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婚約破棄編

第10話・国王の失敗

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「な、何を、言っておるのだ!そなた達はこれから国のためにーーー」
「国よりも、娘を、家族を守り抜いて生きていきます。どんなに辛い目にあっても、平民になっても、構いませぬ」

たじろぐ国王を真っ直ぐ見つめ、そう言った両親にエミリアは目頭がツンと熱くなる。
昨夜たくさん泣いたのに、まだ泣き足りないのかなんて考えてから、違うと自分で否定した。
これは、嬉し涙なのだろう。
両親の愛情が嬉しく、暖かかった。
この人達とならやっていけるという、妙な安心を感じていた。

「そ、それなら、伯爵の地位をやる!土地も与えよう。なんなら、宝石だって」
「そのようなもの、いりませぬ。私共の本当の宝は、家族ですので。」

国王は焦った。
この優秀な2人を失うのはあまりにも惜しい、と。
なんせこの夫妻ときたら、魔法に関して頭一つ抜きん出た天才なのである。
炎も風も水も、まるで赤子の手を捻るが如く、手玉のように操り、何度も何度も領地や民のために惜しげもなく魔法を使ってきた。
ーーー国王は、周りの貴族から何度もクロケット子爵夫妻の位を上げるよう言われていたが、ケチって子爵という地位に留まらせてきたのだがーーー。

だが、こうなっては仕方ない。

「…分かった、侯爵位を与える。なんなら、娘も国外追放から平民落としに変えてもいい」
「いいえ、必要ありませんわ。」
「…分かっているのか?侯爵位だぞ!この機を逃したらーーー」
「何度、何を言われようと変わりません。」

国王は困り果てた。
いっそクロケット子爵令嬢の罪をなかったことにしようかとも思案したが、あんな大勢の貴族の前で国外追放を言い渡したのだ。
今更訂正などしようものなら、面目丸潰れ、赤っ恥もいいところである。

ーーー国王はプライドの高い男だった。
そのため、ここで罪を消すという選択肢は消えた。

ニヤリと意地汚そうに口許を歪め、国王は蛇のように細めた碧眼で口を開いた。

「おい、それなら、命令だ。クロケット子爵夫妻はーーー」
「この私が許可を出します。クロケット夫妻並びにエミリア嬢は、国外へと放たれ、そして、渡される金のかわりに職を与えましょう。追放先は、私の母国であるリリーシオとします。」

国王が命令しようとしたところに割って入り、王妃はそう告げた。

「なっ…、おい!!どういうことだ、ミリオンジュ!!」

顔を真っ赤にして怒りながら、王妃を怒鳴りつける。
エミリアは、何がなんだかよく分からないまま王妃を見た。

なんせ、今まで微笑むだけで、周りの貴族からはお飾り妃と呼ばれていた方なのだ。実際、エミリアもそう思っていた節があったが、両親から、王妃どころか国王の業務もこの方がこなしているんだよ、と伝えられ考えを一変したのだ。手のひら高速フライ返しはエミリアの特技である。

ちらりともう一度王妃を見ると、美しく穏やかな微笑みは消え、代わりに冷たい桃色の瞳が国王を見つめていた。

「どうもこうありませんわ、わたくし、もううんざりですの。婚姻破棄の手続きを進めていて良かったわ。私、母国へ帰らせていただきます。」

ーーー今回のアルベルトの件を利用させていただくわ、と悪役のような笑みを浮かべて、王妃は言った。
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