え？公爵令嬢さまと婚約破棄して私と婚約したい？いやいや、ありえないから

婚約破棄編

第3話・気持ち悪いなこのバカ王子

「ふん、大方、私とエミリアに対して嫉妬したのだろう。」

そう言って鼻で笑うアルベルトを、内心でエミリアはヤンキー座りしながらああん？ああ？とどすの聞かせた声を出しながら睨めつけていた。
ふざけるのも大概にしていただきたい。
エミリアは、いを決して口を開いた。

「殿下、私と殿下はお話ししたことも今日が初めてですわ。それに、私は子爵令嬢です。お戯れのつもりなら、今すぐこの場の者全員に前言撤回をーーー」
「はは、なに、照れることはない。今日からエミリアは次期妃となるのだから。」

エミリアは、造形だけは美しいその顔に浮かぶ笑みにぞわぞわと背筋をかけるなんとも言えぬ感情を覚えた。
冗談ではない、と頼みの綱であるスカーレットに目を向ける。

だが、スカーレットはあの夢の通りどうして、なんて疑念ーーーいや、怨念とも取れる恐ろしい声色でつぶやきながら、へたりこんでいた。
エミリアは泣き出しそうになった。
これではまるで、夢のとおりではないか。

アルベルトに寄り添い手を重ねるなど、冗談ではない、気持ちの悪い、とエミリアはさり気なく伸びてくるアルベルトの手を避けながら顔を青くさせた。

「エミリア、婚儀をあげよう。私は君を愛している」
「で、殿下、恐れ多いことですわ！貴方の婚約者様は、フォンディナム公爵令嬢様です…！」
「君に嫌がらせをし続けた悪辣な令嬢だ。気にすることない。」

私が気にするんだよバカ王子ぃぃぃいい！！と内心荒ぶりながら、平静を装った顔と声でエミリアは話を続ける。

「殿下、お考え直し下さい。」
「アルと呼んでくれ、エミリア。」

ジリジリとにじりよってくる殿下と、逃げるエミリアに放心状態のスカーレット、様々な表情で診てるだけの貴族達、なかなかカオスな状態である。

「で、殿下、ご勘弁ください、初対面に初会話へ近い男性に迫られるなど、ましてや殿下からなど、恐れ多い…！」
「控えめなのだな、愛らしいよ、エミリア」

（気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い）
エミリアは、いよいよ逃げ場がないと涙目になる。
フォンディナム様、フォンディナムさま、公爵令嬢でしょ、あんたの婚約者でしょ、たすけて。ぐるぐると思考を巡らせながら、エミリアは血の気の引いた顔でスカーレットを見やる。

濁った瞳と目が合った。

（ひょわっ）

そんな時である、盛大なファンファーレに赤絨毯、大量の護衛を連れた国王陛下が会場へとおなりになったのは。

エミリアは、とうとう気を失いそうになった。