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リリーシャ デフト

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 緊急メンテナンス前 月



 月では順調に月面基地の改修作業が進んでいた。
 既に基地の6割程改修が終わりヘリウム3生成プラントも確保した。
 本来なら独自の技術を使ったこの基地を技師でもないドレイク達だけでは相当の時間がかかるはずだったが、ボイドセクターの協力もありこちらでも使える言語への変換や基地に残っていたワーカーと言う作業用の機械種の稼働にも成功したのでかなりスムーズに進んでいた。



「ドレイクにい、進捗どんな感じ?」



 ヘリウム3のプラントをデッキを上から眺めるドレイクにリオが尋ねた。



「あぁ、丁度、ヘリウム3の生産が終わったところだ。このまま月の表にあるマスドライバー施設に運んで地上に射出するだけになっている。」

「問題ないみたいだな」

「まぁ、こっちはな」



 ドレイクは通信端末を見ている。
 そこには地上で行われているイベントについて書かれておりリアルタイムの戦闘まで載せられていた。



「地上は大変だね」

「まさか、この世界にもグリードが来るとはな……しかも、前触れもなく突然だよな。一体何が原因なのやら……」



 ドレイクと言う男は偶然と言うモノを信じていない。
 偶然と思われる出来事を冷静に見て見るとまるで誰かが計画したような緻密な計算の上に成り立っている印象を受ける。
 だから、この男は地上での出来事も偶然とはないと考えている。
 ただ、その理由はさっぱり分からない。



「ところでリオの方は終わったのか?」

「うん。指定された場所にテレポートポータルを設置したよ。ギルドに戻れる事は確認したからちゃんと動いているよ」



 テレポートポータルとは、シュウ達は今まで倒した神から入手したスキルである神時空術を応用した転移装置だ。
 空間短縮系のワームホールを形成し設置したポータル同士を行き来するシステムだ。
 神時空術の“ゲート”と言う技を技術的に再現した事でスキル等による妨害の心配がない極めて安定性の高い装置として完成されている。
 これで何かあれば、すぐに地上と月を行き来するルートを造る事に成功したと言う訳だ。



「なら、問題なさそうだな。こっちも大方、終わったからな。そろそろ、地上に戻ると……ん?」



 ドレイクの端末に何か信号が入った。
 施設内のある個所で異常が発生した事を報せている。
 しかも、空間転移の類だ。



「リオ、ラッシュ達に武装してL21番格納庫を向かうように伝えてくれ。」

「了解」



 リオは見事なまでの敬礼をしてその場を去った。



「さて、またひと悶着あるのかね」



 等と思いながらドレイクは長銃グラジオラスを肩に担いで黄昏た。



 ◇◇◇



 L21番格納庫に来るとそこには時空に開いた穴と目の前に落ちているエメラルドグリーンの長髪を持った端正な顔立ちの鎧を着た女騎士が倒れていた。



「プレイヤーか?」



 ラッシュは一瞬、そう思った。
 この世界にも鎧を着たパイロットは大勢いる。
 その点を考えれば、月に転移したプレイヤーと言う可能性は否定できない。




「いや、NPCかも知れない。取り合えず、息はあるみたいだな」



 ドレイクが歩み寄りうつむせの彼女を抱えて肩を持つ意識があるか確認する為に「聴こえますか!」と耳元で大きく叫んだ。
 女性はハッと目を開くと咄嗟にドレイクを突き飛ばし、距離を取り腰にあった剣を構えようとした。
 ドレイクも慌てて距離を取るが一応、友好的に接する。



「おい、落ち着けって、危害を加えるつもりはない。」

「――――××――×××」



 彼女は何か言っているようだったがドレイク達には全然分からなかった。
 少なくとも地上で使われている言語ではない。
 古代語でもなく全く知らない言葉だった。



「――×××―――××××―――」



 ドレイク達は殊更首を傾げた様子を見て女性も何か察したらしい。
 困惑様子を浮かべると「ここは危険」とでも考えたのだろうか突然、後方に向かって走り出した。



「あぁ!こら!勝手に動くな!」



 ドレイク達はその後を追う。
 幸い、施設のセンサーのお陰で女性を見失う事はない。
 どの経路を歩んで逃げているのかまる分かりだ。
 だが、それにしても速い。
 少なくとも鎧を着た人間の移動速度ではなく軽く60km以上は出ていた。
 スペリオル レベラーでなければまず、追従する難しいほどの身体能力と言う事はそれだけの実力者と言う可能性がある。
 少しだけ警戒しながら後を追う。
 その後は何を考えたのか基地内を移動するテレポートポータルを経由しながら施設をあちこちに移動し最終的に止まったのは月の表に建造したマスドライバー管理センターにある廊下だった。

 ようやく、追いつくと女性は茫然と外を眺めていた。
 廊下に建造されたテーブルとソファー、そこから一面ガラス張りから見える地上と言う構図でドレイクの趣味で造った空間だ。



「―――××……」



 何か感嘆しているようだ。

 ここでようやく、言語解析ソフトが相手の言語の解析を完了した。
 ドレイクはインカムのマイクを使って話した。



「オレの言葉が分かるか?」

「!」



 女性は突然の事に驚いているようだったがあくまで冷静にいようと努め深呼吸をした後に口を開いた。



「あぁ、分かる」

「良かった。こちらに敵意はない。できる事ならあまり暴れないで欲しい。ここは出来たばかりの建物で何かと脆い部分もまだ、あるんだ。できれば、穏便に済ませたい」

「ここは……名のある貴族の屋敷か何かか……」

「えぇ?まぁそんなところだ」

「ふん……分かった。こちらも慌てていたとは言え、失礼した。貴族の屋敷に走り回る等騎士として恥ずべきだった。すまない」



 彼女は深々と頭を下げた。



「謝る必要はない。あなたが困惑しているのは見て取れた。無理のない話だ」



 彼女は顔を上げそれを聴いた安堵した。



「そのように言って貰えるなら助かる」



 その時の微笑みは地上からの反射光の相まってとても幻想的で神秘的なモノがありドレイクの心臓を少しだけ跳ね上げた。
 だが、すぐに我に返り話を続ける。



「オレはドレイク。あなたは?」

「わたしはリリーシャ デフトだ」

「リリーシャか良い名前だ。良ければそこのソファーで事情を聴きたいが構わないか?」

「あぁ、分かった」



 こうして、ドレイク達と対面する形でリリーシャは自分の経緯を語り始めた。
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