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daidroid

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ユウキ ウヅコ准将

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 時空トンネルの場所に向かうとそこには10機の“桔梗”がいた。
 こちらの停止信号は受け取ったようで停止しているようだ。
 リディオにはこの辺りに哨戒機を手配させ、人払いを行っている。
 この会談を見られる心配は今のところない。
 シュウ達は如月達と共に次元トンネルから来た部隊と邂逅した。



「こちらはギデオン クラスターのシュウと申します。まずは停止信号に応じて貰い感謝します。こちらにはあなた方に対して攻撃の意志はありません。我々が望むのは交渉とこちらで保護した東連合の兵士の返還です。応じて貰えますか?」




 少しの沈黙の後、通信に応答があった。



「しばし待て、こちらのユウキ ウヅコ准将があなたと話したいと言っている。」

「ユウキ ウヅコ……ですか?」



 シュウは嫌な予感がしながらもその通信を待った。
 すると、網膜投影に長髪黒髪の美女が出て来た。
 何ともできる女のような雰囲気が出ており、どこから狸や狐を思わせる巧妙さを合わせたような顔をしていると言う印象だった。



「初めまして、ミスターシュウ。あたしはユウキ ウヅコ准将。新潟基地の副司令をしております。」

「初めまして、ユウキ准将閣下。改めて、ギルド ギデオン クラスターのギルドマスターのシュウです。」

「ギルド……組合?武力を行使する組合と言う事かしら?」

「そのような認識で相違ありません」



 向こうの世界にゲームにおけるギルドの意味を説明しても無意味だと思ったのでそのまま流した。
 実際、意味としては間違っていないので訂正する必要もなかった。



「一応、確認しますけど、停止信号を撃ったと言う事は我々と交渉する何らかの機関の一員と言う事で宜しいですか?」

「寧ろ、この世界を代表してここに来たと言う認識で相違ありません」



 嘘ではない。
 シュウはこの世界を経営する会社の方針でここに来たのだ。
 だから、相手にとっていかに突飛だとしてもそれが事実なのだ。



「そうですか……それにしても如月大尉達の機体はどうされたのですか?随分と変わった機体になっていますが」

「この機体はそちらの桔梗を現地改修した機体になります。そちら側との友好の証としてそちらに貸与と言う形で与えるつもりで造った物です。僭越ながら、そちらの機体を大きく超える水準になっていると考えます。」

「……如月大尉と話せますか?」

「えぇ、通信回線は以前のままですからそのままどうぞ」




 それからユウキは如月と通信を開始した。
 何を話しているか聴く事もできるが敢えて聴かない事にした。
 こちらが盗聴できると分かったらどんな扱いを受けるか分からないからだ。
 アメリカでは市民の管理の為に盗聴もある種合法化されているが東連合ではどう思われるか分からないので今はやめておく事にした。
 すると、数分ほど話終えたところで回線が戻った。



「うちの如月から話は聴きました。そちらの世界の事やそちらの軍備や機体性能でデータ等を拝見させて貰いました。たしかに我々を超える高い水準をお持ちの様ですね」




 どうやら、如月がシュウ達の世界について説明してくれたらしい。
 シュウ自身は自分の口で伝えるつもりだったが手間が省けた。
 これで会話が割とスムーズに進むだけシュウとしては助かる。



「そちらがゲームの世界に偽装した現実世界でありSWNと呼ばれる粒子の事象具現作用によって誕生したスフィアクリーチャー……グリードでしたか?それの駆除や発生防止に務める機関がギデオン クラスターと言う組織であなたがその部隊の実働隊兼司令官と言う事で間違いないかしら?」

「えぇ、それで間違っていません」

「なるほど、事情は分かりました。こちらとしてもあなた方と交渉する事に異論はありません。寧ろ、こちらからお願いしたいとすら思います。」

「見ず知らずのわたし達とすぐに交渉ですか……随分と気前が良いですね」

「あなた方の実績を考慮した正当な評価です。あなた方はこちらでスフィアの破壊と言う偉業を為した。それだけでも我々にとっては大きな収穫です。寧ろ、東連合とコンタクトして貰えてこちらとして大いに助かります。」



 ユウキは嬉しそうに笑っていたがシュウは少しだけ向こうの世界について分かった。
 向こうの世界は人類の危機にあるにも関わらず人類の全体の損害ではなくあくまで国益を優先している節があると言う事だ。
 それが絶対とは言わないがその片鱗を見せただけ警戒しておいた方が良いかも知れない。

 実際、目の前の女がシュウの予測通りなら友好的に見えて腹の中で何を考えているのか分かったものではない。
 古来、詐欺師とは善人のフリをして人を騙す者だ。
 このユウキとてそれは同じだ。
 だから、決して油断はできない。
 油断できないからこそ、既に水面下でシュウはあらゆる対策を講じていたのだ。



「そうと決まれば、交渉ですよね。そちらのスタンスとこちらのスタンスに関する兼ね合いなどを調整しないとならない。そちらにとってもその方が良いのではないでしょうか?」

「話が早くて助かります。実を言うと早めにこちらの人間が活動できる環境を整えたいと考えております。なので、世界規模の活動を視野に入れております。」

「そうですか。では、わたしがそちらに伺いましょうか?それともそちらから?」

「この場合はこちらから伺わせて貰います。何分、我々もそちらの世界の実情を知っておきたいと考えておりますので……」



 こうして、シュウ達は目の前の桔梗の部隊に案内されながら新たな世界に足を踏み入れた。
 世界は更に加速する。
 2つの世界の邂逅はバタフライ効果のように新たな邂逅すら呼び寄せる風となるのだ。
 だが、この時のシュウ達はまだ、気づいていない。
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