Dream of Alice

彩。

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少年との出会いと

八話「お前は後ろにいろ。……すぐ終わらせる」

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「それでお前は困っていたお前好みのかわいい女の依頼をかわりに受けたのか。……デレデレした状態で」
「な……! 飛鳥! いきなり消えてまた現れたと思ったら喧嘩売ってんのか? あ? 買うぞこらっ」
「そ、ソルトくん喧嘩は……」

町から出るところにはぐれたと思っていた飛鳥くんが立っていた。時計を取ってくる依頼を井沢さんから私達が引き受けることになったと伝えると、呆れた顔でソルトくんを見るから突っかかり喧嘩になりそうになる。

「でも、時計は俺も気になる……行くか」
「そして、何仕切ってるんだよこらっ……!」

飛鳥くんはそんなソルトくんを無視し、湖の位置を確認するとそちらの方へと歩いて行く。

「そうだな。夕方までに終わらせてぇし行くか」
「先輩!? あ、ちょっ……」

ちろる先輩までもそう言うと、飛鳥くんの後を追うように歩いて行く。残された私はまだ文句を言うソルトくんをちらりと見る。

「んだよ……飛鳥の奴なんか最近入って来た癖に仕切りやがって……」
「でも、そろそろ向かった方がはやく戻れると思いますし」
「……」
「な、なんですか?」

ソルトくんが口を尖らせ不機嫌そうな顔で私を見る。

「陽菜も飛鳥の味方なのか」
「え?」
「最初会った時も仲間にすぐ加えていいってたし……。やっぱり顔か? アイツ、なんか前髪長いけど整った顔しているもんなー。世の中顔かよっ……けっ」
「ソルトくん……」

ソルトくんも井沢さんにはデレデレだったのに、そう言うんだと驚きながらも飛鳥くんの顔を思い出す。前髪で隠れているが、輪郭もすらりとしていて、口も……

「おーい陽菜ちゃん! ソルー! はやく来ないと置いて行くぞー!」
「あ、はい。……行きましょうソルトくん」
「……」
「ソルトくん?」
「あぁ……」

ちろる先輩に呼ばれて、私は考えるのをやめソルトくんと共に後を追った。






「随分大きな湖ですね……」

目的地の湖は思ったより大きく、時計を探すのが大変そうだと思い困った顔でソルトくん達を見る。

「飛鳥なんかいいスキルねぇのか?」
「……自分で引き受けたのに人頼みなんだな」
「う……! わ、わかったよ自力で探してやるよ!!」

ソルトくんは靴を脱ぎ、裾を膝下くらいまでまくり湖の中に入っていく。それを私は見ながら浅いところにあるといいけどと心配そうに見ていたらちろる先輩が飛鳥くんに話しかける。

「本当にスキルねぇの? これじゃあ日が……」
「スキルならありますし、今現在発動しています」
「なっ!」

飛鳥くんが空中に湖の地図らしきものを出すと、光っている場所がある。これが時計だろうか。

「落とし物スキルといって……」
「じゃあ、俺こうしなくても……」
「いや、そうしていると助かるな。何故なら」
「何故なら……」
「その時計が……」
「!?」

飛鳥くんが言うより先にザバーっと湖からモンスターが現れる。ソルトくんが振り向くより先にモンスターの口が大きく開きそのまま……

「なっ!?」
「……」

食べられた。もう体ごとぱっくりと。

「え!? そ、ソルトくん!?」
「陽菜ちゃんも食べられたら困るから近付くなって」

慌てて駆け寄ろうとした私にちろる先輩の手が私の手首を掴み、止める。でも、だってソルトくんが食べられたのだ。今までの戦闘不能とは違ってこの状態は危険なのではないだろうか。
そう考えると焦り、ちろる先輩達に振り返る。

「でも、ソルトくんが食べられたんですよ!? このままじゃ……」
「それはわかっている。だけど、助け出すのは陽菜ちゃんの仕事じゃない。俺らの……」
「……」
「飛鳥くん? 何で武器構えないだ?」
「いえ、後ちょっとで……」
「?? なんだ、待てばいいのか?」
「! そんなことしている間にソルトくんが吸収されてしまったら……」

丸飲みされたから倒せばまだ助かる可能性が高い。だけど、時間がたつにつれて吸収されてしまったらそれでこそ……

「あ、飛鳥くん」
「……!」

心配で飛鳥くんの裾を掴むと、空中に浮かぶ画面から視線を私に向けた。


「ソルトくんのこと嫌いだからってそれは……」
「……別にアイツが嫌いで見捨てているわけじゃない」
「? じゃあ、何で……」
「そろそろか……」

飛鳥くんが刀を掴むと、モンスターがいきなり唸り声を上げる。先程まで大人しかったのに、なんだろうと思いながら私もナイフを構えようとすると飛鳥くんがそっと私の前に立つ。

「あ、飛鳥くん?」
「お前は後ろにいろ。……すぐ終わらせる」
「お、飛鳥くんかっこいいー!」

そうからかいつつ、ちろる先輩も私の前に立つ。
モンスターが湖から出て私達にドスドスと向かって来る。何度経験してもこの瞬間は怖いなぁと思っていると、飛鳥くんが刀を鞘から抜き、モンスターに向かって走っていき……

「……ったく……」

刀でモンスターを通り過ぎに切り裂いていく。モンスターは悲鳴を上げ、いつものように消えていく様子に少し攻撃しただけで倒せるなんて、強いと思っていたけどここまで強いとは……っと驚く。
飛鳥くんはため息を吐き、刀の血を払い文句を言う。

「思った以上に見つけるの遅くてお前が吸収されるかと思ったぞ」
「へいへい。遅くて悪かったですねー。たくっ……先にそういうことは言えっての!」
「この声って……」
「ソルトくん!」

ソルトくんが消えていくモンスターの中心に現れて、私は走って駆け寄る。良かったまだ吸収はされていなかったようだ。

「飛鳥お前な……って、うわっ!」

近付きソルトくんの頬からお腹までぺたぺたと触っていき、どこも怪我をしていないか確認をする。

「ひ、陽菜……!」
「良かった……どこも怪我していないようですね……」
「……っ!」

水で濡れてひんやりしているがどこも怪我はしていないようで安心をし、見上げてふんわりと嬉しくて笑う。すると、ソルトくんは真っ赤になって触っていた手を振り払う。

「ソルトくん?」
「俺は大丈夫だ……心配させて悪かった……」
「? はい……あ、それは……」

ソルトくんの手に時計を持っていて何かと見ていると、あぁっと彼は言うと皆に見えるようにする。

「これだろ。依頼主が探している時計」
「これが……」
「……」

王冠が模様にありかっこよいデザインで高そうな時計だが、どこか私の持っている懐中時計に似ている気がする。どこがといわれるとわからないがなんとなく。

「……陽菜ちゃんの持っている時計に似ているな」
「だな。……なんか関係あるのか?」
「……」

それぞれ反応示すなか、飛鳥くんは黙ってその時計を見つめている。何か知っているのかと思い、聞こうとした瞬間……

「つか、飛鳥! お前のせいで俺食われるしずぶ濡れだし……お前言いたい事はねぇのか?」
「あぁ……お疲れ様」
「お前なぁー!!」
「ははっ、ソル。食われかけたのに元気だなー」

ソルトくんが思い出したらしく怒りだし、いつもの二人の喧嘩になってしまった。
その喧嘩と止めていると結構な時間になり、これ以上遅くなっては危ないと町へと戻ることになり、私は飛鳥くんに聞くことは出来なかった。


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