人気俳優に拾われてペットにされた件

米山のら

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番外編

牙なしミケの防衛戦

うーん……意識だけが、静かに浮かび上がっていく。
目は閉じたまま。体も、まだ動かない。

最初に気づいたのは、頭をそっとなでる繊細な手の感触。

あ、洸がいるんだ。

そして、尋常じゃないほどの息苦しさと、身体を押しつぶすような重み……なんで?

少し遅れて、人の声が耳に入ってくる。

「ミケさんが倒れるなんて……洸さん、電圧あげすぎっす。さすがに引いたっす」

「ふふ……既定の範囲内だから、問題ないかな」

「でも、元気なミケさんが可愛いっすよ?」

「ちゃんと躾けるのも、飼い主の責任だからね」

……なんか、意味わかんねぇ。

「お待たせしました~」

コトリ、とカップの音。

「“ミケを探せ”で投稿された写真、すごい数で……おかげで猫たちの貰われ先も増えました。ありがとうございます」

「街でミケさん見かけたら撮ってアップすれば、ドリンク半額券っすよね? 大丈夫なんすか?」

「ええ、びぃえる商事さんが補填してくれてて」

「あー、ミケさんの家出のあとに急についたスポンサー……電撃首輪もそっちからっすよね。なんか……ドス黒いっす」

「ふふ……」

サイトも首輪も意味不明だけど――洸が嬉しそうに笑ってて、それだけで、なんか胸がぽわっとした。

パチリ、とまぶたが開いた。

「ミケ、起きた?」

キラキラ、キラキラ……

洸のご尊顔が、のぞき込んでくる。

ま、まぶし……!

それに、まだ息苦しい……!

にゃー、にゃー、にゃー……

声の方を見ると――

舎弟どもが――これでもかっ!!!てほど、全員そろってオレの上に乗ってる。12匹全員。

「おめら……舎弟のくせして、兄さのっかって……!」

洸がそっとオレを抱き上げると、舎弟どもがぴょーんと飛び降りた。

「ミケ、倒れたって聞いたけど……大丈夫?」

ああ……そうだ。オレ、帯電してて……静電気がすごくて……

洸の手が伸びてきた。
怖い……思わずバシッと叩き落とした。

洸の顔が、悲しそうにゆがむ。

「ちげして……オレ、電気まとって……」

洸はふっと微笑む。

「大丈夫だよ、私は特別だから」

また手が伸びてくる。

怖い……でも、その手がそっと頬を撫でて――

静電気、起きない……?

ほんとに、洸は特別なんだ。

やっと静電気の恐怖から解放されて、オレは洸にぱしっとしがみつく。

「ふふ……かわいそうに。もう怖くないでしょう?」

オレはコアラみたいにくっついたまま、こくこくと頷いた。

「うっわ~、すっかり牙抜かれてるっすね。強がってるのがミケさんの可愛いとこだったのに」

洸が背中を優しくさすってくれて、心がじんわりと温かくなって……もっとくっついてやった。

「大丈夫。家に帰って元気になったら、またすぐ戻るから。ね、ミケ」

――その時、聞こえてきたのは。

「え、白瀬洸って……マジで趣味悪の変態だったんだ……ファンだったのに……」
「私もショック~」

ムカッ!!!

オレは、ぎろりと声の方をにらみつけた。

若くておしゃれな女どもが、ヒソヒソと笑っている。

「あんなんじゃ、もう白瀬洸も終わりっしょ」
「お茶の間汚すなっての」

洸が、ぽんぽんとオレの背中をなだめるように叩く。

「ミケ、大丈夫。私は慣れてるから」

見上げた洸の顔――キラキラ笑顔に似合わない、へにゃりと落ちた眉。

違う。慣れてても、心が痛まないわけじゃない!

オレは――ぴょーんっと洸の腕から飛び出し、おしゃれ女どもに向かって吠えた。

「んだんだ、洸は趣味わりぃし、ど変態だじゃ! そいは認める!」

不健康マネージャーが慌ててオレの腕をつかもうとする。

「ミケさん、しゃーないっす。嫌われんのも、まあ、仕事のうちっす」

良くねぇ!!!

オレはその手をバシッと振り払った。

「んでもな、洸はやさしくて、なんが星みてにキラッキラしてら! それが分がんねってことは、終わってらのは、洸でねくて、おめらの方だじゃ!」

女どもは引いた顔でオレを見ている。

「何言ってんのか、意味わかんないし」
「猫語っしょ?」

ムカムカ……最高潮!!!

「シャー――ッ!!」

オレが威嚇すれば――

舎弟どもも、すかさず

シャー!シャー!シャー!……

カフェ中が一気にざわつき、女どもは慌てて逃げ帰っていった。

「けっ……」

背後から、洸がぎゅっとオレを抱きしめてくる。

「カッコよかった、私のミケ……」

ちゅ、ちゅっと、オレのうなじに熱いキス。

「ん……」

洸を守れた気がして、なんか心がぽかぽかした。
そして――洸のキスのせいで、身体の奥がムズムズしてきた。

洸の唇が耳元に寄って、熱っぽくささやいてくる。

「ミケ、一緒に帰ろう。おうちに……」

オレは――家に帰ったら起こることに、ちょっと期待しながら。

しっかり、こくりと頷いたのだった。
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