【R18】嘘から本気にさせられちゃった恋のおはなし。

浅岸 久

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第1話 嘘から本気にさせられちゃった恋のおはなし。

1−7

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 結論からいうと、言えなかった。
 ……何度も何度も言おうって思ったのに、言い出せませんでした。ハイ。

 だってね。あのラルフがだよ?
 わたしの目の前でさ、嬉しそうに笑ったりして。見たことなかったようなはにかんだ顔とか向けられるとさ? なんかもう、だめで。

 ……で、最初に言いだせないとさ、もう、ずるずるずるずる。
 おかしい。
 わたし、こんなに引っ込み思案な人間だったかなあ!
 相手、あのラルフだよ? 遠慮なんかしたことなかったのに。
 ほんっと。
 ほんと、ごめん。ラルフ。ごめん……。

 でもね? ラルフもラルフでさ、今までとは、ぜんっぜん違うんだもん。
 なんか、すごく、優しいし。気をつかってくれるしで。
 傷つけたくないって気持ちがどんどん大きくなってって……うん。はい。いいわけです。すみません……。

 そんなわけで、ずるずると嘘で塗り固めたままラルフと一緒に過ごしてる……。
 もうね? 仕事してる最中もなんかアイツのこと考えちゃって落ち着かないし。
 たまにお客さんにも噂の真偽聞かれるしさ!
 わたしはどっちつかずの返事しかできなくて、そこでも自己嫌悪になるし……。
 せめてラルフと会わずに、もうちょっと頭の中整理する時間があればいいのにさ。

 わたしの担当クエストって、セミレアモンスターからの素材採取とか、職人ギルドと連携する特殊素材流通関係の案件が多いのね?
 そういうのって、1~2週間くらいの遠征がメインになりがちなの。
 だからラルフにそういったお仕事ふって、ちょっと頭冷やす時間を……って思うのに。

 ……ここのところ、ラルフってさ、遠征には行きたがらないんだよね。
 いわく――、

「今、つきあい始めだろ? オレがこの街離れてる間に、焦ったヤツがオマエにちょっかいかけねえか、気が気じゃないっつーか」
「いやいや、ないよ。そんな! わたし、地味だし。今までだってなんもなかったじゃない。今さら――」
「バーカ。お前がそう平和ボケしてるから……まあ、させてきたのはオレのせいでもあるけどよ……」
「???」
「とにかく! オマエがオレの恋人になったって、見せつけてる最中だから。しばらくは遠出のクエストは引き受けてやれねえ。つか、そんな緊急性のたかいモン、ねーよな?」
「な、いけど……」
「だったらいいじゃねーか。オレ、もう少しオマエといたいし」

 ――――だそうで!!

 日帰りでこなせるクエストをいくつか同時進行してくれるっていう荒技を見せながら、朝、一緒にギルドホールへ行って、夜、一緒にギルドホールから帰る日々。
 そう。
 ラルフってば遠出しない分、わたしの勤務時間にあわせてガッツリ仕事を入れてくれちゃって。難易度は若干落ちるけど、どんどんわたし担当の依頼が捌けていくわけなのです。


 そんなこんなで、彼と一緒に過ごす日々が、積み重なっていく。
 わたしはどうしていいかわからなくて、いつもみたいになかなか自然にしゃべれなくてさ。

 それも彼はわかってくれてたのかな。
 ラルフってば、おでことか頭のてっぺんにちゅってすることはあるけど、それ以上のことはしない。……っていうか、なんだか、待っててくれてる気がした。
 わたしのイメージしてたラルフのさ……手が早いっていうか……他の女の子たちに見せていた態度とはぜんぜんちがってて。
 嫌でもわかる。
 なんだか、めちゃくちゃ、大切にされてる。

 軽口叩きながらも、ホントに嫌がるようなことは言わないし、別に何をするわけでもないけど、わたしの部屋でごろごろしてる時間が増えた。
 自分の部屋は荷物が多いから、こっちの方が居心地いい――とか言ってさ?


 今日もね、晩ご飯支度している最中、わざわざわたしの部屋で武器の手入れしたりしてたからさ。

「あのね? ラルフ。前から思ってたんだけど、荷物多いならおっきい家に引っ越せばいいと思うの」

 別に本気でダメだししたいわけじゃないよ?
 でも、つい素直じゃないことしか言えないっていうかさ。
 テーブルにお料理並べなら何気なく言ってみただけ。

「……え?」
「いつも狭いところで武器の手入れしてるしさ? ラルフなら、もう少し大きな部屋借りても――」
「いいのかっ!?」
「は? そんなの、当たり前でしょ?」

 ラルフ自身のことなんだから、好きにすれば良いと思う。なのにどうして、そんな嬉しそうな顔するかなあ。
 ガタって立ち上がって、わたしの手からいそいそと食器受け取って並べはじめてさ。

「ちょ、手を洗ってからにしてよ!」
「いつ、家探しにいく?」
「は? いつでも行けばいいじゃない。子供じゃないんだから」
「――こどもじゃ、ない」

 なんて生唾のみ込んでさ。ぶつぶつぶつぶつ、なにかひとりでつぶやいてた。

「そうだよな。もう、子供じゃないんだもんな。うん、もう少し丈夫で、広いとこ、いいなって思ってたんだ」
「だったらもっと早く引っ越したらよかったのに」
「いやでも、オマエがそんなつもりだったとか、しらねーし。……でも、そっか。じゃあ、次の休みにでも早速」
「いいんじゃない? まあ。こうやってご飯食べに来るなら、ちょっと遠くなるけどさ」
「そうだよな。メシ――――ん?」

 今までだって、別にわたしが引き留めてたわけじゃなかったのにな。
 ラルフってば結構所得あるはずだから、大きい家に住んだらいいと思ってたんだ。
 冒険者って、ただでさえ荷物も多くなりがちだしね?

 うんうん、とわたしが頷いていると、わたしの隣でラルフが硬直してた。
 なんか、愕然としててさ。

「…………そういうことか……」
「ん?」
「いや。期待したオレがバカだった。いくら彼女になってくれても、オマエはいつまでたってもお子様か……」
「は?」
「あのなあ。オレがどーしてわざわざここに住んでると思ってんだ……」

 と、そこまで聞いて、わたしははじめて彼との思い違いに気がついた。

「引っ越さないよ!?」

 つまり、一緒に住もう的な!? お誘いだったりしたの!? 今!?
 ……でもって、ずっとここのアパート住んでるのも、わたしと離れたくなかったから、とでも? 言おうとしたり?

 えっ。ええーっ……。
 いやいや。しらないよ。
 気がつけるわけないよ、そんな。
 そんな理由、全然! わかんなかったし!!

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