婚約破棄って、貴方誰ですか?

やノゆ

文字の大きさ
7 / 10

第7話・私は特別留学生です

しおりを挟む
ーーー「う、うそだ……デラタメだ……そんなの、そんなの、だって、」

呆然として、嘘だ嘘だと呟きルゲインは頭を振った。もしかして目の前の婚約者の言ったことが本当かもしれない、という考えを振り払うためだ。

そんなルゲインを見て、リリーナは必死に慰めた。

「大丈夫よ、ルゲイン君!そんな女の言ったこと、信じないで!それに、」
「そ、そうだ。そうだ。そうだよな、リリーナ。君は本当に優しいな。ありがとう」

パールは、リリーナが後になんと続けようとしたか、唇の動きで分かった。
ーーー公爵令息なことに、変わりはないんだし。

もしかして、あんなに熱っぽく浮かされて愛し合っていたのに、方や身分目的なのでは、とパールは考える。リリーナの爵位がなんなのかは知らないが、頭も性格もあまりよろしくなさそうだ、と他人事のように思った。実際他人事であるが。

「あの……先程から、お見苦しいところをお見せしましたわ。私の名はミラベル・ファースト。これでも社交界に顔を出しているつもりでしたが、あなたの事を存じ上げないのです。大変申し訳ないことですが、御名前をお伺いしても…?」

おずおずとそう言ってきた様子の令嬢ーーーミラベルに、パールは勿論と微笑み返した。気になっていたのだろう、会場中の貴族たちはピタリと停止し、耳をダンボの如く大きくして聞き耳をたて、いちゃいちゃしだしていたルゲインとリリーナも口をつぐんだ。

特にルゲインなんかは、大したことのない領地を収めている、王家の血筋も薄いような家だったら自分直々に処罰してやると意気込んでいた。半ば八つ当たりである。とても美しい容姿のパールにいい思いを抱いていなかったリリーナもルゲインの意見に賛成し、称えるように腕に抱きついた。

それを見てまだ事を理解しないのかとばかりにミラベルは眉を顰めたが、それよりも目の前の少女の名前が気になっていたので、特に咎めることもなくパールと視線を合わせた。




ーーーさあでは聞こうじゃないか、と静寂に包まれた会場で聞き耳を全員立てたとき、信じ難い言葉が聞こえてくる。




「ご挨拶が遅れてしまい、ごめんなさい」



竪琴の似合いそうな、透き通った美しい声だった。









  














「私、隣国から特別留学生として参りました、パール・カクルックと申します。」


以後、お見知りおきを。
しおりを挟む
感想 84

あなたにおすすめの小説

ある愚かな婚約破棄の結末

オレンジ方解石
恋愛
 セドリック王子から婚約破棄を宣言されたアデライド。  王子の愚かさに頭を抱えるが、周囲は一斉に「アデライドが悪い」と王子の味方をして…………。 ※一応ジャンルを『恋愛』に設定してありますが、甘さ控えめです。

【完結】その人が好きなんですね?なるほど。愚かな人、あなたには本当に何も見えていないんですね。

新川ねこ
恋愛
ざまぁありの令嬢もの短編集です。 1作品数話(5000文字程度)の予定です。

婚約破棄して支援は継続? 無理ですよ

四季
恋愛
領地持ちかつ長い歴史を持つ家の一人娘であるコルネリア・ガレットは、婚約者レインに呼び出されて……。

婚約破棄が国を亡ぼす~愚かな王太子たちはそれに気づかなかったようで~

みやび
恋愛
冤罪で婚約破棄などする国の先などたかが知れている。 全くの無実で婚約を破棄された公爵令嬢。 それをあざ笑う人々。 そんな国が亡びるまでほとんど時間は要らなかった。

真実の愛が生んだ婚約破棄 〜さようなら。もう二度とお会いしません〜

四季
恋愛
「ルルエラ、婚約破棄させてほしい」 そう告げてきた婚約者カエイルの隣には、一人の少女がいた。

お前は要らない、ですか。そうですか、分かりました。では私は去りますね。あ、私、こう見えても人気があるので、次の相手もすぐに見つかりますよ。

四季
恋愛
お前は要らない、ですか。 そうですか、分かりました。 では私は去りますね。

美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。

久遠りも
恋愛
美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。 ※一話完結です。 ゆるゆる設定です。

【完結済み】婚約破棄したのはあなたでしょう

水垣するめ
恋愛
公爵令嬢のマリア・クレイヤは第一王子のマティス・ジェレミーと婚約していた。 しかしある日マティスは「真実の愛に目覚めた」と一方的にマリアとの婚約を破棄した。 マティスの新しい婚約者は庶民の娘のアンリエットだった。 マティスは最初こそ上機嫌だったが、段々とアンリエットは顔こそ良いが、頭は悪くなんの取り柄もないことに気づいていく。 そしてアンリエットに辟易したマティスはマリアとの婚約を結び直そうとする。 しかしマリアは第二王子のロマン・ジェレミーと新しく婚約を結び直していた。 怒り狂ったマティスはマリアに罵詈雑言を投げかける。 そんなマティスに怒ったロマンは国王からの書状を叩きつける。 そこに書かれていた内容にマティスは顔を青ざめさせ……

処理中です...