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daidroid

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紅桜

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 現れた時空の穴に訝しんでいたプレイヤーもいたが即座にエリア規制をかけて侵入不可能エリアに指定された。
 そこで月光がアドリブ的に「別次元への繋がりを確認しました。アーカイブの皆さんは状況が把握できるまで一時帰還し待機して下さい」とそれっぽいガイドを流してイベントはそのまま終了した。

 イベントが終了し大量のポイントにより多くのプレイヤーが復刻版の武器や機体のパーツ等を入手し大いに潤った。
 後日、運営からはNOワールドの新エリア告知として、新たな世界“荒廃の文明”と言う世界が追加される事が決定した。
 


 設定上はスフィアの暴走により完全に開いてしまった時空のトンネル。
 空間が歪んだまま安定化し元に戻る兆しはない。
 そこに待つには害獣との死闘で荒廃した世界……そこで待ち受けるモノとは一体?!



 などと言うキャッチフレーズと共に近日エリア解放と言う告知も出た。
 これはシュウの思惑とかではなくアーリア社の方針であった。
 理由としては世界が繋がってしまった以上、向こうから何らかの接触が起こる可能性が極めて高く、人の流入等が行われる。
 そうなれば、この世界も少なからず影響を受けると見越して“拒否”するのではなく“受け入れる”姿勢を取る事で上手くリスクヘッジする方針を固めた。

 その為にギデオンクラスターに新たな指令が与えられた。
 その“荒廃の文明”世界に赴き、現地民との交流を深め、NOプレイヤーが介入し易い環境を整備するように根回しする事だ。

 これに伴い、交流の対価としてこちら側のネクシルの技術をある程度与える方針になった。
 シュウとしては少し早い気がしたが会社の方針である以上、それに従う事にした。
 こうして、イベント終了後、如月達のAPをネクシルの技術を応用して改修する事にした。
 技術を与えると決めた以上、それなりのモノを用意しないとならないからだ。
 こうして、時空トンネルの先から何者かが現れないか確認しながら如月達の機体を完成させた。



「おお!」

「凄く綺麗!」



 如月も阿部も感嘆した。
 そこにはベースとなった“桔梗”とは違う赤い光沢感のあるまるで宝石のような輝きを放つ機体があった。



「如何でしょう?“紅桜”と申す機体に仕上げました。」

「紅桜……」

「確かに紅色しているぽいから似合っているかも……」



 そして、シュウが機体の解説を行った。



「全身にはあなた方と遭遇したレッドドラゴンの鱗を特殊な加工で全面装甲として採用したレッドアーマーを使用しています。仮に破損しても機体の動力さえ生きていれば自動修復が可能な装甲材になっており機体動力はマグネシウム合金燃料電池から核融合炉に変更させて貰いました。少々、割高な機関なので100GWしか出せない安物ですが……」

「100……GWだと……」

「それでも十分凄いです!」

「それでもレーザー兵器が使用可能となっておりグリード相手ならまず、遅れは取りません。操作系統も量子インターフェイスに変更したので反応速度や追従性はかなり向上し遅延0で機体を操作できます。」



 それ対して如月達は目を見開き驚いていたがシュウからして見ればかなり手加減した。
 会社からも「技術の漏洩は最小でお願いします」と言われている。
 会社もシュウと同じく技術を与えた際の人間同士に戦争を懸念しているようだ。
 その場合のリスクに備えて、影響力を下げる為に本気では造っていない。
 加えて、対英雄構想の際に設計した動力部の自爆コードや緊急停止コード等も設計として搭載している。
 仮にこの機体をひな型に機体を量産され、人間同士の戦争に使われてもボタン1つで止める事ができる。
 グリードの殲滅と言う観点ではシュウも如月達も目的は共通しているので如月達にはある程度の武力を与えるのはシュウとしてもやぶさかではなかったがどの程度、与えるべきかまた、どのタイミングで与えるべきか等を考えていた。
 尤も、シュウが予想するよりも早い展開で機体を渡す事になったのはシュウとしても不安だが、多分人の人生とは何をやっても正解であり不正解なのだ。
 だからこそ、それが正解になるように全力を尽くすしかないと割り切る事にした。



「シュウ様。」



 リディオから通信が入った。



「どうしましたか?」

「時空トンネルの先から如月殿達の同型の機体が多数出てきました。機体のエンブレムから恐らく、東連合と言う組織かと……」

「了解しました。なら、ここからメッセージ弾を発射して停止するように促して下さい。くれぐれも宙域に人は入れないように人払いをお願いします」

「承知しました」




 リディオは通信を切るとすぐに作業を開始した。



「如月大尉。どうやら、お迎えが来たようです。」

「そのようだな。では、手筈通りに我々は貴殿らの仲介者をすれば良いのだな?」

「えぇ、我々の世界とあなた方の世界は関係性を持たなくてはならなくなった。こうなった以上、然るべきところとちゃんと交渉したと考えています。できれば、その手の話が分かる方がいいですね」

「それなら、ユウキ博士なら大丈夫だろう。彼女は聡明だ。あなた達の世界に関しては理解を示してくれるはずだ。」

「……そのように祈りたいですね」



 その時のシュウがどこか不穏なように影を落としていた事に如月は気づいたが気のせいであるとして深く言及しなかった。
 こうして、シュウ達が次元トンネルのある場所に向かって異世界同士の初めての交流を果たす事になる。
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