【R18】嘘から本気にさせられちゃった恋のおはなし。

浅岸 久

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第1話 嘘から本気にさせられちゃった恋のおはなし。

1−1

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「ラルフ! あ、あの……ね……っ」

 まってまって、上擦るな、わたしの声!
 平常心。だって、こんなの、さらっと言っちゃった方がいいじゃない。
 緊張しちゃってる方がそれっぽくなっちゃうし、これはあくまで演技。……っていうか、ただの罰ゲームなわけで。

「おおー! ついに行くか、リリーちゃん!」
「ヨッ! がんばれっ!」

 ああもう、みんなもなんでそうはやし立てるかなあ!?
 完全に面白がってるよね!?
 ケーシャもっ、アナタのことずっと親友だって思ってたのに、ニヤニヤ楽しそうな顔しちゃって!
 そもそもアナタがこんな罰ゲーム言い出さなければ、わたしだって、こんなこと……!

「ぉ、おお? どうした、リリー。ンな顔して」

 ちょっと、ラルフも。いつもならもっとテキトーな扱いのくせにさ。
 どうしてこんな時ばっかり、お話聞く雰囲気出してくれちゃってるのかな!? っていうか、なんでこんな間の悪いときに、クエストから帰ってくるかな!?


 ギルドホールの一角にある酒場は今日も大盛況だ。
 わたしは普段、ギルド嬢としてこのギルドホールで働いているわけだけれど、今はただのお客さん。お仕事が終わってから、みんなと一緒に楽しく呑んでたまではいいんだけどね?

「大丈夫大丈夫。リリーちゃん、がんばれ!」
「やってくれるよな! ほら!」

 期待に満ちた周囲の声に、本当に泣きそうになる。いくら罰ゲームでも、これはちょっと、悪質すぎるって思うのに……。

(ラルフなら。うん、ラルフなら、大丈夫……だよね?)

 ツンツンと逆立てた短い銀髪に赤い瞳、その体格に見合った大ぶりの剣を佩いたガタイのいいオニイチャン。
 幼い頃から一緒に育って、同じ時期にこの街に出てきた、いわば腐れ縁。わたしはギルド嬢で、彼は冒険者になったってだけ。
 彼は若手ながら腕がいいと評判の凄腕の冒険者で、みんなの人気者になっちゃったけれど、わたしからすればただのロクデナシのお調子者だし。これくらいの罰ゲーム、冗談だろと鼻で笑われるのがオチだもんね?

 ……って、なんか想像してると腹が立ってきた。
 わかってる。こういうのは勢いだもんね。
 ふん、いい笑いものになってやるわよっ。


 覚悟を決めて、ぐいっと前を見る。ラルフのことを睨みつけんばかりの勢いで、わたしは口をひらいた。

「ラルフ、あのねっ。わ、わたしっ、あなたのこと、ね?」

 あああ、でも、だめだよ。やっぱり緊張するって。
 ああでも、もうここまで言っちゃってるんだから。行け、リリー!

「…………すっ、すき……なんだけど」

 ――おおおおお――――――っ!!
 ――言った――――――ッ!!

 めちゃくちゃどもっちゃったけど、周囲は大歓声。
 最後の方なんか、わっとわいた歓声にかき消されちゃったんじゃないかな。
 でもね。言った。声裏返ったけど、言い切ったよー!
 これで罰ゲーム、もう、終了でいいよねっ!? 種明かし、していいよねっ!?

 …………そう、思ったんだけどね?

 気がつけば、ラルフがこっちに歩いてきてて、ガッとわたしの両肩を掴んでいたわけで。
 見たこともないような真剣な顔してさ? わたしのこと、見下ろしてて。
 ざわっ、て、周囲の声がますます大きくなって、でも、みんなの声、全部、何言ってるかわかんなくなっちゃった。

 だって、ふにって、柔らかい感触が唇に落ちてきてて、目を見開いたら、目の前にラルフの顔があったんだもん。

「――――!!??」
「ン――――」

 がちりと頭を掴まれちゃって、わたしは逃げることもできなかった。
 唇をこじ開けられたかと思うと、ぶ厚い舌がねじ込まれる。
 強引に舌を絡め取られて、口内を文字通り蹂躙された。
 じゅ、じゅ、って強く吸われるけれど、唾液が口の端からこぼれ落ちて――逃げようとするのに逃がしてくれない。
 わたしは涙目になりながら彼の胸を叩くけれど、鎧を着込んだ彼はビクともしなかった。

「ふぅ……」
「ン、リリー……」

 わずかに口が離れたけれど、それもつかの間。
 再びどっぷりとキスされて、わたしは力なく崩れ落ちそうになる。けれども彼が離してくれる気配はなくて、わたしは為すがままだった。

 周囲の歓声はそのうちどよめきになって、おい、長すぎないか……? と訝しむほどになる。
 息が苦しくなって、くらくらしていると、ようやく彼も満足したのか、そっと唇を離した。

「リリー…………その、ありがと、な……?」

 え……?

 いや。
 まって?
 あの、ちょっと、わたし、頭まっしろなんですけ、……

「まさか。オマエから言ってくれるだなんて思わなかった。信じてもらえるかわかんねーけど、オレも……ずっと、オマエのこと、好きだったからよ……?」

 ………………ど。

 ど?
 ど??

 ど????????

「これから、ちゃんと、大切に――おい、リリー? おい、リリー!」

 なんか声が聞こえるけど、わたしの意識は、ふつん、ってここで途切れちゃった。
 現実逃避っていきすぎると、ほんと意識吹っ飛ぶんだね……?

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