官吏になりたい僕ですが、宰相が本気で邪魔してくる

すみよし

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17 追いかけっこの行き着く先は

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「はい、捕まえた。わたしの勝ち」

 当然ながら僕の下山を待ち伏せなさっていた陛下に、僕はあっさり捕まる。

 嬉しそうに僕をご覧になる陛下。僕は逃げるどころか何かお返しする気力もない。疲労困憊だ。陛下に捕まらなかったら、僕は一人遭難していただろう。

「吹雪いてきたね。避難しよう」

 陛下に連れていかれた洞窟では、カイルさんが火を起こして待っていた。

 カイルさんの顔を見た途端、僕はその場に倒れ込んでしまった。



「悪いね、ザイ」

 僕は眠っていたらしい。目を開けると、陛下に謝られた。僕は火のそばで寝かされて、冬用の外套をかけられている。陛下が僕の額に手をやって、ひどい熱だと仰る。僕は慌てる。

「陛下、お風邪を召してはいけませんから」

 僕は陛下から離れようとしたけれど、陛下は大丈夫だからと言って、僕にかけられた外套越しに肩をぽんぽんと叩きなさる。まるで幼子を寝かしつけるような調子で、僕はウトウトとしてしまいそうだ。

 そう言えば、小さい頃はよくこうしていただいたなあ。そして、「ザイばかりずるいです!」と姫に吹っ飛ばされたこともあった(理不尽)。

 あの時騒ぎに駆けつけたカイルさんが見たのは、習いたての結界で防御が成功し飛ばされはしたものの転ぶだけで済ませられて喜んでいる僕、悔しがってわんわん泣きながら無意識のうちにさらに魔法を発動させ続けてしまっている姫、なぜか酷く驚かれて無言になってしまわれて、姫の魔法を術で黙々と相殺なさっている陛下だった。

 僕はカイルさんに結界が上手く出来た事を報告した。有頂天になっている僕の話を聞き終えたカイルさんは、僕を嗜める。そうして、姫を宥めて落ち着かせ、そのあと、姫を陛下に押し付けて、僕を連れて控えに下がった。その後どうなったか、僕は覚えていない。多分、何を言われても僕の耳に入っていなかったんだろう。

 とにかく、僕は泣いている姫をよそに大喜びしてしまえるほど何にも考えてない子どもの頃から陛下が好きで、将来はこの方にお仕えできればいいなあと思っていた。

 なのに、次の方の侍従なんて。

「どうしたの。随分とつまらない顔をしている」

 陛下が笑って仰る。

「僕は陛下にお仕えしたくて官吏になったんですよ?」

 子供のように拗ねて申し上げる僕に、陛下は困った顔をなさる。

「わたしにはカイルがいるからいいよ」

「いいなあ。カイルさんはずるいなあ」

 パチパチと爆ぜる火の向こうにいるカイルさんは、僕のたわごとが聞こえているだろうに、黙って焚き木を焼べていた。

「そう、でも、カイルだもの。仕方がない」

 にこりと笑って陛下が仰るのに、カイルさんは周りを見て参ります、と言って何処かへ行く。

「おや、機嫌を損ねたようだ」

 僕はカイルさんの出て行った後を見る。

 カイルさんは僕が官吏になるのを止めなかった。僕が次の方の侍従になることは、どう思っているのだろう?

「でも、ザイ、お前もずるい。お前も本当の気持ちを、宰相に言わないのだもの」

 いなくなったカイルさんの代わりに火の番をなさりながら、陛下は続けられる。

「わたしに仕えたいなんて、本当は宰相の力になりたいのだろう?
 お前はそれを、お前の父上に言わなくてはいけない」

 
 それきり、陛下は黙ってしまわれた。

 洞窟の中は木の爆ぜる音と、風の唸る音、時折垂れる雫の音。しばらくそれを聞いていた僕は、のろのろと申し上げる。とても情けない気分だったから。

「言えないです。きっと、父は僕には無理だと思っていますから。残念だけど、それは本当のこと」

 悔しいが、本当のこと。今の僕じゃ、父の助けにはならない。むしろ、足を引っ張るだけ。それが嫌で、父さんはずっと僕を遠ざけているんだろう。

「でも、陛下にお仕えしたかったのも本当のことです。僕はあなた様が大好きだから」

「おや、嬉しいことを言ってくれる」

 目をわずかに見開いて、陛下は仰る。そうして、少し寂しげに笑っておられる。

「ならば、わたしのためにも、次の方にお仕えしておくれ。きっと、それがお前の父上の助けにもなる」

 お願いするよ、とまで陛下は仰る。

 ──父の助けになる? それが本当なら……。

 僕は失礼にも寝たままだったけれど、陛下に「はい」とお答えした。

 ※

 そのあと、僕は眠ってしまったのか眠らされたのか分からない。

 次に目覚めると、そこは宰相邸の僕の部屋だった。
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