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「ミケ……ミーケ」
「ん……なだ?」
布団にくるまってぐっすり眠っていたオレは、しぶしぶ目を開ける。
ま……まぶしい……。
キラキラ笑顔の洸のご尊顔が、寝起きの目に痛い。
「何時だば?」
「もうお昼過ぎだよ」
そのまま、美しい顔が近づいてきて、肉厚の舌がオレの中にねじ込まれてくる。
……酒くせぇ。
オレは手を突き出して、ぺいっと洸の顔を遠ざけた。
「酔ってらのが?」
「朝まで付き合いでね。もう酔ってないかな」
今度は腰をぐっと引き寄せられて、首筋に顔をうずめられる。
クンクンと、オレの匂いを嗅いでくる。
「ミケがいなくて……寂しかった」
……なんじゃそりゃ。
「ミケのために頑張ってきたんだよ。だから……」
ギラギラと、目に情欲を宿しながら、繊細な指がつつつーっとオレの背中をなぞる。
下へ、下へ。ついに、オレのつぼみへ。
「ふ……」
また、洸の舌が容赦なくオレの中に侵入し、逃げる舌をからめとってくる。
だから――
「酒くせえっきゃってば!」
オレはびしっと足を伸ばして、洸の綺麗な顔にお見舞いしてやった。
蹴られてもなお、洸の頬は紅潮し、ぎらつく視線は――オレのオレを、じっと見据えている。
怖い……でも、こいつは囮。
オレのオレ……ほんとに、ごめん。
お前の犠牲は、決して無駄にしない!
オレは子供のときの柔道の稽古を思い出し、洸を横四方固めで封じ込める。
横から腕と足で全身をしっかり押さえ込み、がっちりと。
余計に紅潮し、はぁはぁ……洸の息が荒い。
やった、効いてる!
オレは思わずニマニマ。
が!
押さえてるはずの洸の手が、オレの抑え込んでる体ごとぬるっと動いて、
探るように――いやらしく、オレのオレを撫でてくる。
「ミケには、まだまだ……躾が必要かな」
「ぴっ……!」
「あー…、じゃれてるところ申し訳ないっす。洸さん、特集の関係で、明日には次の現場入りになったっす。なので今日は、ほどほどにお願いするっす」
洸がオレをひっくり返し、そのまま覆いかぶさってくる。
でも、オレはその向こう――
不健康そうなマネージャーの顔を見てた。
そいつが、小さくこくりと合図を送ってくる。
……そっか。
数日あると思ってたのに、もう終わりなんだ。
一晩寝て、目が覚めたら――
そりゃ、夢からも覚めるってもんだ。
***
――そして。
さんざん洸に躾られて、気づけば夕方。
オレ、洸と一緒に外に出てる。
久しぶりの外出、きゃっぴー!
思わず駆け出そうとしたその瞬間――
ピンとつっぱる繋いだ手。
オレの体が、ぐいっと引き戻された。
洸の手が、がっちりとオレの手を握っている。
まるで、手かせみたいに。
「ミケが迷子になったら、危ないでしょう?」
オレはぶんぶんと縦に腕をふる。
でも、洸の手かせはけっして外れない。
……どころか、締め付けが強くなる。
「躾……」
「ぴっ……!」
そして、なぜか猫カフェに連れていかれて……
にゃーにゃー、にゃーにゃー!
猫どもが全員オレに集まってきて、ひざ、肩、頭、腕、背中――
……オレ、猫まみれ。
「やっぱり、同族の絆って強いのかな?」
……なんじゃそりゃ。
「シャーーッ!」
って威嚇してやったら、猫どもまで一緒に洸を威嚇しはじめて。
シャーシャー、シャーシャー!
シャーシャー、シャーシャー!
猫ども、大合唱。
「けけっ……」
オレはおかしくなって、笑ってやった。
こんなに楽しいの、いつぶりだろうか。
洸は、猫どもに威嚇されながらも、オレだけを見てて、
一緒に、にこにこ笑ってた。
その笑顔が、キラキラしてて――
オレの目に、焼きついた。
***
帰ってきて、洸の部屋で最初に目に入ったのは――
だだっ広い部屋に、ちんまりと置かれた、オレの宝物たちだった。
とっちゃの茶飲み。
かっちゃのちゃんちゃんこ。
爺さんのおちょこ。
「……なして?」
「これから一緒に住むんだから……引っ越しかな」
「んだば、オレの城は?」
「もちろん解約したよ」
心臓が、ドクン、と鳴った。
なんでだよ。
オレは明日には出ていくのに!
「あ、それから工場にも、ミケが過労で倒れたこと話したら、退職金をはずんでくれたよ」
目つきが悪いって、何度も何度も面接で落とされて、ようやく見つけた仕事だったのに!
「それと、図書館の本も返しておいたから」
貸し出しがずっと続いて、半年も待ってようやく借りられた、オレのパトラッシュ……!
……オレが一所懸命守ってきた、ちっぽけな幸せなんて、
こいつには小さすぎて――
土足で踏みつけたことにすら、気づかない。
悔しい……。
ぼろぼろと、涙がこぼれた。
「おめば、もうきらいだじゃ」
オレはきっぱりと言って、洸を押しのけた。
ふらりと、あっけなく倒れる洸。
……なんだ、こいつを払いのけるのって、こんなに簡単だったんだ。
オレは、かっちゃのちゃんちゃんこを抱えて、バスルームに籠城した。
窓際にちゃんちゃんこを敷いて、その上に丸くなる。
「ミケ……ミケ……」
ときどき、ドアの向こうから、かさかさ音がして、洸の声がした。
一晩中、洸がドアのそばにいるのがわかった。
オレは静かにドアのそばにちゃんちゃんこを敷き直して、また丸くなる。
そっと手を伸ばして、ドアに触れる。
洸……洸……
眠れなかったオレは、ドア越しのあいつに、心の中でずっと話しかけていた。
洸が撮影に向かう朝まで、オレはずっとそこにいた。
宝物たちはマネージャーに預けることになり、
代わりに「お礼」と書かれた封筒を受け取った。
見たこともねえ札束が、二組も――
「なして、こんだげ?」
「一組はうちの事務所っす。ミケさんが人間だって聞いて、ビビっちゃって……
もう一つは、洸さんが工場から巻き上げたっす。ミケさんを大事にしない工場相手に、頑張ってたっすよ」
「そったごど……」
オレは札束を見つめた。
……せめて、朝に見送りくらいしてやりゃよかった。
もう一度だけでも、あいつのキラキラの顔、見ておけばよかったって――
ちょっと、後悔した。
結局オレは、呪いの上下のまま、外に出ていった。
「ん……なだ?」
布団にくるまってぐっすり眠っていたオレは、しぶしぶ目を開ける。
ま……まぶしい……。
キラキラ笑顔の洸のご尊顔が、寝起きの目に痛い。
「何時だば?」
「もうお昼過ぎだよ」
そのまま、美しい顔が近づいてきて、肉厚の舌がオレの中にねじ込まれてくる。
……酒くせぇ。
オレは手を突き出して、ぺいっと洸の顔を遠ざけた。
「酔ってらのが?」
「朝まで付き合いでね。もう酔ってないかな」
今度は腰をぐっと引き寄せられて、首筋に顔をうずめられる。
クンクンと、オレの匂いを嗅いでくる。
「ミケがいなくて……寂しかった」
……なんじゃそりゃ。
「ミケのために頑張ってきたんだよ。だから……」
ギラギラと、目に情欲を宿しながら、繊細な指がつつつーっとオレの背中をなぞる。
下へ、下へ。ついに、オレのつぼみへ。
「ふ……」
また、洸の舌が容赦なくオレの中に侵入し、逃げる舌をからめとってくる。
だから――
「酒くせえっきゃってば!」
オレはびしっと足を伸ばして、洸の綺麗な顔にお見舞いしてやった。
蹴られてもなお、洸の頬は紅潮し、ぎらつく視線は――オレのオレを、じっと見据えている。
怖い……でも、こいつは囮。
オレのオレ……ほんとに、ごめん。
お前の犠牲は、決して無駄にしない!
オレは子供のときの柔道の稽古を思い出し、洸を横四方固めで封じ込める。
横から腕と足で全身をしっかり押さえ込み、がっちりと。
余計に紅潮し、はぁはぁ……洸の息が荒い。
やった、効いてる!
オレは思わずニマニマ。
が!
押さえてるはずの洸の手が、オレの抑え込んでる体ごとぬるっと動いて、
探るように――いやらしく、オレのオレを撫でてくる。
「ミケには、まだまだ……躾が必要かな」
「ぴっ……!」
「あー…、じゃれてるところ申し訳ないっす。洸さん、特集の関係で、明日には次の現場入りになったっす。なので今日は、ほどほどにお願いするっす」
洸がオレをひっくり返し、そのまま覆いかぶさってくる。
でも、オレはその向こう――
不健康そうなマネージャーの顔を見てた。
そいつが、小さくこくりと合図を送ってくる。
……そっか。
数日あると思ってたのに、もう終わりなんだ。
一晩寝て、目が覚めたら――
そりゃ、夢からも覚めるってもんだ。
***
――そして。
さんざん洸に躾られて、気づけば夕方。
オレ、洸と一緒に外に出てる。
久しぶりの外出、きゃっぴー!
思わず駆け出そうとしたその瞬間――
ピンとつっぱる繋いだ手。
オレの体が、ぐいっと引き戻された。
洸の手が、がっちりとオレの手を握っている。
まるで、手かせみたいに。
「ミケが迷子になったら、危ないでしょう?」
オレはぶんぶんと縦に腕をふる。
でも、洸の手かせはけっして外れない。
……どころか、締め付けが強くなる。
「躾……」
「ぴっ……!」
そして、なぜか猫カフェに連れていかれて……
にゃーにゃー、にゃーにゃー!
猫どもが全員オレに集まってきて、ひざ、肩、頭、腕、背中――
……オレ、猫まみれ。
「やっぱり、同族の絆って強いのかな?」
……なんじゃそりゃ。
「シャーーッ!」
って威嚇してやったら、猫どもまで一緒に洸を威嚇しはじめて。
シャーシャー、シャーシャー!
シャーシャー、シャーシャー!
猫ども、大合唱。
「けけっ……」
オレはおかしくなって、笑ってやった。
こんなに楽しいの、いつぶりだろうか。
洸は、猫どもに威嚇されながらも、オレだけを見てて、
一緒に、にこにこ笑ってた。
その笑顔が、キラキラしてて――
オレの目に、焼きついた。
***
帰ってきて、洸の部屋で最初に目に入ったのは――
だだっ広い部屋に、ちんまりと置かれた、オレの宝物たちだった。
とっちゃの茶飲み。
かっちゃのちゃんちゃんこ。
爺さんのおちょこ。
「……なして?」
「これから一緒に住むんだから……引っ越しかな」
「んだば、オレの城は?」
「もちろん解約したよ」
心臓が、ドクン、と鳴った。
なんでだよ。
オレは明日には出ていくのに!
「あ、それから工場にも、ミケが過労で倒れたこと話したら、退職金をはずんでくれたよ」
目つきが悪いって、何度も何度も面接で落とされて、ようやく見つけた仕事だったのに!
「それと、図書館の本も返しておいたから」
貸し出しがずっと続いて、半年も待ってようやく借りられた、オレのパトラッシュ……!
……オレが一所懸命守ってきた、ちっぽけな幸せなんて、
こいつには小さすぎて――
土足で踏みつけたことにすら、気づかない。
悔しい……。
ぼろぼろと、涙がこぼれた。
「おめば、もうきらいだじゃ」
オレはきっぱりと言って、洸を押しのけた。
ふらりと、あっけなく倒れる洸。
……なんだ、こいつを払いのけるのって、こんなに簡単だったんだ。
オレは、かっちゃのちゃんちゃんこを抱えて、バスルームに籠城した。
窓際にちゃんちゃんこを敷いて、その上に丸くなる。
「ミケ……ミケ……」
ときどき、ドアの向こうから、かさかさ音がして、洸の声がした。
一晩中、洸がドアのそばにいるのがわかった。
オレは静かにドアのそばにちゃんちゃんこを敷き直して、また丸くなる。
そっと手を伸ばして、ドアに触れる。
洸……洸……
眠れなかったオレは、ドア越しのあいつに、心の中でずっと話しかけていた。
洸が撮影に向かう朝まで、オレはずっとそこにいた。
宝物たちはマネージャーに預けることになり、
代わりに「お礼」と書かれた封筒を受け取った。
見たこともねえ札束が、二組も――
「なして、こんだげ?」
「一組はうちの事務所っす。ミケさんが人間だって聞いて、ビビっちゃって……
もう一つは、洸さんが工場から巻き上げたっす。ミケさんを大事にしない工場相手に、頑張ってたっすよ」
「そったごど……」
オレは札束を見つめた。
……せめて、朝に見送りくらいしてやりゃよかった。
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ちょっと、後悔した。
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