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第3話 まさか聖夜にプロポ……いえ、わたしなにも気がついていません。
3−18
しおりを挟む――ねえ、知ってる?
ラルフ。
わたし、ずっと都会に憧れてた。
あなたがくれたの。
なにも、自分の未来に希望を持てなかったわたしに、あなたが、夢を与えてくれた。
兄弟が多くて、みんなの世話だけで毎日が終わっていく。家のお手伝いを頑張ることに一生懸命になったけど、手元にはなにも残らない。それが当たり前で、感謝もされない。
そんな毎日がつまらなくて、わたしの一生ってこんなのなんだなってふて腐れてた。
けれどあなたは、いつか都会に住むんだ! みたいな、漠然とした夢を楽しそうに語ってくれてさ。
……バカみたい、って思ったけど、ずっと、変わらない生活から逃げたかったわたしは、そんな荒唐無稽な夢に憧れた。
家族に言っても呆れられるだけの、無謀そうに思えるその夢にね? どれだけ救われたかわからない。
あなたはわたしを追ってきてくれたって言うけれど。
やっぱり、わたしもさ。
ちいさいころの、あなたの背中を追いかけてた。
でも、今は――、
◇ ◇ ◇
「ふぅー、食った食った! ――っと、お、おお、スゲ」
ラルフが予約を入れてくれていたお店でね? ふたりで少しだけ早めの、ちょっと贅沢なディナーをして。
お店の外に出ると、空はすっかり暗くて。
でもその宵闇の空に、ふわり、ふわりって優しい光が漂っててさ。
「きれい……」
「ん」
今年はほんっと、あっという間だったなぁー!
もう聖夜かあ。
ふわふわふわふわ、精霊の光が漂う、幻想的な夜にうっとりと目を細める。
あれから、エイルズの街に帰ってきて、アレクシスさんとのこともひと区切り。
賠償とかもいろいろあるみたいだけど、アレクシスさんと直接顔をあわせることはもうないよ、って言われて。
年末のお仕事バタバタこなして、仕事納めをしてから、ちょっと家の中を綺麗にしてたり、不必要な物を人に譲ったり、実家に送るお土産とお手紙を準備したりしてたら、すぐに一年で最後の日になってさ。
約束どおり、今日は明るい時間からラルフとデート。
お店をやってる人たちはさ、この日は朝から家族総出で出店を出したり、店を開放したり、大忙し。すっごく寒いけど、街は活気づいてて、わたしもいちにちラルフと腕を組みながらいろんなところを見てまわってさ?
暗くなって、精霊の光が灯りはじめたからさ。いよいよ、目的の場所にむかう。
街の中心地にある、精霊王さまの噴水はね? やっぱり特別な場所で。
でも、この日は恋人たちの場所でもあるってみんな知っているから、男女で歩いているひとたちにみんな道を譲ってくれてさ?
「おっ! ラルフじゃん」
「マジか、ついにか?」
「男をきめるか、ラルフ!?」
……ついでに、めちゃくちゃ冷やかされていますけれど。ラルフが。
友達多いよねえ。
でも、ラルフってば、いつもなら結構言い返したりするのに、今日はすました顔でスルーしてる。
ぷぷぷ。
かっこつけてる。
ちょっとかわいいかも、とか思っちゃうわたしも、たいがいラルフのこと好きだよね?
精霊を祀る噴水は、やっぱり精霊たちにとっても特別なのかな。いっそう光が濃くなって、眩く周囲を照らす。
「すごい……」
「キレーだな……」
湖面がキラキラ輝いて、まるで精霊王さまの像自体も光っているように見える。
円形の噴水を中心に、同じく円形の広場が広がって、さらにそこを円形の劇場みたいに、二段、三段と高台がぐるりととりかこむ。
大勢のひとが噴水の幻想的な風景に酔いしれ、カップルたちもみんな、うっとりとこの光景を見ていて。
「すごい人だね」
「だな。でも――」
ラルフがわたしの手を引っ張って、先導する。
ひとびとの合間を縫うようにして、一歩、二歩。
そしたら、ラルフの存在に気がついた人たちがそっと道を開けてくれて。……なんだかすっごく楽しそうな視線を感じるけど。
うううっ、めちゃくちゃいろんな人に、見守られてる……よね?
噴水まで真っ直ぐ道ができて――ラルフに連れられてそこを歩いて。
やわらかい光をまとった精霊王さまと対面して――わたしたちは祈りをささげる。
どうか。
どうか。
これからも、ラルフと一緒に、笑って生きられますように。
ラルフはどんな願いごとをしたのかなあ。
なんて、くいっと彼に手を引かれて、すぐに理解する。
手を引かれた方に視線を向ける。
わっ、て周囲のひとが楽しそうに声をあげて。
みんな、ラルフを見ているのがすぐにわかった。もちろんわたしも。彼を見ずにはいられない。
わたしの手をとったまま、彼はそっと片膝を地面につけててさ。
「……っ」
えっと。
わかる。
わかるよ?
なにが起こっているのか、くらい。
「リリー」
彼が顔をあげた。
真剣な顔をして、まっすぐわたしの方を見て、さ?
「う、ん……」
心臓がばくばく音を立てる。
っていうか、跳ねて、痛いくらいで。
もしかして、って思ったことは何度もあった。期待していなかったと言えば嘘になるし、覚悟もしてた。
でも、呼吸することも苦しいくらい、ラルフの目を見ているだけでいっぱいいっぱいになる。ぎゅって、唇引き結んでさ。ラルフのこと、見つめて。
「オレ……ちいせーころから、オマエのことばっか見てきて……」
「……」
「ずっと。夢にしてきたことがあるんだけど」
「ゆ……め……?」
ラルフから、夢の話が出てくるのは意外だった。
だって、そんなの、ちいさい頃に話したっきりで。都会に出る、なんて夢、とっくに叶えて。有名な冒険者になってさ。
これ以上、なにをって思うのに。
同時に期待しちゃうんだ。
「オマエと……ずっと」
「……」
「ずっといっしょに、いられたらって」
やば。
顔、熱い。
やだなあ。胸がいっぱいで、くるしい。
こんなの、慣れてないのに。
「だから、オマエが首都に行くなら、首都に。他の場所でも、どこでも一緒に行く」
「……っ」
「オレ、嫉妬深いし、バカなとこあるけど。オマエに苦労ばかりかけてきたけど。でも、オマエがずっと一番だから。オマエを守るからっ。だから。たのむっ」
息が苦しい。
心臓が、もたないよ。
「オレと――オレと、結婚してくれ……っ!!」
……。
やば。ちょっと、泣きそう。
彼と触れあう手が、指先まで、じんじん熱くて。
呼吸もまともにできてなくて。でも、なんとか息を整える。
「……っ」
言葉がうまく選べない。
でも、伝えたいことはただひとつ。だから、ごまかさずにちゃんと言え、リリー!
「わ、……たしも、ラルフと、いっしょにいたい」
「それって」
「うん。……結婚、しよ? ラルフ」
「……っ!!」
ラルフの両目がこれでもかってくらい見開かれて、でも、すぐにくしゃくしゃになる。
それから彼は、コートの内ポケットに手を入れてさ?
ふふふ、今日は落とさず、持ってたんだね?
しっかりしまって、あたためておいた願掛けこみの――もう、どんな願掛けがされてたかって、わたしでもわかるよ? ――その指輪を取り出して。
ゆっくり、ゆっくりとわたしの左手の薬指にはめてくれる。
その指輪には、小さな赤い石がついてるみたいでさ。
あはは、ラルフの瞳の色だね?
ラルフってば、ロマンチックなとこ、あるよね。……ふふ。うれし。はー……なきそ。
「リリー」
彼は立ち上がり、わたしの手を引いた。
ゆっくりと抱きしめられ、触れるだけのキスをくれて。
ぱちぱちぱちぱち。
おめでとー!
ついにか、おまえら!!
なんて、拍手とか、いろいろ声もかけられて。
あはは、ほんとに、めちゃくちゃ見守られてたね?
外、寒いのに、体ぽかぽかだし。
はー……顔熱い。でも、うん。しあわせ。だね?
人目もはばからず抱きあっちゃってるけど――いいよね? 今日は、好きな人とぎゅっとしてていい日だもん。
あ。めちゃくちゃ目があった。
かっこいいなあ。はぁー……あのラルフが、ほんと格好良く見えちゃう。
ふふふ。
お調子者で、おばかなところもあるけど、大好きだよ。ラルフ。
ずっと一緒にいようね。
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