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第2話 恋のライバル登場に「えっ、ベタな……」ってなるのは許してほしい。
2−18
しおりを挟むはあ、はあ、はあっ。
肩で息をしながら言い切った。
ああもうっ、みんな、めちゃくちゃわたしのこと見てる。でも、わたしはどうしても譲れなくて。
たしかに、戦えないけど。まだまだ努力も実力も足りないけど。
でも、退くわけに……いかないじゃんっ。
「リリー、ありがとよ」
「……ラルフ」
彼ががしがしとわたしの頭を撫でてくれる。
なんだかいっぱい怒ったら、急に不安だった気持ちがあとから出てきて泣きそうになるけど、泣かない。
ただ、いつの間にか握りこんでた手が汗びっしょりになっててさ。ひらいたり、閉じたり。少し深呼吸をして。
そうして、次の言葉を紡げないでいるわたしを、ラルフはそっと肩を抱いて寄せてくれてさ。
「なあ、ミリアム」
「…………なによ」
彼は、笑う。
わたしの肩をぽんぽんって叩いて、誇らしそうに。
「オレの彼女、最高だろ? だから、悪いな。どれだけオレに貼りついても、無駄」
「……っ」
「つか。リリーのこと、これ以上侮辱したら、マジでキレる。――大討伐も終わったし、大人しく首都に帰ってくれ。……な?」
「待って、ラルフ……!」
ミリアムは引き留めようとしたけれど、無駄だった。
ラルフは、わたしの腰をぐいっと引き寄せて、彼らに背を向ける。
そのまま問答無用で、ふたり、ギルドホールを出ていって――。
――夜の風が頬にあたる。
冷たいはずなのに、なんだか身体中がぽかぽかしっぱなしで。
「っ……打ち上げ、あったでしょ? よかったの?」
「おいおい。バカ言うなよ。――オマエと一緒にいたいんだよ、今日は」
「ぅん」
「ありがとな」
ラルフの声は少し震えていて、わたしは瞬いた。
薄暗い夜道、ちょうど影になって、彼の表情がわからない。けど――、
キス、したいな。
そう思った。
できれば、今すぐに。
そしたらなんだか胸が熱くなって、我慢しきれなくなって、わたしはラルフの手をひいた。
大通りから一本、道を横にそれて――人の気配のない場所で、彼を路地の壁にどんって、押しつける。
「っ? り、……」
わたしを止める時間なんて、あげない。
わたしは、その場で背伸びして、彼の唇に自分のそれを重ねる。
「――っ」
彼は驚いているようだけど、離してあげない。
喰むようにして唇を押しつけると、おずおずと舌を差しだしてきてくれて。
わたしも、絡める。たしかめるように、深く。
「…………っ、リリー」
「……まだ」
「あ、ああ……」
ちょっとそこの道を曲がれば大通り。もしかしたらこの口づけだって、誰かに見られるかもしれない。
でも、どうしても我慢できなかったの。
はやく彼の存在を確かめたかった。
彼も観念したのか、わたしが満足するまでつきあってくれるらしい。
じゅ、じゅ、と強く吸い、唾液を絡めとる。
外は寒いはずなのに、体がぽかぽかと火照ってくる。もっとその温かさを確かめたくなって、切なくて、わたしは強く彼に抱きついて――。
「ね、ラルフ……」
「ん?」
「今日、もう、疲れてる……?」
ぽろりと、欲が顔を出す。
「……っ」
彼が、生唾を飲み込んだのがわかった。
あはは、笑える。
ミリアムに偉そうなことばかり言えないよ。
わたしだって、わがままで。彼の邪魔、したくなる。もっとこっちを見てほしくて、彼の時間がもっとほしくて、我慢できない。
「えっち、したい……」
「…………っ」
彼が震えたのがわかった。
腹の底から呻くような声を出して、抱きしめる手に力がこもる。
「くそ。リリー……さすがに、ひどいぞ」
「……」
なんて、返ってきた彼の言葉に、わたしは肩を落とす。
そうだよね、やっぱり、迷惑だよね。そう思ったけど、ね?
「……家まで、遠すぎる。くそ……マジかよ。勃っちまったじゃねえか……」
「……」
「ずるいだろ、なんだそれ。……ここで? ここで誘う???」
「え」
「生殺しもいいところだろ。く……これ、どうしろと……」
そう言ってラルフは、わたしを抱き上げてさ。
「……裏道。全力で走るから。掴まってろ? な?」
まさか、身体強化の魔道具まで使って、人通りの少ない道を全力で駆けていった。
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