ReaL -墓守編-

千勢 逢介

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第六章・炎と水と

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 不思議なひとときだった。
 世間には知られてていない異世界のような穴ぐらの奥底で、毎日のように顔を合わせる友人と並んで銃を構えている。まるで夢か幻のようでありながら、どこか現実とは切り離されていないような感覚。

 いつしか勇三は口角を持ち上げていた。この状況において笑える自分自身を奇妙に感じ、頭がどうかしてしまったのかとまで考えたが、否定しようとすればするほど笑みは打ち消されるどころか、ますます大きくなっていった。
 同時に下腹がざわつくような高ぶりも感じていた。
 怒りと落胆、失望に恐怖、安堵と、そして歓喜。そんな感情の坩堝から最後にあらわれたのは、言い知れぬ高揚感だった。

「時間は……」

 思わず上ずりそうになった声を、勇三は咳払いをして正した。深呼吸を繰り返し、勇三はあらためて輝彦のほうを向いた。
 輝彦もまた、勇三に視線を送っていた。

「時間はきっとかかると思う。なんてったって、おれみたいにおかしな立場にいる人間が身近にいるなんて思ってもみなかったからな。正直、いまだに信じられねえよ」

 輝彦は無言のまま見つめ返してくるばかりだった。いまやその顔は武器の照準から離れ、顔をこちらに真っ直ぐ向けられていた。

 勇三は続けた。

「でも、なっちまったもんも知っちまったもんもどうしようもねぇだろ。あとは拒むか、受け入れるかのどっちかだと思う」勇三は視線を逸らすと、ふたたび照準を覗きこんだ。敵を警戒しての行動というより、照れ臭さを感じたての行動だった。「そのどっちかしか無いなら、おれは受け入れたいと思うよ。輝彦、おまえとのことだからな」
「勇三……」

 耳と頬がひどく熱い。いましがた口にしたことを、我ながら気恥ずかしくも感じている。けれども、友人がいまどんな表情をしているかを見ることができなくても、少なくとも自分が言ったことを後悔はしていなかった。
 そんな勇三が耳にしたのは、どこか人を小馬鹿にするように漏れ聞こえてきた笑い声だった。思わず見ると、輝彦は笑いを噛み殺すように口元を歪めていた。

「おまえ、よくそんな恥ずかしいこと言えるな」
「な――」
「けど」と、輝彦は思わず気色ばむ勇三を遮ると、「嬉しいよ。おれもこんな世界でひとりぼっちだと思ってたからさ」

 次いで輝彦が向けた笑みは打って変わって、相手の怒気を抜くように柔和なものだった。

「というか、ちゃんと言っただろ」
「なにをだよ?」
「おれはおまえの味方だって。それだけは変わらないよ」

 この言葉に、勇三は一瞬きょとんとしてしまった。不機嫌さの残滓のように浮いていた眉間のしわは消え、口の端には笑みが浮かんでいた。
 自分の感情の在処がいよいよわからなくなる。わかっていることと言えば、輝彦が言ったように、彼は自分の味方であること。それから、この友人相手に理詰めでは敵わないことぐらいだった。

「そういや、そうだったな」

 どこか脱力感をおぼえながら、勇三が言う。

 暗闇の奥から野獣のような遠吠えが聞こえたのは、そのときだった。
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