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婚約破棄編

第12話・ストーカー予備軍どころか一軍のお花大好きマンまで

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「よいですか?あなた達は、わたくしが雇わせていただくわ。ただし、エミリア・クロケット、あなたはリリーシオの魔法学園へ通いなさい。お金の心配はいらないわ。あなたは特待生枠となるでしょうから。ああ、そうそう、クロケット子爵、あなたは国の宰相補佐官になってもらうわ。クロケット子爵夫人は、魔法学園の教師として働いてもらうわ。いいかしら?」

後日、クロケット子爵邸ーーーといっても、ほとんど使用人もおらず、荷物もまとめているためもぬけの殻ではあるがーーーに訪ねてきた王妃の持ってきた、様々な書類にサインし、そして今は説明を受けている。

「お、王妃様、仮にも私どもは罪人とその家族ですよ?それなのに、このような破格な待遇を…」
「よいのです。今回のこと、エミリア嬢に非はありませんし、それに、私、これでも申し訳なく思っていますのよ?」

王妃は、はあと片頬に手をあて控えめにため息を吐いた。

「息子達を連れて行くこと、あなたにとって決していいことではありませんものね。きちんと牽制も監視もするつもりですが、それでも、あのようなことされては視界に入れるのも嫌よね…我が息子ながらもう…朝も仕事、昼も仕事、夜も仕事で構ってる暇なんてなくて、でもこんなの言い訳よね…王妃の前に母親なのに……あら、失礼、コホン、というわけで、あなた達のこれからはきちんと保証しますわ、心配しないで下さい。」

青ざめた顔で額に手を持っていき、ブツブツと独り言のように呟いた後、ハッと目を見開き咳払いを一つした。
あの息子達とともにいながら王と王妃の二人分の仕事をこなすのは大層な地獄であったのだろうと想像するに容易い、とエミリアは苦笑いしながら考えた。
こうまで言われてしまえば、エミリアも文句の一つの言いようがない。
そもそも、このような破格よ待遇をしてもらう時点で、エミリアは文句を言うつもりなど毛頭ないが。

「あ、そうそう。今回、カイベル・フォンディナムが陛下とフォンディナム公爵夫人の不貞を報告してくれて、その上泣きながらに家族と共にいるのが辛いと仰っていまして…。情報の代わりに我が国に行くことが条件だったため、共に船に乗ることになりますが…。」

了承をとっておらずにすみません、と王妃は恭しく頭を下げた。
王妃が頭を下げるなんて、という悲鳴を上げる暇もなく、エミリアは顔を青くさせた。

あのストーカー予備軍どころか一軍のお花大好きマンとも一緒に行くのか、と目眩がする。カラカラに乾いた口に、冷めた紅茶を通しても潤いは感じられなかった。
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