元・純白天使が、腹黒悪魔になって俺の前に舞い戻った件

米山のら

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おまけ

極限(宗視点)

私は、ブラックウェル宗。
日本で西洋人モデルをしていたアメリカ人の母と、天音財閥の御曹司である日本人の父との間に生まれた、十七歳。

母は、美貌にふさわしい高慢さと激情を備え、ひどく気難しい人だった。
父は――そんな彼女の見た目だけに惹かれた、浅はかな人間だった。

彼らは、母に似ていない私に興味がなく、私は庭に放置されて育った。

そんなとき――ユズに出会った。
隣家に遊びに来ていた、小さな男の子。
笑顔で手を差し出し、「遊ぼう」と誘ってくれた彼は、私にとってすべてだった。

年に数度しか会えなくても、それだけでよかった。

だが、母の容姿が衰えると、父はあっさり離婚し、私ごとアメリカにお払い箱にした。

母はアルコールに溺れ、日に何度も怪物になった。
酔っては怒鳴り、叫び、そして――私を追いかけた。

広い家に、怪物と私だけ。

やがて、私は一日中、物陰に潜んで過ごすようになった。
闇の中で考えるのは、ただひとつ。

(ユズ……ユズ……ユズ……はやく、あいにきて……)

そんな地獄にも、ある日、突然終わりが訪れた。
暴力の痛みで泣く私を、怪物がうるさがって家の外に放り出したのだ。

通報。
逮捕。
――そして、救済。

父の姉が私を引き取り、従兄の司さんと育ててくれた。

アメリカで高度な教育を受けた私は、IT分野に進み、技術を磨いた。
すべては、日本にいるユズと、オンラインでつながるために。

そして今――

私はハッキングの高度な技術を惜しみなく使い、
ユズにまとわりつくノイズを排除し続けている。

標的に詐欺メールを送りつけ、そこから裏口(バックドア)を仕掛けてパソコンに侵入。
必要なデータを収集し、その情報をもとに対象を排除する。

私の得意とする流れだ。

次が、最後の一手。
――チェックメイト。

ターゲットは、ユズの父親。
家事を必要とする状況に追い込み、彼を県外に出すこと。

長年、私はメロリとしてユズのそばにいた。
その中で、ユズも、その父親も、家事がまったくできないことを知った。
それについては、ユズの母親からも裏が取れている。

彼女は、私を全面的に信頼している。
私は確信していた――彼女は、ユズを私に託すだろうと。

そうして私は、オンラインミーティングに接続した。

そこには、久しぶりに見る司さんの姿と、彼のそばに寄り添う――見知らぬ、美しく、儚げな男性がいた。

「久しぶりだね」

返事をしようとしたその時、その美しい男性が、

「ヘ……」

とだけ発して、ぺこりとお辞儀をした。

(へ……? えっと、へ? へって何?)

首をかしげていると、司さんが楽しげに、玲さんを見やった。
あんな邪気のない表情を見るのは、初めてかもしれない。

「ふふ、玲。宗はこう見えて、日本人でもあるんだよ」

玲さんは、きょとんとした顔で私を見たかと思うと、今度は、

「き……」

と一言発し、ふふっと笑った。

(き……? 今度は“き”……? 気? 木? 期? まさかの“奇”?)

ぐるぐると、“き”が頭の中を駆けめぐる。

私を見ていた司さんの目が、すうっと細められる。
まるで、私を今まさに敵と認識したかのように。

なぜか、黒いもやが画面越しから漂ってきた……。

「そうだね……でも、ちょっと焼いちゃうかな?」

そう司さんが言ったとき、玲さんが——

「い……」

と声を漏らすと、司さんはふっと空気を軽くし、優しく微笑んだ。
画面越しに漂っていた黒いもやも、ふわっと霧散する。

急に甘い空気をまとい、玲さんの額にこつんと自分の額を重ねると、囁くように言った。

「それは……玲もだよ」

ふたりはそのまま見つめ合い、世界から切り離されたように微動だにしない。

…………。

私は思った。

私は今、何を見せられているのだろう。
このふたりは、どうして会話が成り立っているのだろう。
そして、いつになったら……現実世界に戻ってきてくれるのだろう。

――ユズの父親の件を司さんに頼めたのは、
私の精神が極限に達した、その三十分後のことだった。
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