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本編
2.目を開けたら推しの腕のなかとか理解不能です
「ふ、ぅん……」
わけもわからないままに目を白黒させているけど、彼はやめてくれる気配はない。
歯列をなぞってから、たっぷりと舌を絡ませて、口内を犯される。
彼の舌は分厚くて、口の中ぐじゅぐじゅに掻き回されると、それだけで全身に力が入らなくなる。
崩れ落ちそうになったところを抱きとめられ、さらに頭を固定された。
当然逃げることもできなくなり、騎士ウィルが満足するまで好き勝手されて――、
「おかえり、導手」
ようやく唇を離し、触れるか触れないかの距離で、彼は囁いた。
その耳から全身を犯されるようなハスキーな声で、おかえり?
……おかえり。
た、ただいまって言うべきなのかな。
わたしは全然状況を把握できなくて、ただただほけーっとする。
だってさ?
わたし、今日ずっと、あのアパートから移動していないはずだよ?
一日【黎イル】の画面眺めて過ごしてただけ。それがだよ?
どこからどう見ても、わたしの目の前には【黎イル】の最推し【放浪騎士】バグウィル(SSR)がいて、わたしを、抱きしめてて。しかもCV城宮和斗のまま、ペラペラ話してるんだよ?
夢?
うん。そうだよね。これ、やっぱり、夢では?
ちらっと周囲に視線を走らせると、おそらくスマホの画面の中でも一番見ているかもしれない居室のなかにいて……。
わわ、すごい……!
本当にあの城そのものだ。
ゲームの序盤に取り戻した古城に魔法をかけて、みんなで住めるようにするって設定なんだけど、ちゃんと生活空間になってる。
石の壁は冷たい雰囲気あるし、家具なんかも古くてボロボロなんだけど、魔法の効果からか、空気も澄んでいるし、温かくて、心地が良い。
――って!
この感覚は何!?
夢じゃないの? 夢のはずなのに、妙にリアルすぎるんだけど!!
「どうした、導手? ボケーっとして。ンな、俺のキスがよかったか?」
「ふぁ!?」
「くっく。マヌケな顔。ぉら、こっちこい」
「いや!? え、ちょ、待って! わたし、状況が!? あれ!? おうち……!」
「んー。これはやっぱ成功してんな。あの声が完全に身体に宿ってやがる」
「あの声?」
「――ん。こっちの話。ほら、導手」
がっしりと抱き上げられ、部屋の奥へと連れていかれる。
っていうか、これ、お姫さま抱っこじゃない!? え!? わたしあの騎士ウィルにお姫さま抱っこされてる!?
コレが夢でも心臓が持たない。死ぬ。死にます。うぁあああ顔、近っ……!
上機嫌な騎士ウィルは、まるで鼻歌でも歌いそうな様子だった。
うぁぁぁ……かっこ……かっこいい……。
通称:騎士ウィル。
正しくは【放浪騎士】バグウィルは、バグウィルというキャラクターの別バージョンだ。
バグウィルというキャラクターは合計3種いて、そのうちメインストーリーに出てくるのは、もう少しオジサマ――38歳の、裏社会の首領っていう設定のキャラクター。
最初は謎の敵キャラとして出てくるんだけど、ストーリーを進めていくうちに仲間になるっていうお約束通りの、厳つくて格好いいオジサマなんだけどね?
こっちの騎士ウィルは、そんなバグウィルの若かりしころを描いたイベント限定のキャラクターなんだよね。だから年齢も25歳。わたしと同い年だ。
聖騎士が国に忠誠を誓った騎士国ってのがあるんだけど、そこの出身。
ただ、騎士ウィルは家柄は良いけど、合理主義で、粗暴なところがある。
国に忠誠を誓うなんざまっぴらごめんだってことで、自分の本当の主を探すために、旅に出た。
で、規律に反した身として、国に追われるようになったんだ。なんだか抜け忍みたいな制度だよね……。
という設定のせいか、バグウィルは騎士とは言っても、口も悪ければ不良みたいな振る舞いをする。けれど、その実、情に厚いところもあって、本当の主を求めてるってのは嘘じゃない。
……いろいろあって、そのあと裏社会に身を置くようになるんだけどね。
で、そんな逃亡時代の過去のバグウィルが、騎士ウィルって呼ばれる存在として、ゲーム内に召喚されているわけ。
さすがソシャゲだけあって、タイムパラドックス的なモノはガン無視。
キャラクターのバリエーションを豊富にするため――つまり、つじつまを合わせるための便利召喚システムがあるから、この居城には若かりしころのバグウィルと、現在のバグウィルが両方存在するわけなんだけど――、
って、待って?
となると、だよ?
「おおい、首尾はどうだ?」
ガン! とまさにそのタイミングで、入口のドアが蹴り開けられ、わたしは目を丸めた。
「ぇあ!?」
変な声出ちゃうの、しょうがないと思う。
だって――だって!
「ど……首領!?」
そのドアを蹴り開けたのは、紛れもなくそのメインストーリーに出てくる本バグウィル――【夜緋に染まりし雨】首領バグウィル(UR)だったのだから……!
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