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第1話 嘘から本気にさせられちゃった恋のおはなし。
1−8
しおりを挟むそんなこんなで、ラルフってばしばらく落ちこんでたんだけどね。
ご飯食べてるうちにすっかり元気になってた。なんか、美味い美味い、って何度も言ってくれてさ。
お家のこととかも、もう蒸し返したりしないの。
なにそれ。なにひとりで大人みたいな……。
「はー……美味かった! やっぱ、オマエの料理は美味いよな」
……なんて。
全部気持ちよく食べきってから、改まって、すごーく満足そうに言ってくれるしさ。
「綺麗に食べてくれてありがと」
「たりめーだろ?」
でね、ここでも改めて気づいたことがある。
前まで、彼がうちのご飯食べに乱入してくるときってさ、ほんっといきなり来て横から勝手に手を出して食べちゃうから、いつも腹立っちゃって気がつかなかったんだけどさ?
彼ね? 美味しいって、いままでも、いつも言ってくれてた。
もっと味わって食べてよ! って、わたしは怒ってばかりで、そんな……そんな……。
……そんないまさらな、日常の当たり前すぎるやりとり、気がつけないよ……!
でも、ケーシャにも言われてから、ちょっとずつ見えてくることが増えたんだよね。
ラルフってば、前からずっと、当たり前のようにさ? いろんな場所で、わたしのこと尊重してくれてた。……多分だけど。
近くに住んでた理由もそうだし、美味しいのひとことだってそう。
ほんとに、わたしが気づけてなかっただけなんだよね。
……はぁーって、ためいきをつきたくなる気持ちを抑えて、わたしは食器を片付けはじめる。
流し場の方にお皿を持って移動して、水を出す魔石を入れたところで、後ろからにゅっとごっつい腕が伸びてきて。
「!」
「オレも、手伝う」
「え!? あ!? なんで!?」
「なんでって……そんなの」
ごにょごにょって、ラルフってば何か呟いているけど、聞き取れません!
頭ひとつぶん背の高い彼の方を見上げると、なんか、ちょっと頬が赤くなってるみたいで。
「いーから。ほら。とっととやるぞ。ふたりでやった方が早いだろ」
「いや、ウチの流し場狭いんだけど? 知ってるでしょ?」
「そうだけどよ。だからとっとと……いっしょに――――」
「ん?」
「――――いや。ほら。とにかく。オマエ洗え? な? オレ、拭くからよ」
「ぅ……うん……」
狭い流し場にふたり並んで、身を縮こまらせながら一緒に洗い物してさ?
いつもよりちょっと楽で、いつもよりちょっと恥ずかしかった。
別に、恋人らしいことされてるわけじゃないのにねっ。
わたしがお料理したんだから、お片付けくらい手伝ってもらってあたりまえと言いますかっ。
はぁ――――っ。
なのになんでかな。
なんでこんな、心臓どきどきするのかなっ。
彼と一緒にご飯食べること、すっごく増えて。朝と、夜はもうほんと毎日。
食材買い込むのなんか、彼が昼間のうちに済ませてくれることも増えてさ。家も、同じアパートだからね? なんか、ほんとに、別々に寝ているだけで、一緒に住んでいるみたいになってる。
いやいや、でも、前からそういう感じではあったし。
あー……うん。改めて考えてみると、そっかぁ。そういう、感じ、だったんだよなあって。
ラルフってば、なにかとわたしの部屋に転がり込んでさ?
……もらったとか、なんか言いながら、食材持ってきてくれたりさ。
うん。
わかんないよ。
そんなの、感覚マヒしちゃって、全っ然気づかなかったって。
……なのに今ならわかる。
いろいろ、繋がっちゃった。
あれが彼なりの、当時の精一杯の気づかいとか、そういうので。
はぁー……もう、ほんと、胸、痛いよ。
なんだかラルフを騙してるような、すっごく悪いことしてる気分だ。
「――よし、これでおわりか」
なんて、考えごとしているうちに、手元のお皿はぴかぴかになってた。
ついついぼーっとしちゃってたから、わたしは慌ててさ、食後のコーヒーでもって、言おうとした。
そしたらなんか、
「な。リリー……」
にょきっと、また横から腕が伸びてきて。
「!」
「逃げないでくれ……っ」
ぎゅって、抱きしめられてたんだ――。
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