元・純白天使が、腹黒悪魔になって俺の前に舞い戻った件

米山のら

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見回すと、そこはまるでモデルルームのように、完璧に整った統一感のある部屋だった。
落ち着いた色合いでまとめられていて、俺の好みにぴったりで――
不思議と、心が落ちついた。

窓の向こうに広がるのは、一面に広がる、光の海のような東京の夜景。

……まるで、異世界。

そして俺は、まだ宗のひざの上に座っていて――

「ここ、どこ……?」

「ふふ、ここは私の家だよ」

「へ?」

「いろいろと……技術を売って稼いでるからね」

「技術……?」

宗が一瞬だけ黙り込んで、きゅっと口を結ぶ。
それから、俺の目をじっとのぞき込んでくる。

「サイバーセキュリティ……とか」

「それって、ニュースに出てくるハッカーとか?」

俺がそう言うと、宗のまつげがほんのわずか揺れた。
――まるで、一瞬だけ心が揺れたみたいに。

そして、水色の瞳が、何の感情も映さないまま俺を見返してくる。
すべての反応を、見逃さないって顔で。

「……そう、だね」

ふーん……なんかちょっと怖い。でも、うん、よく分からない。

「あ、いま何時……?」

「もうすぐ8時かな。すぐに夕食にしようね」

「え、いや……俺、帰んなきゃ」

「お義母さんに電話しておいたよ。
疲れて寝てるユズを起こすのがかわいそうって言ったら、泊まっておいでって」

「え……でも」

「それに――」

宗が、冷たい手で俺の頬をそっと包みこむ。
にじみかけた涙を、やさしく指先でぬぐいながら言った。

「こんな、かわいそうな顔……心配、かけたくないよね?」

俺は力なく、こくりと頷いてしまった。

宗はまた、やさしく俺を抱きしめ、
くすっと、満足そうに笑った。

「……良い子」

そして、夕食の準備のために立ち上がっていく。

そのぬくもりが離れていくのを、俺は、
――さみしい、って思ってしまった。


***


「はい、あーん」

ビーフシチューをすくったスプーンが、俺の口元に差し出される。

パクリ。

もぐもぐ……

「美味しい……」

気づけば、俺はまた宗の膝の上に乗せられていて、
今は食事を――“与えられている”最中だった。

……なんで?

一度、宗の膝から降りようとじたばたもがいてみたけど、
宗のほっそりとした腕は見た目以上にたくましくて、
俺のお腹にしっかりと巻きついていて、結局、降りられなかった。

「ふふ、良かった。ユズが来るかもしれないと思って……
昨日のうちに作っておいて。
……ちゃんと味、沁みてるでしょ?」

こくり、と頷く俺。

……あ、俺って、すごく……流されてない?

でも、今週いろいろありすぎて、
頭がずっとぼんやりしてて――

その後は、流れるようにお風呂も借りて。

気づけば、渡されたこげ茶の上下を着て、脱衣所でぼーっとしていた。

……あ、これ、ただのパーカーじゃない。
フードに……何か、ついてる?

ふと入ってきた宗が、ニコニコしながら、俺にそのフードをかぶせてきた。

鏡の中には、くりくりした目の俺に、こげ茶のうさみみ。

……俺は、静かにフードを取った。

「ダメだよ。すごく……似合ってるから」

宗が、後ろから抱きしめてきて、ゆっくりと、またそれをかぶせる。
俺たちは、鏡の中で目が合った。

「ユズのために、特別に仕立てたフード付き。
……間に合ってよかった」

鏡の中で、ニコニコしてる宗の顔に――

俺は……負けてしまった。

「じゃあ、私はお風呂に入るから。
……ユズは、私を待たずに、先にベッドに入ってていいからね」

「え……一緒?」

宗の指先が、俺のあごをそっと持ち上げた。
そのまま顔が近づいてくる。
――あと一歩、俺が求めたら、キスできちゃう距離。

「前も……一緒に寝てたよね?」

宗の甘い吐息が、俺のくちびるをかすめていく。
それだけで、かぁっと顔に血がのぼるのがわかった。

「でも……五歳……」

宗の、透明感のある水色の目が、じっと俺をうかがってくる。

「私たちは、なにも変わってないよね?」

そう……なのかな?

でも――急激に周囲が変わっていく中で、
なにか一つだけでも、変わらないものが欲しかった。

……せめて、俺たちだけは――変わっていないって、信じたかった。

だから俺は――

こくり、と頷いた。

宗がまた、かすめるような優しいキスをして、
ゆっくりと――口角を上げ、静かに微笑んだ。

……それはまるで、正解を導き出した俺への、ごほうびのようなキスだった。


そうして俺たちは、五歳のころと同じように――
しっかりと抱きしめ合いながら、夜を過ごしたのだった。
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