11 / 15
番外編
苦労人・安藤(アレクシスさま)
しおりを挟む
俺、安藤耕太。男盛りマシマシの29才、恋人募集中。
堂上国際メディカルセンターの理事を務め、堂上インターナショナルメディカルグループの経営を牛耳る堂上冷司――その第4秘書をやってる。
第1~第3秘書はスケジュール管理と書類に忙殺されてるけど、俺の役割は……冷司に付き添う随行秘書、そして見張り役。
……そう、見張り役。
それは俺がまだ純情一直線だった9歳の時にさかのぼる。
****
父ちゃんは運送会社勤務。倉庫裏の一間きりの長屋で、全員で雑魚寝生活。
母ちゃん以外は全員男。飢えはしないが、満腹にもならない。
そんな変わり映えしない日常を変えたのは、弟たちと飼い犬の雑種コロを散歩に連れて行った、あの日だった。
庶民の街には似つかわしくない黒塗りの高級車が急停車。
そこから――天使が舞い降りた。
サラサラとした金髪が肩口まで流れ、宝石を思わせる大きな緑の瞳がキラキラと輝いていた。
頬はほのかに紅に染まり――まるで西洋絵画から抜け出してきた天使そのもの。
その圧倒的な存在感に、俺たちの心はわしづかみにされた。
きっと、この天使に心を奪われない人間なんて、この世に一人もいない。
その天使が俺を見て、透き通る声で言った。
「名前は?」
や、やべぇ……俺に聞いてる?!
「……安藤耕太」
天使の眉がきゅっと寄る。
「違う。その子の名前」
小さな指先が示したのは――
「……え、コロ?」
天使は頬をバラ色に染め、うっとりとコロを見つめた。
「そう……コロ……わたちのコロ……」
……ん?あれ、この天使、なにか違う?
ムズムズ。口もとがくすぐったい。これが初恋?
それから毎日のように天使が現れた。
「これ、わたちのコロにゃんに……」
差し出されたのは高級霜降りステーキ。
ごくり。セール肉ですらめったに食べられない俺たちの喉が鳴る。
それ以来、家族は天使の差し入れをコロと分け合って大喜び。
まさに天使さまさまで、大歓迎ムード。
でも天使は、じーっと……ただじーーーーっとコロを見つめて、ぷるぷる震えてるだけ。
気がつけば、一日中どこかの物陰からじーーーーっと覗いている……。
電柱の影から。物置の陰から。ブロック塀の隙間から。
コロも最初は美味しい肉に心を奪われてしっぽを振っていたが、次第に耳を伏せ、しっぽを丸めて小屋から出て来なくなった。
――あんなにきれいでかわいい天使なのに、怖いと思ってしまった。
そしてまた、ムズムズ……俺の口もとがくすぐったい。
「耕太、コロどうにかならない?」と母ちゃん。
……うん、やばいのは分かってる。
ある日、公園にまた黒塗りが止まり、天使が舞い降りた。
ジャングルジム越しにこっそり……のつもりで、丸見えの状態でコロを見つめている。
俺はコロと弟たちを逃し、天使と対峙した。
「これ、わたちのコロにゃんに……」
差し出されたのは緑の宝石を散りばめた首輪。
「わたち色のくびわ」
犬に私色って……口がムズムズ。
「いらない。それに、コロが怖がってるから、もう来ないで」
「でも、わたちたち、ずっと一緒って誓いあって……」
誓いあったって……ムズムズ。
「俺、もう行くから。バイバイ」
――バイバイ、俺の天使、俺の初恋。
……と思ったら!
今度は高級車軍団が家の前に到着。
黒スーツの男たちが箱を抱え、美丈夫と女神級の美女が天使を連れて登場。天使の両親だ。
俺たちは今、一家そろって――その恐ろしいほど美形な一家を目の前に正座で勢ぞろい。
……やっぱり、天使を拒否したのはまずかった?
だらだらと冷汗が流れる。
その時、美丈夫が口を開いた。
「この度、私共の息子が安藤さんご一家にご迷惑をおかけしたと聞きまして」
「息子……?」
……娘じゃなくて?
「ふふ……冷司はよく娘に間違えられますが、私と同じ立派なムスコを持った、立派な息子です」
親父ギャグかよ!!ムズムズ!!
さらに――
「安藤家の末息子コロさんを、ぜひうちに輿入れさせていただきたい」
ぽかーん。俺たち一家、口あんぐり。
天使が満面の笑みでうなずく。
「コロにゃんとわたち、一生を誓った仲だから」
口もとがまたムズムズ!!
いや、これは初恋のムズムズじゃない。これはっ――
俺は立ち上がった。
「誓った仲ってなんだよ!コロは犬だ、誓えねぇだろ!犬と添い遂げようとすんな!天使の顔したバカか、バカなのか!それに、コロにゃんじゃねぇ、コロは犬だからコロわんだ!!」
「ワンッ!!!」
コロまで参戦。
俺は美丈夫を指差す。
「あんたもだ!子供の前で下ネタ言うなよ!親父ギャグ寒すぎんだよ!芯まで凍えたわ!親なら――」
「耕太!!!」
母ちゃんの絶叫で我に返り、顔から血の気が引いた。
……やべぇ。大富豪を怒らせた?
父ちゃんの仕事を奪われ、この家も追い出され、借金地獄で一家離散コース?
家族全員、真っ青になって判決を待つみたいに固まった。
だが次の瞬間――
美丈夫と美女がうんうん頷いて拍手。
「やはり君だ。耕太くん、うちの冷司の暴走を止められるのは君だけだ。君を堂上グループに採用したい」
……は?俺、9才なんですけど?
こうして俺は、9才にして堂上グループのぶっといレールに乗っかった。
初恋と引き換えに、弟たちと一緒に英才教育を受け、未来を掴んだのだった。
……まあ、俺だけは冷司の見張り役、もとい暴走ストッパーとして、いばらの道を歩むことになるんだが。
ーーーーー
じつは……安藤もといアレクシスさま、本来はもっと出番があったのですが、作者の独断と偏見で投稿直前にバッサリ(汗)。
その結果、存在感うすめの苦労人に……。
番外編ではリベンジしてもらいましょう!
堂上国際メディカルセンターの理事を務め、堂上インターナショナルメディカルグループの経営を牛耳る堂上冷司――その第4秘書をやってる。
第1~第3秘書はスケジュール管理と書類に忙殺されてるけど、俺の役割は……冷司に付き添う随行秘書、そして見張り役。
……そう、見張り役。
それは俺がまだ純情一直線だった9歳の時にさかのぼる。
****
父ちゃんは運送会社勤務。倉庫裏の一間きりの長屋で、全員で雑魚寝生活。
母ちゃん以外は全員男。飢えはしないが、満腹にもならない。
そんな変わり映えしない日常を変えたのは、弟たちと飼い犬の雑種コロを散歩に連れて行った、あの日だった。
庶民の街には似つかわしくない黒塗りの高級車が急停車。
そこから――天使が舞い降りた。
サラサラとした金髪が肩口まで流れ、宝石を思わせる大きな緑の瞳がキラキラと輝いていた。
頬はほのかに紅に染まり――まるで西洋絵画から抜け出してきた天使そのもの。
その圧倒的な存在感に、俺たちの心はわしづかみにされた。
きっと、この天使に心を奪われない人間なんて、この世に一人もいない。
その天使が俺を見て、透き通る声で言った。
「名前は?」
や、やべぇ……俺に聞いてる?!
「……安藤耕太」
天使の眉がきゅっと寄る。
「違う。その子の名前」
小さな指先が示したのは――
「……え、コロ?」
天使は頬をバラ色に染め、うっとりとコロを見つめた。
「そう……コロ……わたちのコロ……」
……ん?あれ、この天使、なにか違う?
ムズムズ。口もとがくすぐったい。これが初恋?
それから毎日のように天使が現れた。
「これ、わたちのコロにゃんに……」
差し出されたのは高級霜降りステーキ。
ごくり。セール肉ですらめったに食べられない俺たちの喉が鳴る。
それ以来、家族は天使の差し入れをコロと分け合って大喜び。
まさに天使さまさまで、大歓迎ムード。
でも天使は、じーっと……ただじーーーーっとコロを見つめて、ぷるぷる震えてるだけ。
気がつけば、一日中どこかの物陰からじーーーーっと覗いている……。
電柱の影から。物置の陰から。ブロック塀の隙間から。
コロも最初は美味しい肉に心を奪われてしっぽを振っていたが、次第に耳を伏せ、しっぽを丸めて小屋から出て来なくなった。
――あんなにきれいでかわいい天使なのに、怖いと思ってしまった。
そしてまた、ムズムズ……俺の口もとがくすぐったい。
「耕太、コロどうにかならない?」と母ちゃん。
……うん、やばいのは分かってる。
ある日、公園にまた黒塗りが止まり、天使が舞い降りた。
ジャングルジム越しにこっそり……のつもりで、丸見えの状態でコロを見つめている。
俺はコロと弟たちを逃し、天使と対峙した。
「これ、わたちのコロにゃんに……」
差し出されたのは緑の宝石を散りばめた首輪。
「わたち色のくびわ」
犬に私色って……口がムズムズ。
「いらない。それに、コロが怖がってるから、もう来ないで」
「でも、わたちたち、ずっと一緒って誓いあって……」
誓いあったって……ムズムズ。
「俺、もう行くから。バイバイ」
――バイバイ、俺の天使、俺の初恋。
……と思ったら!
今度は高級車軍団が家の前に到着。
黒スーツの男たちが箱を抱え、美丈夫と女神級の美女が天使を連れて登場。天使の両親だ。
俺たちは今、一家そろって――その恐ろしいほど美形な一家を目の前に正座で勢ぞろい。
……やっぱり、天使を拒否したのはまずかった?
だらだらと冷汗が流れる。
その時、美丈夫が口を開いた。
「この度、私共の息子が安藤さんご一家にご迷惑をおかけしたと聞きまして」
「息子……?」
……娘じゃなくて?
「ふふ……冷司はよく娘に間違えられますが、私と同じ立派なムスコを持った、立派な息子です」
親父ギャグかよ!!ムズムズ!!
さらに――
「安藤家の末息子コロさんを、ぜひうちに輿入れさせていただきたい」
ぽかーん。俺たち一家、口あんぐり。
天使が満面の笑みでうなずく。
「コロにゃんとわたち、一生を誓った仲だから」
口もとがまたムズムズ!!
いや、これは初恋のムズムズじゃない。これはっ――
俺は立ち上がった。
「誓った仲ってなんだよ!コロは犬だ、誓えねぇだろ!犬と添い遂げようとすんな!天使の顔したバカか、バカなのか!それに、コロにゃんじゃねぇ、コロは犬だからコロわんだ!!」
「ワンッ!!!」
コロまで参戦。
俺は美丈夫を指差す。
「あんたもだ!子供の前で下ネタ言うなよ!親父ギャグ寒すぎんだよ!芯まで凍えたわ!親なら――」
「耕太!!!」
母ちゃんの絶叫で我に返り、顔から血の気が引いた。
……やべぇ。大富豪を怒らせた?
父ちゃんの仕事を奪われ、この家も追い出され、借金地獄で一家離散コース?
家族全員、真っ青になって判決を待つみたいに固まった。
だが次の瞬間――
美丈夫と美女がうんうん頷いて拍手。
「やはり君だ。耕太くん、うちの冷司の暴走を止められるのは君だけだ。君を堂上グループに採用したい」
……は?俺、9才なんですけど?
こうして俺は、9才にして堂上グループのぶっといレールに乗っかった。
初恋と引き換えに、弟たちと一緒に英才教育を受け、未来を掴んだのだった。
……まあ、俺だけは冷司の見張り役、もとい暴走ストッパーとして、いばらの道を歩むことになるんだが。
ーーーーー
じつは……安藤もといアレクシスさま、本来はもっと出番があったのですが、作者の独断と偏見で投稿直前にバッサリ(汗)。
その結果、存在感うすめの苦労人に……。
番外編ではリベンジしてもらいましょう!
271
あなたにおすすめの小説
元執着ヤンデレ夫だったので警戒しています。
くまだった
BL
新入生の歓迎会で壇上に立つアーサー アグレンを見た時に、記憶がざっと戻った。
金髪金目のこの才色兼備の男はおれの元執着ヤンデレ夫だ。絶対この男とは関わらない!とおれは決めた。
貴族金髪金目 元執着ヤンデレ夫 先輩攻め→→→茶髪黒目童顔平凡受け
ムーンさんで先行投稿してます。
感想頂けたら嬉しいです!
悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~
トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。
しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。
貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。
虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。
そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる?
エブリスタにも掲載しています。
魔王に転生したら、イケメンたちから溺愛されてます
トモモト ヨシユキ
BL
気がつくと、なぜか、魔王になっていた俺。
魔王の手下たちと、俺の本体に入っている魔王を取り戻すべく旅立つが・・
なんで、俺の体に入った魔王様が、俺の幼馴染みの勇者とできちゃってるの⁉️
エブリスタにも、掲載しています。
学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました
こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。
転生したら本でした~スパダリ御主人様の溺愛っぷりがすごいんです~
トモモト ヨシユキ
BL
10000回の善行を知らないうちに積んでいた俺は、SSSクラスの魂として転生することになってしまったのだが、気がつくと本だった‼️
なんだ、それ!
せめて、人にしてくれよ‼️
しかも、御主人様に愛されまくりってどうよ⁉️
エブリスタ、ノベリズムにも掲載しています。
親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた
こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。
世界一大好きな番との幸せな日常(と思っているのは)
かんだ
BL
現代物、オメガバース。とある理由から専業主夫だったΩだけど、いつまでも番のαに頼り切りはダメだと働くことを決めたが……。
ド腹黒い攻めαと何も知らず幸せな檻の中にいるΩの話。
薄幸な子爵は捻くれて傲慢な公爵に溺愛されて逃げられない
くまだった
BL
アーノルド公爵公子に気に入られようと常に周囲に人がいたが、没落しかけているレイモンドは興味がないようだった。アーノルドはそのことが、面白くなかった。ついにレイモンドが学校を辞めてしまって・・・
捻くれ傲慢公爵→→→→→貧困薄幸没落子爵
最後のほうに主人公では、ないですが人が亡くなるシーンがあります。
地雷の方はお気をつけください。
ムーンライトさんで、先行投稿しています。
感想いただけたら嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる