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結婚して良かったこと 《ネタバレ有り》※第四章03話「お留守番決定」まで読了推奨
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※ネタバレ有り
※第四章03話「お留守番決定」まで読了推奨。
※宰相夫人の結婚の話。
────
セラはザイと結婚してもしなくても幸せになれる。そう断言したザイの母。その母は、自身の結婚についてはどう思っているのだろう?
そう思って聞いてみたら、「わからないわ」となんともあっさりとした答え。
──さあ、良かったかどうかはわからないわ。でもそうね、私は幸せですよ?
結婚が良いか悪いか、母が幸せか不幸か。
それらは関係あるようでいて、関係ない。
少なくともザイの母には関係がないらしい。
それから日が過ぎて、ザイがそんな質問をしたのも忘れかけた頃、そういえば、と母が唐突にザイに言う。
「一つだけ良かったことがあるわ」
なんの話だろうとザイが考えてしまうほどに後のことだった。
何故結婚したのかと問われて「面倒だったから」と言った母の答えが聞きたいような聞きたくないような。ザイは複雑な気分だった。父が母にベタ惚れなのを知っているだけに。
しかし、元々は自分から尋ねたことであったし、母がザイの質問に全力で答えてくれようとした結果だろうから、と考えたザイは渋々に母に聞く。
「一つだけ?」
「ええ、一つだけ」
一つだけしか無いのかあ。
やっぱり残念な気がしながらザイは母の答えを待つ。
「夫が心配なものですから、と言えば他に理由が要らなくなったこと」
そう、それが良かった、と母は一人納得している。
「そうなんだ」
何の理由なんだとか、誰に説明するんだとか、何を説明するんだとか様々に疑問が浮かぶザイだが、疲れていたからその話はそれで終いになった。
さらに後日。
ザイがふと庭を見れば、いつものように父の散歩の時間、相変わらずシロたちが父に纏わりついてはしゃいでいる。
「どう見ても母さんは父さん好きだよね……」
母は何か意地でも張っているんじゃないかと考えていたこともあるザイであるが、母は父にどう告げて良いのかわからないだけかも知れない。
きっと、母は口下手なだけなのだ。
いや、口下手には当たらないかも知れない。宰相夫妻は寡黙なことで有名だが、いざとなれば二人とも呆れる程に口が立つ。
しかし、母はどうやら自分に関することを言葉で表現するのが、本当に苦手なのではないかと近頃思うザイである。
母が忍耐強く見えるのは言葉にしたくても出来ないだけで(あるいは面倒なだけで)、その代わりに余りある魔力が災いして訴える手段が周囲には過激に映るのではないだろうか?
訂正。実際過激である。証左はこの結界がんじがらめの宰相邸を見れば充分だろう。
それから別に忍耐強くもなかった。第四王子の抹殺を一番に進言した母である。
それはともかく。
「理由かー」
何の理由だろう? 「夫が心配なものですから」が理由になること。まあ、この屋敷のゴツい結界だよね?
ゴツい結界は全て父さんを守るため。
あー、結婚したから夫を守るためって言えば、分かってもらい易くなったってことかな?
ザイは納得する。
──まあ、伴侶でもない者に命令でもないのに契約精霊に護衛させたり、こんな大変な結界なんか構築してたら、そりゃどう言うわけだって話にはなるよね。
ふんふんとザイは納得し。
つまり、結婚する前から母は父を守る結界やら何やらやってたんだなとザイは気付く。
夫でもない人を凄い結界やらで守ってて、それについて説明するのが面倒になるくらい多方面から聞かれるくらい熱心に父さんを守ってた訳だ。
母自身は結婚しなくても良かったが、父の立場から面倒が多いから仕方なく結婚したとも母は言っていたが
その時はさして気に留めなかったが、今考えると。
庭では相変わらずシロたちが父のそばを離れずにいる。
「結婚とかどーでも良くて、結婚してもしなくても守っちゃうほど好きってこと?」
──さあ、良かったかどうかはわからないわ。でもそうね、私は幸せですよ?
「いやもう何それ好き過ぎでしょ」
そういや筆頭が言ってた。
──いや、君の母上は特別、その……、特別情熱的かもね。
さすが僕の直上。よく見てらっしゃる……。言いにくい事言わせてしまってスミマセン。
筆頭様が暗に仰るように、やっぱりうちの両親は色々参考にならないようだ。
そりゃ先の陛下やカイルさんは生暖かい目で見ちゃうだろうし、先の東の宮様だって天を仰がれるわけだ。
「……うわあ」
帝国のお歴々に見守られてるうちの両親、凄い。
うああぁ、と一人呻いたザイは、ばたりと長椅子に背中から沈んだ。
だが、両親と同じように自分も見守られていることまでには、気が回っていないザイだった。
《終わり》
※────
・セラはザイと結婚してもしなくても幸せになれる。
→第三章08「生きていくので(1/2)」
→第三章17「契約」
・第四王子の抹殺を一番に進言した母である
→第一章14「夜更けですが斬るのは今からでも遅くはないかと」
・いや、君の母上は特別、その……、特別情熱的かもね。
→第四章01「じんもん自答独り言」
※第四章03話「お留守番決定」まで読了推奨。
※宰相夫人の結婚の話。
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セラはザイと結婚してもしなくても幸せになれる。そう断言したザイの母。その母は、自身の結婚についてはどう思っているのだろう?
そう思って聞いてみたら、「わからないわ」となんともあっさりとした答え。
──さあ、良かったかどうかはわからないわ。でもそうね、私は幸せですよ?
結婚が良いか悪いか、母が幸せか不幸か。
それらは関係あるようでいて、関係ない。
少なくともザイの母には関係がないらしい。
それから日が過ぎて、ザイがそんな質問をしたのも忘れかけた頃、そういえば、と母が唐突にザイに言う。
「一つだけ良かったことがあるわ」
なんの話だろうとザイが考えてしまうほどに後のことだった。
何故結婚したのかと問われて「面倒だったから」と言った母の答えが聞きたいような聞きたくないような。ザイは複雑な気分だった。父が母にベタ惚れなのを知っているだけに。
しかし、元々は自分から尋ねたことであったし、母がザイの質問に全力で答えてくれようとした結果だろうから、と考えたザイは渋々に母に聞く。
「一つだけ?」
「ええ、一つだけ」
一つだけしか無いのかあ。
やっぱり残念な気がしながらザイは母の答えを待つ。
「夫が心配なものですから、と言えば他に理由が要らなくなったこと」
そう、それが良かった、と母は一人納得している。
「そうなんだ」
何の理由なんだとか、誰に説明するんだとか、何を説明するんだとか様々に疑問が浮かぶザイだが、疲れていたからその話はそれで終いになった。
さらに後日。
ザイがふと庭を見れば、いつものように父の散歩の時間、相変わらずシロたちが父に纏わりついてはしゃいでいる。
「どう見ても母さんは父さん好きだよね……」
母は何か意地でも張っているんじゃないかと考えていたこともあるザイであるが、母は父にどう告げて良いのかわからないだけかも知れない。
きっと、母は口下手なだけなのだ。
いや、口下手には当たらないかも知れない。宰相夫妻は寡黙なことで有名だが、いざとなれば二人とも呆れる程に口が立つ。
しかし、母はどうやら自分に関することを言葉で表現するのが、本当に苦手なのではないかと近頃思うザイである。
母が忍耐強く見えるのは言葉にしたくても出来ないだけで(あるいは面倒なだけで)、その代わりに余りある魔力が災いして訴える手段が周囲には過激に映るのではないだろうか?
訂正。実際過激である。証左はこの結界がんじがらめの宰相邸を見れば充分だろう。
それから別に忍耐強くもなかった。第四王子の抹殺を一番に進言した母である。
それはともかく。
「理由かー」
何の理由だろう? 「夫が心配なものですから」が理由になること。まあ、この屋敷のゴツい結界だよね?
ゴツい結界は全て父さんを守るため。
あー、結婚したから夫を守るためって言えば、分かってもらい易くなったってことかな?
ザイは納得する。
──まあ、伴侶でもない者に命令でもないのに契約精霊に護衛させたり、こんな大変な結界なんか構築してたら、そりゃどう言うわけだって話にはなるよね。
ふんふんとザイは納得し。
つまり、結婚する前から母は父を守る結界やら何やらやってたんだなとザイは気付く。
夫でもない人を凄い結界やらで守ってて、それについて説明するのが面倒になるくらい多方面から聞かれるくらい熱心に父さんを守ってた訳だ。
母自身は結婚しなくても良かったが、父の立場から面倒が多いから仕方なく結婚したとも母は言っていたが
その時はさして気に留めなかったが、今考えると。
庭では相変わらずシロたちが父のそばを離れずにいる。
「結婚とかどーでも良くて、結婚してもしなくても守っちゃうほど好きってこと?」
──さあ、良かったかどうかはわからないわ。でもそうね、私は幸せですよ?
「いやもう何それ好き過ぎでしょ」
そういや筆頭が言ってた。
──いや、君の母上は特別、その……、特別情熱的かもね。
さすが僕の直上。よく見てらっしゃる……。言いにくい事言わせてしまってスミマセン。
筆頭様が暗に仰るように、やっぱりうちの両親は色々参考にならないようだ。
そりゃ先の陛下やカイルさんは生暖かい目で見ちゃうだろうし、先の東の宮様だって天を仰がれるわけだ。
「……うわあ」
帝国のお歴々に見守られてるうちの両親、凄い。
うああぁ、と一人呻いたザイは、ばたりと長椅子に背中から沈んだ。
だが、両親と同じように自分も見守られていることまでには、気が回っていないザイだった。
《終わり》
※────
・セラはザイと結婚してもしなくても幸せになれる。
→第三章08「生きていくので(1/2)」
→第三章17「契約」
・第四王子の抹殺を一番に進言した母である
→第一章14「夜更けですが斬るのは今からでも遅くはないかと」
・いや、君の母上は特別、その……、特別情熱的かもね。
→第四章01「じんもん自答独り言」
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