書きの種(エッセイ日記)

佐藤遼空

文字の大きさ
119 / 212

悲劇と歴史

しおりを挟む
物語の構造という事を書いたが、これを簡単に外れる方法がある。それは歴史を書く、ことだ。歴史にはただただ事実関係しかないため、収まるところに収まるような物語構造が、そこには用意されてない。簡単に言えば、正義が負けることもあるし、謎が解けないこともある。無論、恋愛も成就しない。

ある意味ではこれは悲劇だ。ただ、最近よく言われるようになった『バッドエンド』と悲劇とは、ちょっと違うと思う。バッドエンドというのは、ハッピーエンドの期待を裏切って、敢えて『悪い』終わり方をするものである。そこにはハッピーエンドへの期待があるのだ。

けど悲劇というのは、最初からハッピーエンドを期待しているわけではない。悲劇というのは、その主人公を巻き込む運命の巨大な残酷さに震え、それがある種の『荘厳』の域に達するものが悲劇だ。

実は人類史上、初の本格的物語分析論は悲劇論だ。アリストテレスの『詩学』がそれにあたる。ギリシアでは悲劇の公演が盛んで、一番、崇高な芸術と見做されていた。これは読むと結構面白いので、オススメだ。

ちなみに、この『詩学』のなかで、アリストテレスは歴史より悲劇の方がより哲学的である、と言っている。その理由は歴史が個別的な事を語るのに対し、悲劇は普遍的な事を語るからだ。

少し補足すると、歴史は「起こった事」を書くのに対し、悲劇は「起こりうる事」を書く、とアリストテレスは書いている。この「起こりうる事」は、例えば僕らのよく知ってる言葉なら、「スコシフシギ」とかに置き換えてもいいかもしれない。これはもちろん藤子・F・不二雄先生のSFの定義だ。

例えば社会問題やある個人に起きた事を事実そのままに書くのは、それがリアルな分、共感を呼ぶだろう。特に、その境遇に近い人や、同じような経験のある人には。けど逆に、それが限界でもあり、個別的ということだ。

が、創作物の出来事は、その「リアル」を越えて、境遇とか全く違う人に届くかもしれない。例えばファンタジーというジャンルなんかは、その本質にあるのはそういう普遍性なのだろうと思ったりする。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

処理中です...