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勇作編■自己暗示
10.ユニゾン
しおりを挟むリフレインを使い始めて、はや1ヵ月。
生活の質に大きな変化はないが、何だろう、たまに全く違う人間になって走り回っているような気分になる時がある。
勇作は出勤前に必ずと言っていい、濃いめのブラックコーヒーを一気飲みする習慣がある。
「にがっ......」
これも口癖だ。
最初のうちは、勤務中に眠くなったら困るという理由で、好きでもない苦いコーヒーを飲むようになったのだが、いつからか飲まないと落ち着かないようになっていた。
これが禁断症状か......恐ろしい。
コーヒーを啜っていると、ふと思い付いたようにベッドへ向かう。
枕元から夢日記を持ってきた勇作は、デスクに座り直すと、パラパラとページをめくり始める。
そういえば、毎朝書いてはいるけど、きちんと読み返すことってなかなかないんだよな。
だとすれば、今日のように休みに早起きした日は読み返しにもってこいだ。
一枚一枚流し読みをしつつ、ページをめくる手を止めると、開いているページと過去のページを何度も見比べる。
──なんだ?
何かおかしい。
一昔前の日記と比べると、リフレインを使い始めてからの内容が明らかにおかしい。
いや、内容がおかしいんじゃない。辻褄が合いすぎるんだ。
本来ならば夢というのは、舞台も時代も登場人物も設定もメチャクチャな事が多い。
同じ夢を見ることは二度とないし、見ようと頑張って二度寝したとしても不可能に近い。
出てくる場所、雰囲気、時代背景、──種族。
全てに共通点があり、一貫性がある。
製品のキャッチコピー『貴方に非日常を』というのは嘘ではないらしい。尤も、夢自体が非日常なのだから当たり前か。
リフレインの夢の世界は、完璧に『その世界に入り込める』ようで、夢の中で眠りにつくことで現実世界で目を覚ますことが出来る。
夢の中で寝ようとしない限りは、目覚めることは無いということか。
少なくとも、夢にありがちな理不尽な終わり方はないようだ。
官能的で甘美な夢に限って良いところで目が覚めてしまい、二度寝して同じ夢を見ようとした事は数え切れないほどあるが、成功例は皆無だ。
それを思うとなんと素晴らしい機械なのだろうと思う。
しかし、決まった設定しかないのは何だか不思議な気分だ。
まるで『別の人間』になったかのような、そんな気がしてならない。
内容までハッキリと覚えていないのが悔やまれるが、その匙加減が丁度良い設定なのかもしれない。
──そういえば、最近ニュースでよく流れている『リフレイン死』とはなんなのだろうか。
発売元のカーマイン社は『真偽を調査中』としか発表していないが、恐らく偶然だろう。
そもそもこんな機械を購入する層など人生に疲れた不健康な人間が大多数だろうし、睡眠中でも脳がフル稼働なんて死に急いでるとしか思えない。
まあ、自分自身に言ってやりたいけどね。
勇作はカップの底に残ったコーヒーを口に流し込むと、再びリフレインを装着し、床についた。
全くもって不健康だな、勇作はそう思いながらまどろみの中に沈んでいった。
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