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少年との出会いと
十話「アンタ……何者っスか」
しおりを挟む記憶喪失になってからはじめて同性と話す機会を貰い、楽しみ半分緊張半分のドキドキしながら姫亜ちゃんの後を追い、部屋へと入る。
宿屋の部屋はベッドがふたつ、ソファーが壁側に窓側には小さなテーブルがあった。元の世界のホテルの部屋もこんな感じだった気がして、辺りを見回していると、ポンっと肩を叩かれ、振り返るとニヤリと笑うむぎちゃんの姿が。
「邪魔な男共がいなくなり、女だけになった。だったら、話すことは……」
「? 部屋の寝るところですか? 私はソファーで……」
「いやいや、女同士だし別に一緒に寝てもいいと思うから全員ベッドでいいと私は……って違う!」
「え?」
じゃあ、なんだろうかと不思議に首を傾けるとベッドに座った姫亜ちゃんが微笑みながら口を開いた。
「ふふ、ごめんね陽菜ちゃん。むぎはめんどくさいの」
「ひーめーあ! 目の前にいる人物に対してめんどくさいって酷くない!?」
「だって事実だもの。陽菜ちゃんも、好きな場所に座って」
「はぁ……じゃあ、ソファーに……!?」
ソファーに座ると、むぎちゃんが隣に座り距離を縮めてきた。グィっと近寄ってくるから驚いて、彼女を見返すとまたニヤリと笑い口を開く。
「話すことはひとつなのだよ陽菜くん」
「は、はい?」
私がまるで悪い事をし、尋問されるように感じて、緊張しながらむぎちゃんの言葉を待つ。彼女はにっこり微笑みながら口を開いた。
「君、気になっている男の人はいないかな?」
「…………え?」
予想外の発言で、私は固まる。気になっている男の人はいないか? そんなの聞いてどうするのだろうかと考える私に、姫亜ちゃんはため息交じりに言う。
「そんなことじゃないかと思った。陽菜ちゃんごめんね。むぎは、恋バナというのしたかったみたい」
「え……恋バナ?」
恋バナって、好きな人に関する話をするあの恋バナだろうか? それを記憶喪失の私が? そんなの私がするのは難しいじゃないだろうか。
「すみません……私記憶喪失で、そういうのは……」
「えぇぇぇ!? 周りに男二人いて、どちらか気になるとかないの? 戦って守って貰ってキュンってしないの?」
「そういうのは……特に……」
有難いし申し訳ないなぁっとは思うが、キュンとした感情は抱いたことはない。
「んーそんなものかな……悪いけどパッと見二人共美形さんじゃないしねー」
「むぎ、それは美形じゃないと恋愛出来ないっと言っているようなもので失礼だと思うよ」
「お、姫亜は恋愛するのは顔じゃないって言いたいのかー!?」
私から視線を姫亜ちゃんに向け、キラキラした瞳で聞くむぎちゃんに姫亜ちゃんは苦笑いする。
「人は外見で判断する人もいるかもしれないけど、私は……そうだな。好きになった理由は顔じゃないな」
「……姫亜ちゃんは好きな人いるんですか?」
微笑む姫亜ちゃんの顔が赤く染まり、元から可愛かったが仕草雰囲気も可愛く見える。それをみて、彼女が恋をしているんだなってのが伝わった。
「いるよ……」
「!」
「彼は忘れているかもしれないけど、私にとってはすごく大切な思い出で、ずっと大切にしていたい気持ち」
「……すごく大切な思い出……」
――俺が守ってやる
「?」
照れている姫亜ちゃんの言葉で、手を差し伸べる誰かの姿が思い出す。その言葉は確かソルトくんが……? 手を差し伸べる誰かがわからないくらい脳内で、靄がかかる。何とかして思い出そうとする私に、むぎちゃんが声をかける。
「陽菜?」
「あ、すみません……その、素敵な気持ちだなって思って」
「ありがとう。……その人に私避けられているけどね……」
「それは……悲しいですね」
姫亜ちゃんは寂しそうに言われ、励まそうと思ったがうまい言葉が思いつかずそのまま答えてしまった。姫亜ちゃんは気にせず、私の方を見つめる。
「うん、だから私はその人が私の人を向いてくれるように頑張っているんだ」
「そうなんですか!」
避けられているのに、向いてくれるよう頑張るなんてすごいと思い、私は笑顔を向ける。
「いつか振り向いてくれるといいですね」
「そうだね。……その為には手段は問わないつもりだけど」
「……? 姫亜ちゃん?」
最後の方に聞こえないくらい小さな声で何かを呟き、何かと向くと姫亜ちゃんは「なんでもない」といい、にっこり笑う。
不思議に思いながら、恋ってすごいんだなぁっと感じる。私も、記憶喪失の前はしていたのだろうか。
「しかし、陽菜は本当に気になる人いないの~?」
「え」
「あの二人じゃなくても、会った人とか助けてくれた人とかさー」
「助けてくれた人……」
ソルトくんには沢山助けて貰っているが、他にも……。
――怪我はないか?
「!!」
「陽菜?」
あの洞窟での飛鳥くんを思い出した。刀についた血を払い、こちらに振り向き聞いてきた時のあの顔をだ。なんだか、あの時は懐かしさを感じ、ドクンと……
「あ、あれ?」
今日私の前に立つ姿も思い出し、後ろ姿はカッコよかった気がしてきた。そういえば、飛鳥くんって……
「おぉ!? 陽菜その顔はいるな!?」
「!?」
むぎちゃんに顔を覗き込まれ指摘され、更に赤くなる。なんだろう、ソルトくんにだって助けて貰っているのに、今思い出すのは助けて貰った飛鳥くんのことだ。
「誰だ? 名前は……」
「わ、私……」
これ以上いると、なんだか飛鳥くんをうまく見れないような気がしてソファーから立ち上がる。
「ちょっと夜風当たってきます!!」
「あ、ちょっと陽菜ー!?」
熱を冷ますためにむぎちゃんから逃げる為に私は、部屋から飛び出した。
「う、う……飛鳥くんのことそんな意識したことなかったのに何でいきなり……」
熱い頬をおさえ、夜道を歩く。街頭は少ないからか、星が綺麗で見上げる。
「野宿している時も思ったけど星空も綺麗だなぁ……」
ちろる先輩と話こんだ時も星空が綺麗だったなぁっと、別のこと考えようと上を見ながら歩いていた。そんなことをしていたから、背後の気配に気付かなくヒヤリとしたナイフが首元に当てられる。
「動くな」
「!?」
驚きでピタリと動きを止める。動揺しながら私は、こんな夜中に一人で行動してしまった自分の迂闊さに反省した。
「コイツ……姫亜様と一緒にいた女だよな」
「あぁ……間違いない。これで、俺らは……」
「!」
会話から、昼間に姫亜ちゃんに絡んでいた男達なのを知る。自分のせいで、姫亜ちゃんやソルトくん達に迷惑かけるなんて……
「とりあえず宿にこの女を……」
「この女を……なんだ?」
「!?」
「え……」
男達も気付いていなかったようで、目の前にいた茶髪の少年……飛鳥くんに驚いているようだった。
飛鳥くんは刀を構え男二人に睨み付ける。
「その女を離せ。離さなければ……」
「くそっ……」
睨みに怯え、男達は一歩下がるが離そうとしない。余程、姫亜ちゃんに用があるのか。
「そうか……だったら……」
「怯えるな! こっちには女がいるんだ! 別に怖いものなど……!?」
「……?」
男の言葉が止まる。飛鳥くんはそれを疑問に感じ、近寄ろうとするが後ろの強い気配に気付いたのだろう。刀を鞘から引き抜き、振り向き……モンスターに振るった。
「な、なんで町中にこんなでかいモンスターが現れるんだ!?」
「そんなの知るか! ここはともかく……」
「ひゃっ」
私を痛いくらい強く握り、走り逃げようとする。
「甘泉! っち……!」
それを見て、どうにかしたそうにしているがモンスター相手にしていて飛鳥くんは舌打ちをし、斬りつけるしかない。はやく片付けるのがいいと取ったのだろう。だが。
「?」
何度斬りつけてもモンスターが倒される気配がない。飛鳥くんは結構経験値が高く、ここら辺のモンスターは瞬殺出来るのに、何でと抵抗しながら見ているとモンスターと私が目があった。
「!?」
目があった瞬間にモンスターは、いい獲物見つけたみたく目がキラリと光り飛鳥くんを簡単に払い、私の前にドスドス音を立てて進んでくる。
「なっ!」
「甘泉!」
焦った飛鳥くんや手を掴んでいる相手の声。逃げようと体を男達も引っ張り走ろうとしたが……。
「え?」
「くそ……こんな女でも盾になれよ!」
トンっと、男達に押され私は襲い掛かっているモンスターの前に出された。自分の状況を理解出来ないまま、飛鳥くんの叫び声と……モンスターのあいた真っ暗な口を最後に……意識を失った。
**
「甘泉ーーー!!!」
嫌な予感がし、ちろる先輩と一緒に外に向かうと誰かの悲鳴と慣れたくないモンスターの強い気配。声がした方向に向かうと、そこには怪我を負っている飛鳥の姿と昼いた男二人……え?
俺はその現場に行き、よくわからなくて固まってしまった。
モンスターに食べられそうな陽菜の前に立つ深く帽子をかぶり白いロングコートの男がいるのもまだいい。それより、空間が灰色でその場にいる全員が動かず時が止まったようになっていた。
どういうことだろうかと、ちろる先輩に意見を聞こうとして彼もいないのに気付き、探せば同じく時が止まったように固まっていた。
「?」
「……陽菜に手を出したのが最後だ……散れ」
白いロングコートの男が、黒いカマを取り出し振るうと陽菜を食べようとしていたモンスターが黒くなり砕ける。
そして、陽菜の方に振り向き俺は、彼だけ色があるのに気付き疑問を言う。
「アンタ……何者っスか」
「……」
彼はその問いには答えず、陽菜を優しく抱き抱え愛しそうに額にキスをする。その姿は、まるで恋人のようにみえて。
「アンタ……もしかして、陽菜の恋人スか?」
「……」
彼に問いかけるが、答えない。その間にも彼は陽菜を優しく安全な場所へとおろす。
答えないから真実はわからないが、俺のカンがいっていた。コイツは陽菜にとって大事な人だと。だから。
「アンタ、陽菜が大事なんスよね」
「……」
「コイツ、記憶喪失なんスよ……だから、アンタがコイツの傍にいてあげ……」
「禾本ソルト」
守ってやり、記憶を取り戻す手伝いしてあげて欲しいと言おうとしたのに、コイツが遮って俺を赤い瞳で見つめる。
「アイツは……今回のように巨大な力を持つモンスターに襲われやすい」
「!!」
「だから気を付け守ってやれ」
「なっ……!」
だったら、俺なんかより力あるアンタが守ってという前にパチンと指で鳴らすと、灰色の世界が色がつく。時間が動き出したようだ。
「何言ってるんスか!! 陽菜はアンタの大事な女なんスよね!? それを他人に押し付けるんスか? 記憶喪失で、陽菜は最初アンタに会って不安かもしれないスけど、それでも大事なら傍に……」
「……」
コイツは俺の言葉を無視し、モンスターがいなくなり不思議がっている男二人に歩みよる。二人は、彼を見て悲鳴を上げ青ざめていく。
「ち、違います……俺らは何も任務は……」
「……お前らは……アイツを盾にし逃げようとした」
「!?」
「重大な罪を犯した……その罪は……」
「やめ……」
「死を持って償え」
モンスターを倒した時と同じく黒いカマを男達に振るう。真っ黒になり、砕けていくのを俺は見つめる。彼もその様を見届けた後に、どこか行こうとするので、俺は慌てて声をかける。
「待てよ! 話は……」
「ソル!」
「先輩!?」
「なんかよくわかんねーけどあんな危ないやつやめとけって!」
「でも、俺は……」
ちろる先輩が、アイツに詰めかかろうとした俺を止める。陽菜が大事なら誰かに預ける意味がわからない。せめて、理由だけでも……アイツを見ると、陽菜に振り返る。
「……!」
その表情は切なそうで、辛そうで……
「何で……!」
そんな表情するなら何故陽菜の傍にいないのかと、もう一度聞く前にアイツは消えていった。
「あー、何アイツ……ここのラスボス的な存在? 怖かった……」
俺を止めていたちろる先輩が、手を離し震えるフリをする。俺は無言で去った先を見ている。
「? ……ソル?」
「……」
「もしかして止めたの怒っているのか?」
「……先輩」
「ん?」
アイツの陽菜への行動の全てを思い出し、言う。
「何で……大切な女を他の誰かに預けたり出来るんスかね……」
「ソル?」
「……俺には理解出来ないっスよ……」
その言葉に先輩は何も返さなかった。
**
夢を見た。
泣いている私に優しく涙を拭い、話を聞き最後に笑ってくれる彼の夢を。
彼の笑顔が好きだった。楽しそうに笑って、適当に返し何度も私の名前を呼ぶ彼の声がとても……
「陽菜ちゃん!」
「!!」
名前を呼ばれ、呼ばれた方向へと首を向けると心配そうに私を見る姫亜ちゃんの姿が。
「モンスターに襲われたんだよね? 大丈夫?」
「わ、私……」
そうだ、モンスターに襲われて……
「あ! 飛鳥くんは……」
「飛鳥くんは無事に隣の部屋で待機しているぜ」
ちろる先輩がひょっこと現れ、説明され安心した。振り払われた時怪我を負っていたから心配だった。……?
「あれ? モンスターは誰が退治したんですか?」
私はあの時意識を失ってしまったが、こうして助かっているのだ。誰かが助けてくれたのだろう。
「あーそれは通りすがりのやつかな」
「? ……あ、もしかしてまたチェシャさんですか?」
「チェシャ?」
「猫耳で黒い服着ている人です。唯是君の時助けて貰いました」
「あーそんな感じ」
「??」
その言い方だと、違う人なんだろうけど深く聞くのは躊躇われる雰囲気だったので、起き上がる。
「陽菜いきなり起き上がって大丈夫~?」
「はい、怪我はないみたいですし……」
「そう?」
「はい……ところでちろる先輩」
「ん?」
「ソルトくんはどこでしょうか?」
**
「っち」
ちろる先輩に、あった事を説明したらそんな危ないやつに陽菜ちゃん預ける方が駄目じゃないと言われてしまった。確かにそうなんだが、なんというか。
「アイツがしたあんな残虐なことした理由は陽菜が関係していたからじゃ……」
飛鳥の話、あの男達は陽菜を盾にしたかららしいし。まぁ、やりすぎだとは思うけども、一応理由はある。
「……」
何度も思い出される陽菜を大切そうにしているアイツの姿。どうして、あんなに大切な存在なのに、何でほっとくんだ。こんな危険な世界に。
「やっぱり考えてもわかんねー」
「? 何がですか?」
「!? 陽菜!?」
外でぼっーとしていた俺に陽菜が話し掛けて来た。病み上がりで昨日襲われたのに何一人でいるんだ。
「アンタ、何一人で……」
「ソルトくん」
「あ?」
「昨日は一人行動して迷惑をまたかけてすみません」
「え……」
「私が軽率に一人で外に出たからモンスターに襲われて……」
「……」
しゅんと落ち込む陽菜に、俺は黙って陽菜を見る。アイツが大切にしているコイツは、強いモンスターに襲われやすいと言っていた。つまりまた……
「ソルトくん」
「なん……ってちけぇ!」
「その……今度は気をつけますから」
「!?」
「だから、見捨てないでください!」
「……!」
その言葉を聞いて、俺は何言わせているんだろうって思った。俺はコイツを守ると言った。
それは、あの男が大切に思っていようが、変わらないのではないだろうか。
「……見捨てねぇよ」
「ソルトくん」
「ぜってぇ、アンタを守る。最後までな」
「……!」
その守る日までが、アイツが迎えに来る日までかもしれないけど。それでも、俺はあの時約束したから。
「ありがとうございます……だったら、私は」
「?」
「ソルトくんと一緒に現実に帰れるように努力します」
「……そうだな」
陽菜を守ろうと思ったのだった。
「陽菜、俺も……」
「話は終わったか」
「うわっ!?」
現実へ戻るように頑張ると言おうとした俺に、後ろから声をかけられ驚くと、呆れた顔をした飛鳥の姿があった。
「あ、飛鳥!? お前いつからいたんだよ!?」
「え~ソル、知りたいのー?」
「先輩まで!?」
ちろる先輩まで現れ、聞かれていたのかと別に恥ずかしい話していたわけじゃないのに赤くなる。
「次の行き先の話をしようと思ってな」
「はっ? 行き先ってお前怪我……」
「とっくに治している」
「はやいな」
結構痛そうだったのに、陽菜に頼らずすぐ治しているはやさに驚いている俺を無視し、マップを出す。いいマップ持っていてムカつく。
「次の行き先候補……俺はあるんだ」
「……聞いてやるけど次の行き先は?」
「あぁ……次の行き先は……迷いの森だ」
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