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第一章 風子と小さなご褒美
占い師ミカミカ
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「彼氏のユン君にお金をプレゼントしようと思ってるんだけど、どう思います?ミカミカさん」
和歌山駅直結のビル内にある占い館で、私は手相占い師のミカミカさんに聞いた。占い館には多種多様な占い師のラインナップブースがあって、好きなところを選んで入れる。
ミカミカさんのブースは一番奥の明るい窓側。
テーブルを挟んで向かい合う私の手を取りながら、彼女はゆっくり質問した。
「風子ちゃんは25歳やったなぁ。ユン君とはどうやって出会ったんや?」
ミカミカさんは明るいショートボブパーマの60代女性で、いつもシックな黒ワンピを着ている。見るからに怪しく水晶を覗いたり、呪い師みたいな装束を着てもいないところが信用できる。私は答えた。
「ユン君とはマチアプ、あ、マッチングアプリです。そこで出会ったんですけど、彼は韓国在住で。今度日本に来てくれるって話で盛り上がってて」
実はユン君とは実際に顔を合わせたことがない。
マッチングしてすぐ付き合うことになり、三ヶ月前から毎日ラインで連絡を欠かさない。会いたくなる夜にはビデオ通話で話していた。
スマホでだらだら思いつくまま愚痴を垂れ流してしまう私に、彼はたくさんかまってくれる。毎日好きだよって言ってくれるユン君は、優しい彼氏だ。
優しくしてくれる彼に、私も優しさを渡したい。ミカミカさんは眉間に皺を寄せる。
「彼氏は今年、金に縁がなさそうやなぁ」
「そう!そうなんです!」
ずばり言い当てるミカミカさんに、私は前のめった。
「彼はカフェオーナーで、生活が厳しいらしくて」
「飲食店経営は大変やからな」
「そうなんです。私も実家が地味な喫茶店をやっているので、理解できるんですよ……」
ミカミカさんは私の言いたいことをよくわかってくれている。この先回り感が、さすがの占い師なのだ。だから迷ったときは彼女の意見を聞きたくなる。
15分、3000円の助言。
彼女の助言は、人生がどこに行くのかわからないまま毎日働く私を支えてくれる、ご褒美の一つだ。ミカミカさんは、私の手相をじっくり見て言った。
「風子ちゃんは今、新しい出会い線がええ感じやで。古い縁とは、今ちょっと遠いわ」
「やっぱり……友だちと今、ちょっとこう……波長が合わない感じなんですよね」
地元の群馬県から遠く離れた和歌山県で大学生活を過ごした私は、地元に帰らずに和歌山市で就職した。大学で仲の良かった女友だちたちは、各々地元へ戻り、自然と連絡が減っていた。
連絡しても既読スルーされることがしばしばだ。
彼女たちに悪気はない。純粋に、仕事や彼氏や遊びに忙しいだけ。
大学生時代をともに過ごした彼女たちは、また会おうねと快く言ってくれる。
だが、物理的な距離と仕事の都合で、なかなか会えないのが現状だ。彼女たちが私のことを嫌いになったわけではないのはわかっている。
しかし、私には既読スルーなのにSNSだけが更新されているのを見ると、胸がスカスカする。そのスカスカが胸を通る度に──どろっとしたものが胃を重くする。だからどうしても、連絡するのを躊躇してしまう。
彼女たちみたいに私も彼氏をつくればきっと、このどろっと感がなくなるはずだ。私も友だちに頼らないで自立しなくてはと思い立ち、ユン君とマッチングしたのだ。
私の手の平を伸ばしたり擦ったりしながら観察するミカミカさんが、清々しい声で言った。
「風子ちゃん、今、男運最高や。迷ったときは、どんと突き進んだ方がええで」
「え、うそ、本当ですか?」
「今年は運命の人と出会う年やで。手相が意気揚々と語ってるわ」
「私、ふっきれました!ありがとうございます、ミカミカさん!」
私はミカミカさんの痩せた手をきゅっと握り返してから立ち上がった。何度もお礼を言いながら占い館を後にした。
飲食店が立ち並ぶ地下の駅ナカを歩きながら、雑踏の中でスマホですぐにユン君に電話をした。彼は日本語がペラペラで優秀。さらに声が高くて可愛いところがお気に入りだ。
「もしもしユンくん?お金、用意できたよ。今からプレゼントするね!」
ユン君のやったー!という無邪気な声が耳にくすぐったい。電話を切った私は、嬉々としてお金を振り込んだ。
彼が足りないと言っていた、往復飛行機代と宿泊費、日本での滞在費込みの15万円。
貯蓄なんてリッチなものは持ち合わせていないので、ユン君にプレゼントするお金はリボ払いで借りた。
社会人になって知った「魔法のリボ払い」はすごい。
どんなにたくさんお金を借りても、毎月返す額が一定で変わらない。
安心安全、令和最強の錬金術だとスマホのどこを見ても広告が入る。友だちもみんな使っていて、特に怖い目にあったことはないと聞いたので、使うようになった。
リボ払いの総額は、今回の借り入れで60万に到達した。
金額だけ聞くと驚くが、なんとかなる。
だって私は和歌山市のカフェでしっかり働いているから、給料は毎月きちんと入る。
『ありがとう風子。大好き!』
ユン君からのライン返信に口端が緩む。満足感でいっぱいのままワンルームの自宅に帰った。
ユン君に会うための15万円は、自分への特大のご褒美だ。
ユン君が来日するその日、私は彼が乗った飛行機が到着する関西国際空港へ迎えに行った。けれど、ユン君は飛行機から降りて来なかった。
「あれ?どうして……?」
スマホはブロックされて、連絡が途絶えた。
これは、ロマンス詐欺ってやつだったらしい。
和歌山駅直結のビル内にある占い館で、私は手相占い師のミカミカさんに聞いた。占い館には多種多様な占い師のラインナップブースがあって、好きなところを選んで入れる。
ミカミカさんのブースは一番奥の明るい窓側。
テーブルを挟んで向かい合う私の手を取りながら、彼女はゆっくり質問した。
「風子ちゃんは25歳やったなぁ。ユン君とはどうやって出会ったんや?」
ミカミカさんは明るいショートボブパーマの60代女性で、いつもシックな黒ワンピを着ている。見るからに怪しく水晶を覗いたり、呪い師みたいな装束を着てもいないところが信用できる。私は答えた。
「ユン君とはマチアプ、あ、マッチングアプリです。そこで出会ったんですけど、彼は韓国在住で。今度日本に来てくれるって話で盛り上がってて」
実はユン君とは実際に顔を合わせたことがない。
マッチングしてすぐ付き合うことになり、三ヶ月前から毎日ラインで連絡を欠かさない。会いたくなる夜にはビデオ通話で話していた。
スマホでだらだら思いつくまま愚痴を垂れ流してしまう私に、彼はたくさんかまってくれる。毎日好きだよって言ってくれるユン君は、優しい彼氏だ。
優しくしてくれる彼に、私も優しさを渡したい。ミカミカさんは眉間に皺を寄せる。
「彼氏は今年、金に縁がなさそうやなぁ」
「そう!そうなんです!」
ずばり言い当てるミカミカさんに、私は前のめった。
「彼はカフェオーナーで、生活が厳しいらしくて」
「飲食店経営は大変やからな」
「そうなんです。私も実家が地味な喫茶店をやっているので、理解できるんですよ……」
ミカミカさんは私の言いたいことをよくわかってくれている。この先回り感が、さすがの占い師なのだ。だから迷ったときは彼女の意見を聞きたくなる。
15分、3000円の助言。
彼女の助言は、人生がどこに行くのかわからないまま毎日働く私を支えてくれる、ご褒美の一つだ。ミカミカさんは、私の手相をじっくり見て言った。
「風子ちゃんは今、新しい出会い線がええ感じやで。古い縁とは、今ちょっと遠いわ」
「やっぱり……友だちと今、ちょっとこう……波長が合わない感じなんですよね」
地元の群馬県から遠く離れた和歌山県で大学生活を過ごした私は、地元に帰らずに和歌山市で就職した。大学で仲の良かった女友だちたちは、各々地元へ戻り、自然と連絡が減っていた。
連絡しても既読スルーされることがしばしばだ。
彼女たちに悪気はない。純粋に、仕事や彼氏や遊びに忙しいだけ。
大学生時代をともに過ごした彼女たちは、また会おうねと快く言ってくれる。
だが、物理的な距離と仕事の都合で、なかなか会えないのが現状だ。彼女たちが私のことを嫌いになったわけではないのはわかっている。
しかし、私には既読スルーなのにSNSだけが更新されているのを見ると、胸がスカスカする。そのスカスカが胸を通る度に──どろっとしたものが胃を重くする。だからどうしても、連絡するのを躊躇してしまう。
彼女たちみたいに私も彼氏をつくればきっと、このどろっと感がなくなるはずだ。私も友だちに頼らないで自立しなくてはと思い立ち、ユン君とマッチングしたのだ。
私の手の平を伸ばしたり擦ったりしながら観察するミカミカさんが、清々しい声で言った。
「風子ちゃん、今、男運最高や。迷ったときは、どんと突き進んだ方がええで」
「え、うそ、本当ですか?」
「今年は運命の人と出会う年やで。手相が意気揚々と語ってるわ」
「私、ふっきれました!ありがとうございます、ミカミカさん!」
私はミカミカさんの痩せた手をきゅっと握り返してから立ち上がった。何度もお礼を言いながら占い館を後にした。
飲食店が立ち並ぶ地下の駅ナカを歩きながら、雑踏の中でスマホですぐにユン君に電話をした。彼は日本語がペラペラで優秀。さらに声が高くて可愛いところがお気に入りだ。
「もしもしユンくん?お金、用意できたよ。今からプレゼントするね!」
ユン君のやったー!という無邪気な声が耳にくすぐったい。電話を切った私は、嬉々としてお金を振り込んだ。
彼が足りないと言っていた、往復飛行機代と宿泊費、日本での滞在費込みの15万円。
貯蓄なんてリッチなものは持ち合わせていないので、ユン君にプレゼントするお金はリボ払いで借りた。
社会人になって知った「魔法のリボ払い」はすごい。
どんなにたくさんお金を借りても、毎月返す額が一定で変わらない。
安心安全、令和最強の錬金術だとスマホのどこを見ても広告が入る。友だちもみんな使っていて、特に怖い目にあったことはないと聞いたので、使うようになった。
リボ払いの総額は、今回の借り入れで60万に到達した。
金額だけ聞くと驚くが、なんとかなる。
だって私は和歌山市のカフェでしっかり働いているから、給料は毎月きちんと入る。
『ありがとう風子。大好き!』
ユン君からのライン返信に口端が緩む。満足感でいっぱいのままワンルームの自宅に帰った。
ユン君に会うための15万円は、自分への特大のご褒美だ。
ユン君が来日するその日、私は彼が乗った飛行機が到着する関西国際空港へ迎えに行った。けれど、ユン君は飛行機から降りて来なかった。
「あれ?どうして……?」
スマホはブロックされて、連絡が途絶えた。
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