美少女エルフと夢世界転移~Re:Frain~

したらば

文字の大きさ
4 / 29
勇作編■辟易

3.社畜

しおりを挟む



「おいアンタ!
  なぁーーーにしてくれるんや、あぁ!?」




薄暗いホールに響き渡る、中年男性の怒号。

50人ほどのゲストによる、賑やかに咲いていた談笑の花が、一瞬にしてしおれた。

景気付けに余興の歌を披露しようと準備していた若い男性グループも、悲しそうに作業の手を止める。

そういや、厨房の頃に担任の体育教師の──名前何だっけ、が黒板を叩きながら怒鳴りつける事が、日常的にあったな。
別居離婚中のゴリラみたいな哀愁漂う顔のオッサンだったよなあ...。


勇作は自分に対して怒声を浴びせる中年男性──なんだこのハゲ親父、を尻目にそんなことを考えながら、直立不動のまま、天井から垂れる消灯中のシャンデリアを見つめていた。


「染みになっとるやろが、どう落とし前付けてくれるんや!?あぁん!?」


クレームの常套句のような文言を見事に再現し、ハゲ親父が続ける。

氏が怒るのも、無理はない。

先程までは、可愛い姪っ子の晴れ姿に涙し、彼女の両親──実弟夫婦と、他愛のない思い出話をして盛り上がっていた最中さなか
突然頭上から降り注いだ血のような雨により、何もかもが台無しになった。スーツも新調したばかりのイタリア製だったのに!



そんなことは知る由もないが、当事者である勇作は、マニュアル通り弁明せずにひたすら謝罪の意を示すしかなかった。

現場責任者がすぐさま仲裁に入り、静かに男性とホールを去ると、静まり返っていた会場に再び少しずつ花が咲き出した。



「水島さん、ちょっと」



会場が落ち着いたところで、勇作は同僚の──一年先輩の逢沢さんに呼ばれ、バックヤードに戻った。

「さっきのは水島さんが悪いですよ!
  ワインを掛けてしまったのは許されないミスではありますが、水島さんの対応がもっと早ければ、あのお客様はあそこまで怒ることもなかったんです!」

ごもっとも過ぎて、何も言い返せない。
そりゃそうだ。


逢沢 美鈴。

俺がこの会社──オリエンティンホテル専属の婚礼スタッフ派遣会社『キャストイン』に入社して、はや一年。

一つ上の先輩にあたる彼女は、俺の教育担当として日々の業務を、OJTと呼ばれる、実務を行いながら仕事を覚えるトレーニング方法を用いて細かく教えてくれている。

見た目は相当若そうだが、女性に年齢を聞くのはタブーだとかいう訳の分からない日本の常識のせいで、詳しくは知らない。

高校を卒業してすぐに入ってきているはずだから、下手すると俺より一回り近く年下なのではないだろうか。


何よりも目を引くのは、彼女のその外見だ。


透き通る白い肌、主張の少ない細めの体つきに、スラリと伸びた手足。
艶のある黒く長い髪の毛をお団子にして頭の後ろで束ねている。

そして極めつけは──その瞳。
薄灰色がかった大きな双眼。
目が合った者を皆とりこにしてしまいそうな、そんな日本人離れした綺麗な色をしている。

噂によると、美鈴はイギリスだかフランスだかのクオーターだそうで、目鼻立ちのバランスも納得だ。


そんな美貌を持つ彼女だが、周りからは若干距離を置かれているようにも見える。

何故だろう、どこか透明な薄い壁が彼女の四方を取り囲んでいて、一定距離以上は近付けまいというオーラを放っている、そんな気がする。

仕事も出来るし、気遣いも完璧だ。
なのにそう思えるのは、彼女が異国の人に見えるからだろうか。




タイムカードを切ってホテルを後にする。

昼間は人でごった返す駅前も、かなり疎らまばらだ。
もうすっかり遅くなってしまった。

結局あの披露宴の後、現場責任者に呼ばれて概要を事細かに説明し、謝罪をした。

「失敗は誰にでもあります。ただ、その失敗をどう生かすかは水島さん、あなた次第です」

現場責任者の壮年の男性─佐々木さんは、表情ひとつ変えることもなく、ただ少しだけ憐れむようにそう言うと、二度と同じミスをしないように、とだけ付け加え、業務マニュアルを俺に手渡して出て行った。
恐らくは上司に報告に行ったのであろう。

何も言わずにただかたわらで見守っていた美鈴も、申し訳なさそうに肩をすくめると、お先にとだけ言い残してオフィスを後にした。



──深い溜息を吐くと、俺は200ページはあろうかという、分厚いマニュアルに手を伸ばした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。 そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。 しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。 過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

それは思い出せない思い出

あんど もあ
ファンタジー
俺には、食べた事の無いケーキの記憶がある。 丸くて白くて赤いのが載ってて、切ると三角になる、甘いケーキ。自分であのケーキを作れるようになろうとケーキ屋で働くことにした俺は、無意識に周りの人を幸せにしていく。

処理中です...