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第六章・炎と水と
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重苦しい生活を送るある日の放課後、勇三は実家近くの駅前で叔父と落ち合い、馴染みのバイクショップに向かっていた。
<アウターガイア>で横倒しになったバイクは運転に大きな支障こそなかったものの、車体のあちこちに傷ができていた。自分で手を加えることも考えたが、目に見えない部分が故障しているかもしれない。
表面を取り繕う行為は後ろ暗く感じたし、なによりディーラー店に勤め、車やバイクを問わず毎日何十台もの商品を扱っている叔父にかかれば、素人の塗装なぞすぐに見破られてしまうだろう。ならばいっそ、と、勇三は<アウターガイア>に関わることを伏せつつ、横転してバイクに傷を作ってしまったことを叔父たちに打ち明けた。
叔母は実家に出向いた勇三の話に顔を真っ青にしたが、叔父はいつもの穏やかさを崩すことなくゆっくりと頷いただけだった。彼もバイク乗りである以上、事故という一種の「通過儀礼」があることを心得ていたのだ。もっとも勇三の場合、少々変わった状況ではあったが。
叔父はすぐに勇三の愛車を買った店に連絡をすると、バイクの修理を頼んだ。それがいま、ふたりが向かっているバイクショップの<ハイウェイスター>だった。
「ああ、速水さん。お待ちしていました」
そう言って出迎えてくれたのは社長の島津だった。社長、とは言ってもオイルにまみれたツナギ姿が似合う生粋のエンジニアといった風体で、特に<三井モータース>社のバイクについては抜群の知識と技術を持っていた。聞けばメーカーの工場で派遣社員として働いていたが、あるとき一念発起して店を興したのだという。
店の立ち上げを手伝い、いまは専務として事務仕事に就いているのは共同経営者の木島という男性で、<ハイウェイスター>はこのふたりで切り盛りしていた。
木島よりも社長の島津のほうが歳下で、その差は親子ほども離れている。それでも親友のように対等に笑い合うふたりを見た勇三は、どんな時間を一緒に過ごせばあのような仲になれるのだろうと疑問を抱いた。そしてその疑問は、自然と自分と輝彦との関係にもつながっていった。
「念のため、エンジンとかブレーキも確認しておきましたよ。しかしまあ、ずいぶん派手に転んだもんですね」からからと笑いながらであったが、島津は高校生である勇三にも敬語を使った。
「お世話をおかけしました」
頭を下げたあと背後を振り返ると、叔父はガレージの入り口に立っていて、このやりとりに黙って耳を傾けているようだった。
それから島津は手をくわえた箇所をひとつずつ丁寧に説明してくれた。あらためればあらためるほど、彼が腕のいいエンジニアであることがわかる。贔屓目抜きに見ても愛車は元通り……いや、それ以上の状態で補修されていた。
<アウターガイア>で横倒しになったバイクは運転に大きな支障こそなかったものの、車体のあちこちに傷ができていた。自分で手を加えることも考えたが、目に見えない部分が故障しているかもしれない。
表面を取り繕う行為は後ろ暗く感じたし、なによりディーラー店に勤め、車やバイクを問わず毎日何十台もの商品を扱っている叔父にかかれば、素人の塗装なぞすぐに見破られてしまうだろう。ならばいっそ、と、勇三は<アウターガイア>に関わることを伏せつつ、横転してバイクに傷を作ってしまったことを叔父たちに打ち明けた。
叔母は実家に出向いた勇三の話に顔を真っ青にしたが、叔父はいつもの穏やかさを崩すことなくゆっくりと頷いただけだった。彼もバイク乗りである以上、事故という一種の「通過儀礼」があることを心得ていたのだ。もっとも勇三の場合、少々変わった状況ではあったが。
叔父はすぐに勇三の愛車を買った店に連絡をすると、バイクの修理を頼んだ。それがいま、ふたりが向かっているバイクショップの<ハイウェイスター>だった。
「ああ、速水さん。お待ちしていました」
そう言って出迎えてくれたのは社長の島津だった。社長、とは言ってもオイルにまみれたツナギ姿が似合う生粋のエンジニアといった風体で、特に<三井モータース>社のバイクについては抜群の知識と技術を持っていた。聞けばメーカーの工場で派遣社員として働いていたが、あるとき一念発起して店を興したのだという。
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「念のため、エンジンとかブレーキも確認しておきましたよ。しかしまあ、ずいぶん派手に転んだもんですね」からからと笑いながらであったが、島津は高校生である勇三にも敬語を使った。
「お世話をおかけしました」
頭を下げたあと背後を振り返ると、叔父はガレージの入り口に立っていて、このやりとりに黙って耳を傾けているようだった。
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