え?公爵令嬢さまと婚約破棄して私と婚約したい?いやいや、ありえないから

やノゆ

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始まり

プロローグ

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ーーーエミリア・クロケットは、その日のことを忘れはしないだろう。

快感とも、歓喜ともつかぬ感情にうっとりと微笑めば、自身の蜂蜜色の髪がサラリと靡いた。
目の前で柔く微笑む彼を見つめ、嘆く彼女を見やる。

「どうして…、どうして」

ブツブツと、焦点の合わない瞳を涙にぬらし、青白い肌をもう何度も雫が伝っている。
そして、エミリアは麗しの彼に寄り添った。

温かい体温に身を任せ、一回りも大きな彼の手に自身の手を重ねれば、不思議と穏やかな気持ちになった。
微笑む彼の顔をみやり、自身の緩みきった顔を少し引き締めた。

これで、全て終わるのだとーーーー。




















いや、なにこれ?終わってたまるか馬鹿野郎。

子爵令嬢らしからぬ口汚さで誰に向けたのかもわからない罵倒を言いながら、エミリアは飛び起きた。
チュンチュン、と、文字に起こせばそのようであろう鳥の鳴き声が不機嫌な彼女の目をさました。

ーーー淡い桃色のカーテンを勢いよく開ければ、曇っぽい晴れという微妙な天気にエミリアの気分も微妙なものとなった。

青い空を覆い隠す曇にザワザワとした気持ちになりつつ、エミリアはベルを鳴らし使用人を読んだ。

ーーー(嫌な夢を見た。)

そばにいた男性は、おそらくこの国の第2王子であろう。
何故か最近視界に入ることが多いが、それだけである。夢の内容を思い出し、わざとらしくおえっと舌を出した。
たしかに美男子だが、頭も弱く男性にしては華奢な彼はエミリアのお気には召さなかった。第2王子にこのようなことを考えるのは不敬だが、口にしなければいいのだ。

そして、嘆いていた令嬢を思い出す。
スカーレット・フォンディナム公爵令嬢。
そういえば、彼女の弟であるカイベルに先日花をもらったな、と思い出す。
その日をきっかけに、机に葬花や靴に針、下駄箱に虫や小動物の死骸などが置いてあるな、きっと彼女はブラザーコンプレックスなるものなのだろうと結論付け、エミリアはあまり接点のない公爵令嬢に想いをよせた。

そういえば、動物の死骸を土に埋めて花を添えた時、カイベルに貰った花や机に飾られていた葬花を使ったらカイベルが顔を真っ赤にして涙を流していたな。そんなに怒るとは、よっぽど嫌だったのか。今度謝っておこう、そう考えているうちに使用人が部屋に来た。

ドアのノック音で思考が止まり、紅茶の上品な香りが鼻を掠めた。

エミリアは考えるのを一旦やめ、学園に行く準備を始めるのであった。


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