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第三章 二見くんの好きなところ。
梅雨
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本格的に梅雨入りをした週末、二見くん以外の住人たちはそれぞれに出かけていた。昼をすぎて、私も出かける準備を整えていた。安曇野で一番大きなショッピングモールへと買い物に行くつもりだ。
今晩は夕食に、あずみの全員で集合する約束がある。
今日は「きなこカレー」の日だからだ。
私が作った創作豆カレーをあずみのみんなで食べる日。
私が初めてみんなにカレーを振舞った日が第二日曜日だった。だから椿ちゃんが毎月、第二日曜日はみんなでカレーを食べる日にしようと提案してくれて、全員の承諾を得て採用された。
「きなこの豆料理の日」ではないのが惜しいところだ。
私の豆創作チャレンジングを何でも味見してくれるのは、二見くんだけである。しかし、豆カレーに限定して言えば、高瀬さんいわく、勝率は8割だという。
だから高瀬さんもきなこカレーの日に賛成して、今日も参加してくれる予定だ。
きなこカレーの日、なぜかあずみのは朝から人がいないことが多い。なぜかなと思っていたら、私がカレーを作る代わりに、みんなのおすすめ豆お土産を持ち寄ってくれるからだ。
みんな朝から出かけて、何か豆にちなんだものを買って帰ってきてくれる。カレーのお代と言ってお金を支払われるより、よっぽど手間がかかっている。その心遣いが好きだった。
だから私はきなこカレーの日に、初チャレンジング豆料理は出さないようにしている。過去に作ったことがあって、まあまあ、よりも良い評価が私の中で出ているカレーだけを作る。
さすがに、二見くんが二杯目にいけないようなものは出さないようにする。それが私の、心遣いだ。
自室で線香を上げて出かける用意を終えた私は、しとしと雨が降る窓の外を眺めながらリビングへ向かう。
リビングへでは、普段スウェットでうろついている二見くんが、お出かけする服を着て立っていた。二見くんはきなこカレーの日に豆菓子専門店「豆歩」で何か買ってきてくれることが多い。今日も密かに楽しみにしている。
「二見くん、お出かけですか?」
「……うん、きなこも?」
「今日はちょっと遠いですがショッピングモールに行こうと思っています」
二見くんの猫目が少しだけ大きくなった。普段なら私は近所のスーパーに買い出しに行く。特別な用事があると伝わってしまっただろう。
「荷物多くなる感じ……?」
「ショッピングモールの中にあるホームセンターに行くつもりでして。それに今日はカレーの日ですから、そうなるだろうと思っています」
「……タクシーで行くんだよね?」
「もちろんです」
ぽんぽんと質問を重ねた二見くんが、ふと縁側の外に目をやった。
「雨だよね」
「福さん風に言うなら、良い雨です」
「そう、かな」
何か言いかけたような二見くんは、結局それを飲み込んでしまった。
「……気をつけてね」
「ありがとうございます、二見くんも道中お気をつけて」
二見くんは自室へ引き上げて行った。私はスマホでタクシーの手配を済ませ、出かける前にリビングで戸締りを確認する。すると再び二見くんが戻って来て、私の前にやってきた。
「忘れ物ですか?」
「いや、その」
二見くんは私の前に立って、何かを言い淀む。彼は沈黙が長い。でも、何かを一生懸命、言おうとしてくれているのがわかる。だから私は、この沈黙の次にある言葉を楽しみにしてしまう。
縁側の外から、しとしと梅雨の音がする。雨音が響く静かなリビングで、二見くんがやっと口を開いた。
「雨だから……車で送ろうか?」
思わず頬がふっと軽やかに上がってしまった。
二見くんは一旦どこかに行って、また戻ってきて、何かを言い淀む。その先には必ず、彼は気遣いをくれる。その姿から、彼が何かを、がんばっているのが伝わってくる。
そうやって彼が、一歩がんばる姿を見て私はいつも、ほっこりしてしまう。
二見くんの「宿題」はたぶん、ここにあるのだろうと予想している。
私は二見くんの控えめな申し出に「助かります」と笑顔で答え、タクシーをキャンセルした。
今晩は夕食に、あずみの全員で集合する約束がある。
今日は「きなこカレー」の日だからだ。
私が作った創作豆カレーをあずみのみんなで食べる日。
私が初めてみんなにカレーを振舞った日が第二日曜日だった。だから椿ちゃんが毎月、第二日曜日はみんなでカレーを食べる日にしようと提案してくれて、全員の承諾を得て採用された。
「きなこの豆料理の日」ではないのが惜しいところだ。
私の豆創作チャレンジングを何でも味見してくれるのは、二見くんだけである。しかし、豆カレーに限定して言えば、高瀬さんいわく、勝率は8割だという。
だから高瀬さんもきなこカレーの日に賛成して、今日も参加してくれる予定だ。
きなこカレーの日、なぜかあずみのは朝から人がいないことが多い。なぜかなと思っていたら、私がカレーを作る代わりに、みんなのおすすめ豆お土産を持ち寄ってくれるからだ。
みんな朝から出かけて、何か豆にちなんだものを買って帰ってきてくれる。カレーのお代と言ってお金を支払われるより、よっぽど手間がかかっている。その心遣いが好きだった。
だから私はきなこカレーの日に、初チャレンジング豆料理は出さないようにしている。過去に作ったことがあって、まあまあ、よりも良い評価が私の中で出ているカレーだけを作る。
さすがに、二見くんが二杯目にいけないようなものは出さないようにする。それが私の、心遣いだ。
自室で線香を上げて出かける用意を終えた私は、しとしと雨が降る窓の外を眺めながらリビングへ向かう。
リビングへでは、普段スウェットでうろついている二見くんが、お出かけする服を着て立っていた。二見くんはきなこカレーの日に豆菓子専門店「豆歩」で何か買ってきてくれることが多い。今日も密かに楽しみにしている。
「二見くん、お出かけですか?」
「……うん、きなこも?」
「今日はちょっと遠いですがショッピングモールに行こうと思っています」
二見くんの猫目が少しだけ大きくなった。普段なら私は近所のスーパーに買い出しに行く。特別な用事があると伝わってしまっただろう。
「荷物多くなる感じ……?」
「ショッピングモールの中にあるホームセンターに行くつもりでして。それに今日はカレーの日ですから、そうなるだろうと思っています」
「……タクシーで行くんだよね?」
「もちろんです」
ぽんぽんと質問を重ねた二見くんが、ふと縁側の外に目をやった。
「雨だよね」
「福さん風に言うなら、良い雨です」
「そう、かな」
何か言いかけたような二見くんは、結局それを飲み込んでしまった。
「……気をつけてね」
「ありがとうございます、二見くんも道中お気をつけて」
二見くんは自室へ引き上げて行った。私はスマホでタクシーの手配を済ませ、出かける前にリビングで戸締りを確認する。すると再び二見くんが戻って来て、私の前にやってきた。
「忘れ物ですか?」
「いや、その」
二見くんは私の前に立って、何かを言い淀む。彼は沈黙が長い。でも、何かを一生懸命、言おうとしてくれているのがわかる。だから私は、この沈黙の次にある言葉を楽しみにしてしまう。
縁側の外から、しとしと梅雨の音がする。雨音が響く静かなリビングで、二見くんがやっと口を開いた。
「雨だから……車で送ろうか?」
思わず頬がふっと軽やかに上がってしまった。
二見くんは一旦どこかに行って、また戻ってきて、何かを言い淀む。その先には必ず、彼は気遣いをくれる。その姿から、彼が何かを、がんばっているのが伝わってくる。
そうやって彼が、一歩がんばる姿を見て私はいつも、ほっこりしてしまう。
二見くんの「宿題」はたぶん、ここにあるのだろうと予想している。
私は二見くんの控えめな申し出に「助かります」と笑顔で答え、タクシーをキャンセルした。
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