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daidroid

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魔王との決着

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 シュウは機体のステータスを確認する。
 これまでの戦闘でエネルギーをかなり使ってしまった。
 完全回復まで相当の時間がかかる。
 
 黒雷砲は既に2発撃ったので使用できない。

 ガルガンチュアは駆動系を回すエネルギーがない。

 黒杖も創造するだけのWNが残っていない。



 残る手段は破壊剣だけとなった。
 シュウは覚悟を決めて、空間収納から破壊剣を取り出し右手に装備した。



「シュウ……」



 リリーシャから通信が入った。



「わたしを援護してくれ……わたしがトドメを刺す」



 シュウはリリーシャを見下ろした。
 とてもではないがトドメを刺せそうには見えなかった。
 鎧はボロボロで体は満身創痍であり右腕を左腕が庇い、足取りも覚束ない。
 先ほどの攻撃で少なからずダメージを受けて彼女はもう満足に戦える状態ではなかった。

 それでも彼女は自分の使命を全うしようと藻掻いており一生懸命に頑張っていた。
 だからこそ、思うのだ。

 彼女は十分に戦った

 だから、シュウは何も答えなかった。
 これほど懸命になって世界の為に戦った彼女が最後には憎まれ役を引き受けるのは間違っていると思った。
 千鶴が言いたい事が少しだけ分かった気がする。
 だからこそ、シュウは余計に思った。



(今、ここで決めるしかない)



 シュウにそれを決意させた。
 シュウは何も言う事もなくリリーシャに背中を見せて一歩一歩と魔王に歩み寄った。



「シュウ?」



 リリーシャは疲労の所為だろうかシュウが何の為に前に出たのか一瞬理解できなかった。
 だが、少ししたら理解した。



「シュウ!やめるんだ!」




 だが、引き留めた時には遅かった。
 シュウは機体のスラスターを点火させて魔王に肉迫していた。



『貴様が来るか!受けて立つ!』



 シュウが飛び上がり上段から破壊剣を振り翳した。
 魔王は棍棒で上段からの攻撃を受け止めようとした。



「これで、終わりです」



 シュウは振り下ろした瞬間に残りのエネルギーを全て破壊剣に注ぎ込み破壊剣の力を高めた。

 黒い一閃が奔った。

 破壊剣の切っ先がゴーレムの正中線を両断した。



『見事だ……』



 魔王は感嘆していた。
 これほどの強者に出会えた事を歓喜する武人としての彼とより強大な力を得られると思い恍惚に笑う2人の彼がいた。



『故に……その力、貰い受ける!』



 魔王から黒い靄が発生しシュウのグランゲートを取り込んだ。
 魔王の力は既に一定以上に達し自分を倒した相手を即座に奪うだけの力を獲得していた。
 今までは他のリソースに力を割いていたので50年かかったが今、ここで乗っ取る事で新たな魔王として産声を挙げる。
 そう言った意図で発した発言だった。



「シュウ!」



 リリーシャは必死に叫んだ。
 短い間だったがリリーシャもシュウには恩義を感じていた。
 彼がいなければ、民を飢えに苦しんでいた。
 彼が良心的でなければ、自分達の為にここまで骨を折ってくれなかっただろうと思った。
 魔王を討伐する為にあの膨大な書庫で1人ひたすら方法を探す事にしなかっただろうとリリーシャは知っている。
 彼は非常に真面目で真摯な努力家だと彼女は知っている。
 その大切な仲間が今まさに魔王に呑み込まれようとしているのに自分の体が言う事を訊かない事を彼女は凄くもどかしく思い、歯軋りした。




「くふふふふ……」



 だが、そんな彼女の緊迫した心情を余所にしたような不敵な声がインカムから聴こえた。
 それと共に黒い靄となった魔王が呻く。



『な、なんだこの力は!』

「あなたならわたしを選ぶと信じていましたよ」

『この力!我を逆に支配しようと……貴様!まさか、はじめから!』

「その通り、賭けにはわたしが勝ったと言う事です。あなたの能力が支配に関与しているならわたしの能力が通じるはずだと予測していました。尤も情報が不足していたので賭けではありましたが……」

『うぉぉぉぉ!!!支配されてなるモノか!我は復讐しなければならんのだ!こんなところで歩みを止めるわけには!』

「……なら、その復讐はわたしが受け継ぐ」

『なに?』

「わたしは今回の件で邪神の背後にいる敵を見つけた。それがあなたの敵ならわたしの敵です。ならば、いずれ決着をつけねばならない。」

『……強大な敵だ。お前だけで勝てるつもりか?』

「わたしだけではありません。仲間もいます。それにあなたにも協力して貰います。協力すれば倒せるはずです。」

『今更仲間など……』

「あなたの復讐はその程度なのですか?手段を選んで拘る余裕があるのですか?わたしに御大層な事を言っておいてあなたの初戦はその程度だったと言う事ですか?」



 それを言われた魔王は抵抗をやめた。
 彼はシュウの言葉を否定しようとした。
 だが、同時に納得してしまったのだ。
 手段を選んだ。
 選ぶ余裕などないはずなのに……自分が魔王にしようとしたほどの男の力を……その男は真の意味で目的の為に手段を選ばず懸命なのが分かった。
 何故なら、自分を打ち倒し自分を超えてすら見せた男がそのように選択したのだ。
 少なくとも認めてしまったのだ。
 自分にはない選択と選んだ……本当に懸命な男の選択を男として納得し理解したのだ。



『ならば、その意志……確実に果たせ』



 魔王はそれを言い残すと取り込まれた。



『当然です。わたしは必ず完遂してみせます。今までもそうであったように……』



 こうして、戦いは終わった。
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