれない。そもそも夜の繁華街で霧子と出会うこともなく、自分の足元に存在する広大な地下世界のことも知らずにいられたのかもしれない。
<グレイヴァー>になった勇三は、いまそうした偶然を考えずにはいられなかった。
一度は線路沿いの道に向けかけた前輪を、しかし勇三はロータリーへと向けなおした。
「乗れよ」
バイクを停めた勇三は、ホルダーからはずしたヘルメットを啓二の胸元に突き出した。
いつかガールフレンドができたときに一緒にツーリングするため、と叔父が買ってくれたものだったが。最初に乗せたのがただの同級生、それも同性だと知っても、きっと彼は喜んでくれるだろう。
「ストラップは自分でなおせよ」
啓二は最初、差し出されたヘルメットをきょとんと見つめるだけだったが、すぐににっこりと笑ってそれを受け取り、バイクの後ろにまたがった。
「意外だな、てっきり見捨てられるかと思った」
「お望みならそうしてやろるよ。おまえは歩いて行け」
「つれないこと言うなって、勇三」
啓二が呼び方を自然に変えてきたので、勇三ははじめそのことに違和感をおぼえなかった。そしてそのことに気づいたあとも、不愉快には感じなかった。
そうして臨んだ試験を、勇三は無事に合格することができた。そして結果の通知日に集まった受験生のなかで啓二を見つけ、彼もまた合格したことを知った。その頃の中学ではほとんど授業が行わることもなく、顔を合わせる機会がまったくなかったため、久しぶりの再会だった。
その通知日に出会ったのが啓二の幼馴染である塩見広基と、広基と同じ中学に通う照輝彦だった。
広基は小学校卒業を機に啓二と離れて私立校に進学したものの、金銭的な事情からエスカレーター式の高校進学を断念していた。輝彦もまた、私立中学から同じ公立高校を受けていた。
勇三と輝彦は、啓二と広基というかつての友人同士のつながりで知り合ったのだった。
啓二はそれから中学校の垣根を越えて、卒業式も迎えないうちから暇さえあれば勇三たち三人を遊びに誘った。
もともと悪目立ちが過ぎ、これといって親しい友達もいなかった勇三だったが、どういうわけか啓二の呼びかけは邪険にできなかった。
そうした出会いから半年足らずのいま、勇三は輝彦に対してはじめて戸惑いを感じていた。
あのとき、違う決断を下していたら……啓二を見捨てて友人同士になっていなかったら。
そうすれば輝彦の正体を知らずに済んだのかもしれない。そもそも夜の繁華街で霧子と出会うこともなく、自分の足元に存在する広大な地下世界のことも知らずにいられたのかもしれない。
<グレイヴァー>になった勇三は、いまそうした偶然を考えずにはいられなかった。
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