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シュウの交渉
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日本海
シュウ達は北京の近くの海域に駐留していたAP空母に発着してそこでユウキ准将と対面していた。
空母の艦橋で互いに敬礼し握手を交わした。
シュウも一応、交渉する相手と言う事もありいつもかけているグラサンは良くないと思い外す事にした。
「あら、凛々しくて良い顔しているのね」
「煽てても何も出ませんよ」
「煽てているつもりはないんだけど」
そんな軽い世間話を済ませた後で左右にマナとカナと言う護衛を挟む形で交渉を始めた。
「では、早速ですが、知っての通り我々の目的は全並行世界におけるSWNの削減です。その為にNOワールドは存在します。SWNは事象干渉作用を有しておりそれが人の認識等で具現化する事で人に害意を持った怪物……そちらに言うところのスフィアクリーチャーを産み出す事になります。我々の組織理念としてもスフィアクリーチャーは討伐対象でもあります。なので、NOワールドの住人がこの世界でスフィアクリーチャーを討伐できる環境を我々は提供して貰いたいです。その代わりに我々は貸与と言う形であなた方に“紅桜”を譲渡します。」
この交渉においてシュウが有利に働いていた。
シュウは既に交渉する上で先手として“紅桜”を貸与と言う形で譲渡している。
貸与にしているのは「まだ、契約が成立していないから貸しているだけ」と言う建前だ。
契約が成立すれば、譲渡すると言っているのと同じだ。
そして、契約に応じない場合、貸与した物は返却する手があると見せつけているのだ。
そして、このユウキはそのように信じるとシュウは確信していた。
何故なら、今現在何者かにシュウの思考は読み取られている。
要するに向こうにはうそ発見器がありシュウがブラフを使っているのかすぐにバレると言う事だ。
だが、シュウは敢えて相手の思惑通りに今は動いている。
「つきましては、この世界全体にそのように働きかけて欲しいのですが、可能でしょうか?」
「あなたの主張は理解しました。わたしから東連合上層部に話をつけておきます。ただ、他国に関しては保障しかねます。何分、友好国だけが我々の世界にある訳ではありませんので……」
「でしょうね。ならば、せめて東連合内だけでも活動できるようにして貰えませんか?聴けばそちらは東アジア全土を覆う程の大国であり国の半分はスフィアクリーチャーに占領されているそうではないですか?我々が活動すれば、少なくともあなた達は今まで背負っていたリスクを負う必要が無くなると思いますが……」
シュウは敢えて、最初に「世界規模」と言う部分を強調した事でユウキに「無理」と言わせ、その上で本当にやりたかった「東連合内での活動許可」と言う題目を引き出そうとした。
敢えて、ハードルの高い要求をしてその後で小さな要求をする事で心理的に要求を通り易くする為だ。
彼らは「交渉」をしておりシュウは既に「貸与」と言う既成事実を造っている。
その上で「アレも無理、これも無理」と言えば交渉として成り立たず、シュウが提示した「貸与」は有耶無耶になる可能性をユウキにチラつかせているのだ。
更には兵士の人的な被害の削減と言うファクターに関して働きかけ、更に交渉を有利にしようとした。
だが、しかし、それに関してはユウキが難色を示す。
「東連合内での活動許可はなんとかしましょう。ただし、あくまで東連合との合同作戦と言う形を取らせて貰えませんか?」
「合同作戦ですか?」
この一言はシュウにとっては意外だった。
相手も分かっているはずなのだ。
合同作戦したところで東連合は足手纏いにしかならず無暗に人員を削るだけだと……それだけネクシルと桔梗の性能差は離れている。
紅桜は全面配備されるならまだしも、まだ、完全には「貸与」しておらず生産すら行われていないこのタイミングでは速過ぎる気がした。
「何故、合同なのですか?言っては気分を害すると思いますが敢えて言わせて貰うと”足手纏い”になると思いますよ」
それにはユウキの傍にいた艦長職や副官らしき人達を眉を細める。
彼らからすれば、良い気分はしないだろうが事実は事実として伝えねばならない。
それに対してユウキは……
「仰る通りだと思います。しかし、我々は現地の人間です。NOの民がこの世界で活動する上で問題を起さないように仲介やガイドをしておく事も必要かと考えます。それにそちらの世界は一般ではゲームとお考えと言う事はゲーム感覚で人的な被害を出すのではないですか?」
そこに関して、シュウは否定できなかった。
ユウキと言う女はやはり、頭が良いのか的確にこちらのウィークポイントを突いて来た。
確かにゲームのプレイヤーがNPCと思い込んだ相手の人権など考えるとは思えない。
問題を起さないとも限らない。
実際、如月から聴いた話でもスフィアクリーチャーが日本に侵攻しないように間引き作戦を行っている戦線には未だ人が住んでおり営みが存在する。
そこにNOプレイヤーが現れれば、被害を配慮せずに攻撃する可能性もゼロではない。
確かに現地民のガイドは必須かも知れない。
だが、シュウはこの提案にどうも違和感を覚えた。
ハッキリ言えば、それがユウキの本音とは思えないのだ。
彼女は何かを企んでおりその上でこの件を口実に使ったのではないか?とシュウも思った。
だが、それを糾弾する材料をシュウは持ち合わせていない。
幸い、シュウが求めていた要求を受理されそうなのだ。
ここで下手な事を言って交渉がこじれるよりもこのまま放っておく方がメリットが大きいと判断した。
どんな事でもデメリットは抱える。
問題はそのデメリットを如何に対処してメリットに繋げるかだ。
現実問題として時にデメリットだらけでも1つのメリットを取らないとならない場合もあるのだ。
常にメリットが多い選択を選ぶなど我儘に過ぎない。
なので、この場合ユウキに思惑があるとしても静観しないとならない。
幸い、向こうはこちらの思考を読み取り全てを把握していると思い込んでいるだろうがその裏を掻く事もこちらにはできるのでまだ、致命にはならないとシュウは判断した。
「良いでしょう。大まかにそのような内容で構いません」
「後で上層部と細かな取り決めをするとしてこれで一応、契約成立ね」
2人は固く握手を交わした。
互いに微笑んでいたが、その心中では互いの腹を探り合っているようであった。
シュウ達は北京の近くの海域に駐留していたAP空母に発着してそこでユウキ准将と対面していた。
空母の艦橋で互いに敬礼し握手を交わした。
シュウも一応、交渉する相手と言う事もありいつもかけているグラサンは良くないと思い外す事にした。
「あら、凛々しくて良い顔しているのね」
「煽てても何も出ませんよ」
「煽てているつもりはないんだけど」
そんな軽い世間話を済ませた後で左右にマナとカナと言う護衛を挟む形で交渉を始めた。
「では、早速ですが、知っての通り我々の目的は全並行世界におけるSWNの削減です。その為にNOワールドは存在します。SWNは事象干渉作用を有しておりそれが人の認識等で具現化する事で人に害意を持った怪物……そちらに言うところのスフィアクリーチャーを産み出す事になります。我々の組織理念としてもスフィアクリーチャーは討伐対象でもあります。なので、NOワールドの住人がこの世界でスフィアクリーチャーを討伐できる環境を我々は提供して貰いたいです。その代わりに我々は貸与と言う形であなた方に“紅桜”を譲渡します。」
この交渉においてシュウが有利に働いていた。
シュウは既に交渉する上で先手として“紅桜”を貸与と言う形で譲渡している。
貸与にしているのは「まだ、契約が成立していないから貸しているだけ」と言う建前だ。
契約が成立すれば、譲渡すると言っているのと同じだ。
そして、契約に応じない場合、貸与した物は返却する手があると見せつけているのだ。
そして、このユウキはそのように信じるとシュウは確信していた。
何故なら、今現在何者かにシュウの思考は読み取られている。
要するに向こうにはうそ発見器がありシュウがブラフを使っているのかすぐにバレると言う事だ。
だが、シュウは敢えて相手の思惑通りに今は動いている。
「つきましては、この世界全体にそのように働きかけて欲しいのですが、可能でしょうか?」
「あなたの主張は理解しました。わたしから東連合上層部に話をつけておきます。ただ、他国に関しては保障しかねます。何分、友好国だけが我々の世界にある訳ではありませんので……」
「でしょうね。ならば、せめて東連合内だけでも活動できるようにして貰えませんか?聴けばそちらは東アジア全土を覆う程の大国であり国の半分はスフィアクリーチャーに占領されているそうではないですか?我々が活動すれば、少なくともあなた達は今まで背負っていたリスクを負う必要が無くなると思いますが……」
シュウは敢えて、最初に「世界規模」と言う部分を強調した事でユウキに「無理」と言わせ、その上で本当にやりたかった「東連合内での活動許可」と言う題目を引き出そうとした。
敢えて、ハードルの高い要求をしてその後で小さな要求をする事で心理的に要求を通り易くする為だ。
彼らは「交渉」をしておりシュウは既に「貸与」と言う既成事実を造っている。
その上で「アレも無理、これも無理」と言えば交渉として成り立たず、シュウが提示した「貸与」は有耶無耶になる可能性をユウキにチラつかせているのだ。
更には兵士の人的な被害の削減と言うファクターに関して働きかけ、更に交渉を有利にしようとした。
だが、しかし、それに関してはユウキが難色を示す。
「東連合内での活動許可はなんとかしましょう。ただし、あくまで東連合との合同作戦と言う形を取らせて貰えませんか?」
「合同作戦ですか?」
この一言はシュウにとっては意外だった。
相手も分かっているはずなのだ。
合同作戦したところで東連合は足手纏いにしかならず無暗に人員を削るだけだと……それだけネクシルと桔梗の性能差は離れている。
紅桜は全面配備されるならまだしも、まだ、完全には「貸与」しておらず生産すら行われていないこのタイミングでは速過ぎる気がした。
「何故、合同なのですか?言っては気分を害すると思いますが敢えて言わせて貰うと”足手纏い”になると思いますよ」
それにはユウキの傍にいた艦長職や副官らしき人達を眉を細める。
彼らからすれば、良い気分はしないだろうが事実は事実として伝えねばならない。
それに対してユウキは……
「仰る通りだと思います。しかし、我々は現地の人間です。NOの民がこの世界で活動する上で問題を起さないように仲介やガイドをしておく事も必要かと考えます。それにそちらの世界は一般ではゲームとお考えと言う事はゲーム感覚で人的な被害を出すのではないですか?」
そこに関して、シュウは否定できなかった。
ユウキと言う女はやはり、頭が良いのか的確にこちらのウィークポイントを突いて来た。
確かにゲームのプレイヤーがNPCと思い込んだ相手の人権など考えるとは思えない。
問題を起さないとも限らない。
実際、如月から聴いた話でもスフィアクリーチャーが日本に侵攻しないように間引き作戦を行っている戦線には未だ人が住んでおり営みが存在する。
そこにNOプレイヤーが現れれば、被害を配慮せずに攻撃する可能性もゼロではない。
確かに現地民のガイドは必須かも知れない。
だが、シュウはこの提案にどうも違和感を覚えた。
ハッキリ言えば、それがユウキの本音とは思えないのだ。
彼女は何かを企んでおりその上でこの件を口実に使ったのではないか?とシュウも思った。
だが、それを糾弾する材料をシュウは持ち合わせていない。
幸い、シュウが求めていた要求を受理されそうなのだ。
ここで下手な事を言って交渉がこじれるよりもこのまま放っておく方がメリットが大きいと判断した。
どんな事でもデメリットは抱える。
問題はそのデメリットを如何に対処してメリットに繋げるかだ。
現実問題として時にデメリットだらけでも1つのメリットを取らないとならない場合もあるのだ。
常にメリットが多い選択を選ぶなど我儘に過ぎない。
なので、この場合ユウキに思惑があるとしても静観しないとならない。
幸い、向こうはこちらの思考を読み取り全てを把握していると思い込んでいるだろうがその裏を掻く事もこちらにはできるのでまだ、致命にはならないとシュウは判断した。
「良いでしょう。大まかにそのような内容で構いません」
「後で上層部と細かな取り決めをするとしてこれで一応、契約成立ね」
2人は固く握手を交わした。
互いに微笑んでいたが、その心中では互いの腹を探り合っているようであった。
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