22 / 58
3 銃を改造してもらったら
しおりを挟む俺はヴォルガに会いに来ていた。
「なんか、三番隊の地域で、事件に首突っ込んでるって聞いたぜ」
ヴォルガがニヤつきながら俺に言う。
「ひょんな事でな。それで犯人と遭遇したんだが、唯一の物証を残していった」
俺は三日月形の刃物を出した。鎌の刃の部分に似ているが、鎌と違うのは三日月の内側ではなく、外側に刃がある事だ。そして何で彩色したかは判らないが、刃全体が黒くなっている。
「こういう刃物なんだ。極めて薄い」
ヴォルガが刃物をつまんで、眼に対して横にして見る。厚さは1mmもない。
「確かに、こりゃ薄いな」
「しかし、それなりに強度はある。これは非常に特殊な仕事だ。これが造れそうな鍛冶屋を知らないか?」
「そうだな、俺たち警護隊がよう使ってるテオに聴いてみるといい」
「鍛冶屋のテオか」
俺はヴォルガから情報を得ると、テオの鍛冶屋へと向かった。
小さいが、剣や盾をはじめとして、様々な金属製品が並ぶテオの鍛冶屋は立派な店だった。
「鍛冶屋のテオだな?」
茶色の髪に口髭をはやした店主は、愛想のいい笑いを浮かべた。
「へえ、そうですが? 何かご入用で?」
「これを見てほしいんだが」
俺は三日月刃を取り出した。
「これを作れそうな鍛冶屋を知らないか?」
「知ってるも何も――」
テオは目を丸くする。
「――こいつは、おれの作ったもんですぜ」
テオは言った。
「いつ頃の話だ?」
「そうですねえ……一ヶ月前くらいですか」
夜の烏が動き出した時と重なる。
「どんな奴だったか、覚えてるか?」
「覚えてますよ。フードを被って、目元はマスクで隠してましたけどね」
「マスクを着けていたのか?」
「ああ、冒険者には珍しくないですからね、そういう装飾で強く見せるんですよ。黒くて、眼のとこが赤くなってるマスクでしたね。かなり特殊な注文だったんで、こっちも腕の見せ所でしたけど」
テオはそう言うと、顔をほころばせた。
俺はその後に、第三番隊の詰所へと向かった。
三番隊の詰所は二階建てで、同じ警護隊なのにヴォルガの五番隊詰所より、少し豪奢な造りだった。
「何用ですか、キィ・ディモン?」
あからさまに不快そうな顔で俺を迎えたのは、隊長のヒュリアルだ。俺はヒュリアルに訊いてみた。
「調べに進展はあったのか?」
ヒュリアルが俺を睨む。が、俺の立場を考えて口を開いた。
「国内の上級剣士のなかに、怪しい人物はいません。貴族はもちろん、冒険者もです。特に進展があったとは言えませんね」
この話しぶり。推察すると、こいつはリックから話を聞いていない。多分、リックは自分が夜の烏に殺されそうになったことを、隠しているのだろう。だが、その方が俺には好都合か。
「殺されたザラスは剣士審査の審査官と言っていたな? 直近で審査を行ったのはいつだ?」
「三ヶ月前くらいですが」
時期が合わない。
「一ヶ月前くらいに、何か審査したことは?」
「一ヶ月前なら……警護隊の入隊審査をしましたが」
「ザラスとリック以外に、審査官はいるのか?」
ヒュリアルは心なし自慢気な顔を見せる。
「優秀な我が隊にはもう一人、審査官になる者がいます。副隊長のランダー・カルバート、Bランクにして上級剣士、中級魔導士の隊員です」
「その時の審査会の名簿は残っているか?」
ヒュリアルはあからさまに不機嫌な様子で、机の後ろの棚から紙束を取り出した。俺はそれに眼を通す。
「そうか……」
俺は独り呟いた。
*
リュート・ライアンの家に向かっていると、ロックが駆けてきた。
「わふ! わふ!」
尾手の人差し指で、必死で家の方を指す。急いで来い、ということらしい。俺はロックと走った。
家に上がると、床にリュートが倒れていた。
「リュート先生!」
俺はリュートに駆け寄った。脳溢血などの場合は、動かしてはいけない。――が、この世界には救急車はない。どう対処すべきだ?
「……あ、ディモン君、来てたのかい?」
リュートがうっすらと眼を開ける。
「先生、大丈夫ですか? どうしたんですか?」
「いやあ……」
リュートはゆっくりと身を起こす。
「ちょっと眩暈がしただけだよ。もう歳だからね、そんな事もあるさ。心配かけたね、ロック」
「わふぅ……」
ロックも心配そうな顔をするが、リュートは微笑した。
リュートはソファに腰を下ろすと、俺に言った。
「最近、来てなかったから、もう諦めたのかと思ったよ。ディモン君、課題を解くヒントでも見つけたかい?」
「実は……ここのところ闇斬りの捜査をしてまして。そいつが超高速で移動します。その対処法のヒントをいただけないかと思って……来た次第なんです」
そう。今の俺では奴を追い詰めても逃げられるし、戦ったとしても勝てないだろう。だから攻略法を先生に訊こうと思ったのだ。
リュートは微笑を浮かべ、静かに俺を見つめた。
「そう……。しかしヒントは既にあげているよ。答えはロックに訊きなさい」
「ロックに…?」
俺はロックを見た。ロックがL字型の指を顎にあてている。
この犬ころに何を訊けというんだ? いやしかし……最初にロックと立ち合った時、ロックは俺よりはるかに速く動いていた。犬と人間の差だとばかり思っていたが――
「先生! ロックを借りていいですか?」
「それは、ロックに訊きなさい」
リュートは微笑する。俺は得意気な顔をしてるロックに言った。
「ロック、凶悪な犯人を逮捕するために、お前の力が必要だ。俺に、力を貸してくれないか?」
「わふ」
――指で丸。「了解ってことだな、ありがとう」
俺はロックに笑ってみせた。
*
教会へ戻ると、シイファが俺に銃を手渡した。
「はい、頼まれた通りに改造しといたから」
「ありがとう、シイファ」
俺が礼を言うと、シイファはさらに解説をした。
「そのままだと判りづらいと思って、使う魔法の魔紋が出るようにした
の」
俺が少し魔力を込めると、銃身の上に照準器のように小さな紋章が現れる。それは炎の形をしていた。
「これが火炎弾か。なるほど判りやすい」
もう一度トリガーを引くと、青いダイヤ型。これが氷結弾らしい。そしてもう一度トリガーを引くと、黒い四角が現れた。
「これが力場照準だな」
俺は魔力を込めてみる。銃口から赤いレーザーが発射され、椅子に当たる。熱などはない。
「こんな工夫、よく思いついたわね。結構、設定は大変だったんですけど」
「面倒かけたな。しかし力場魔法に習熟してる暇がなかったし、どうもイメージしづらかったんだ」
力場魔法は凍結魔法の学習時に原理は習得した。凍結は力場魔法による、気体の圧縮から始まる。圧縮により液体化した媒体が、気化する時に気化熱を周囲から奪う。それが凍結の原理で、つまり冷蔵庫の仕組みだ。
俺はレーザーポインターが当たってる椅子を、上にあげてみた。椅子が宙に浮く。
「うん、いい感じだ。ありがとう、シイファ」
「どういたしまして。それで、犯人を捕まえられそうなの?」
「ああ、これで準備は整った」
そう、俺は一人じゃない。それがシイファに教えられたことだ。
*
俺は夜の街を歩く。敢えて人通りの少ない場所だ。
“キィ、あいつが動いた”
ニャコが念話で知らせてくれる。
“判った、ニャコ”
“キィ、気をつけて”
念話でも、声の感じは判るものだ。本当に、俺を心配してる声だ。
“ありがとう。充分に注意する”
俺は、少し笑ってみせた。
俺は少し歩き、左に路地のある場所へとさしかかった。
――瞬間、影が俺に襲い掛かって来る。
俺は持っていた警棒で、影の振ってきた剣を受け止める。と、次の瞬間、キン、という金属音がした。俺の背後だ。
ロックが尾手で持った剣で、俺に飛んできた三日月刃を弾き飛ばしていたのだ。
「なに!」
俺に襲い掛かって来た夜の烏が、驚きの声をあげた。
姿を消していたロックが、俺を守ったのだ。俺自身より、音や気配に敏感なロックの方が、夜闇に見えづらい三日月刃の攻撃を防げることは、昼間に力場魔法を使って実験済みだった。
「わふ!」
ロックが誇らしげに唸る。
「ありがとう、ロック」
そう言った瞬間、夜の烏は身を翻した。夜闇に向かって高速で駆けだす。俺はそれを追いかけた。
昼間、俺はロックと競争をして、気付いた。ロックは動く時に気力を足から発していたのだ。俺も足裏から気力を発する。一歩の大きさと速さは、今までとは比べ物にならない拡大した。
しかし、まだ夜の烏の速さに追いつかない。前を走る夜の烏は、気力を使う走法以上の速さで走っている。
“ニャコ、奴の位置を把握してるか?”
“今度は大丈夫! 今、右に曲がった”
ニャコの念話を元に、俺はT字路を右に曲がった。奴の姿が見える。俺はニャコに、遠視の視点を上空にするように言ったのだ。それまでは接近距離で見ていたが、むしろ離れた方が位置を確認できる。ニャコは確実に、街を逃げる奴の姿を追っていた。
俺は走りながら、懐から銃を取り出した。
「力場照準」
俺はレーザーを自分の背後に合わせた。気力走法に加え、力場魔法を走りに加える。倍化した速度で走る俺は、たちまち夜の烏に迫った。夜の烏は、追いすがる俺の姿を確認している。
「くっ」
夜の烏がまた角を曲がる。だが、それが俺の狙いだ。
「シイファ、今だ!」
その場所へ駆け込んだ俺は、声をあげた。
「力場領域!」
高台にいるシイファが、魔法を発動する。広場に駆けこんだ俺と夜の烏を、見えないシールドが包み込んだ。
「くっ、これは!」
見えない障壁に走りを閉ざされた夜の烏が、声をあげる。
その場所は建物を撤去して更地にした場所であり、周囲は壁に囲まれていた。その場所に、夜の烏を追い込んだのだ。
「夜の烏! ここまでだ!」
0
あなたにおすすめの小説
最強剣士が転生した世界は魔法しかない異世界でした! ~基礎魔法しか使えませんが魔法剣で成り上がります~
渡琉兎
ファンタジー
政権争いに巻き込まれた騎士団長で天才剣士のアルベルト・マリノワーナ。
彼はどこにも属していなかったが、敵に回ると厄介だという理由だけで毒を盛られて殺されてしまった。
剣の道を極める──志半ばで死んでしまったアルベルトを不憫に思った女神は、アルベルトの望む能力をそのままに転生する権利を与えた。
アルベルトが望んだ能力はもちろん、剣術の能力。
転生した先で剣の道を極めることを心に誓ったアルベルトだったが──転生先は魔法が発展した、魔法師だらけの異世界だった!
剣術が廃れた世界で、剣術で最強を目指すアルベルト──改め、アル・ノワールの成り上がり物語。
※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうにて同時掲載しています。
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~
こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』
公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル!
書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。
旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください!
===あらすじ===
異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。
しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。
だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに!
神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、
双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。
トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる!
※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい
※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております
※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
俺が追放した役立たずスキルの無能女どもが一流冒険者になって次々と出戻りを希望してくるんだが……
立沢るうど
ファンタジー
誰もが憧れる勇者を目指す天才冒険者『バクス』は、冒険者パーティーのメンバーである無能少女三人に愛想を尽かせ、ある日、パーティーリーダーとして追放を決意する。
一方、なぜ自分が追放されるのかを全く自覚していない彼女達は、大好きなバクスと離れたくないと訴えるも、彼にあっさりと追放されてしまう。
そんな中、バクスのパーティーへの加入を希望する三人が、入れ替わりで彼の前に現れ、その実力を見るために四人でモンスター討伐の洞窟に向かう。
その結果、バクスは三人の実力を認め、パーティーへの加入で合意。
しかし、それも長くは続かなかった。モンスター討伐を続ける日々の中、新加入三人の内の一人の少女『ディーズ』が、バクスとの冒険に不安を訴えたその翌日、なぜか三人共々、バクスの前から忽然と姿を消してしまう。
いつの間にかディーズに好意を寄せていたことに気が付いたバクス。逆に自分が追放された気分になってしまい、失意に暮れる彼の元に、追放したはずの『コミュ』が出戻り希望で再アタック(物理)。
彼女の成長を確認するため、自分の気持ちを切り替えるためにも、バクスが彼女と一緒にモンスター討伐に向かうと、彼女は短期間でとんでもない一流冒険者に成長していた……。
それを皮切りに他の二人と、かつての『仲間』も次々と出戻ってきて……。
天才冒険者の苦悩と憂鬱、そして彼を取り巻く魅力的な女の子達との笑顔の日常を描くハートフル冒険者コメディ。是非、ご一読ください!
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記
ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。
これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。
設定
この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。
その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる