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daidroid

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アイカもリリーシャも人外です

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 それからレッドドラゴンの死体が騎士団の要塞に運ばれ処分された。
 鱗等は有用なので剥ぎ取られたがガン種の完全処分の為に残りは全て消した。
 本来なら、現場で火葬するのが通例だが、レッドドラゴンは火炎耐性が高いので生半可な火では焼却できないので騎士団の専門家に処分を依頼する形でこの件は集結した。
 それからシュウ達はギルドに戻って夕食の席についていた。
 そこでこんな話があった。



「それにしてもアイカねえもリリねえも強さがちょっと異常だよね」



 リオが何気なくそのような事を口にした。



「そうか?一生懸命に鍛えれば誰でもできると思うが?」



 とリリーシャは答えるが



「いやいや、鍛えてどうにかなる問題じゃないと思うよ」

「確かにリリーシャさんとアイカさんの強さは際立ってますよね。リリーシャさん普段、どんな訓練しているんですか?」




 カナの質問に対してリリーシャが答える。



「そうだな……ゴーレムを抱えながらスクワットを4日ほど連続で行ったり足枷をつけてゴーレムと3日3晩戦い抜いたりしたな……」



 それに対してマナが呆れる。



「どんだけストイックなのよ……」



 軽く人間の限界を超えているのだから、もう笑えるものではない。



「いや、そうは言うがきっとアイカも似たような事はしていると思うぞ。寧ろ、副団長として当然なのではないか?」



 それにはドレイクが答える。



「この世界の他の騎士団を調べてもお前とアイカほどストイックな騎士は他にはいねーよ。寧ろ、尊敬と畏敬を籠めたいくらいには凄いぜ」


「そう言うものだろうか……」



 それにはラッシュが答える。



「あぁ!それには自信を持って良いと思うぜ。お前はすげー努力家だってな」

「うん……お前達がそう言うなら、そう言う事にしておこう」



 等と言いながら食事の席についた。
 今日は何かと慣れない事で疲労したのでよく食べた後にしっかり熟睡した。



 ◇◇◇

 翌日



 少しアイカに用があったので騎士団本部に向かった。
 そこで騎士団の団員にアイカの居場所を尋ねるとトレーニングルームに案内された。
 すると、そこには周りの男の団員の目を引くアイカの姿があった。

 何が目を引くかと言えば、そのトレーニングが異常な事だ。
 アイカは黒いダイレクトスーツを着てベンチプレスでバーベルを上げていた。
 そのバーベルの重りの部分には片方に200kgと書かれた大きなプレートと50kgと書かれた小さなプレートがあった。
 つまり、左右合わせて500kgの重量を彼女は上げていた。
 そこからしてかなり常人離れしており、しかも周りの目を引く要素もあった。

 普段、鎧の下で見えないアイカの細身でありながら引き締まった筋骨が露になっており腹筋等もしっかりと割れていた。
 黒いスーツがその肉体のラインを強調しつつ額から出る汗がその体に光沢感を持たせるので流石のシュウも魅入ってしまう程であり人間的な情欲が駆り立てられる。
 シュウも一応、男なので惹かれてしまうところがあるのだ。

 アイカはこちらに気付くとバーベルをフックにかけて上体を起こしこちらに歩み寄って来た。
 引き締まったスーツと綺麗な歩き方が普段の彼女とは違う魅力を更に引き立てていた。



「シュウさんどうしましたか?」

「あぁ、いや……その、例のガン種の対応マニュアル等があればできれば頂ければと思って許可を取りに来たんです。」

「なるほど、そんな事ですか。シュウさんなら問題はありません。わたしの許可を出しますので騎士団の書庫秘書に聴いて下さい。書物のコピーも許可します」

「ありがとうございます。それでここで何を……」




 変な事を聴いている自覚はあったが何となく聴きたくなった。
 それだけ目の前の事が常識離れだったからだ。



「なにって、訓練ですが……」

「いや、それはそうなんでしょうが……その体壊さないのですか?500kgなんて上げたら体壊れてしまうのでは?」

「あぁ、その事ですか。大丈夫です。これはまだ、です。この後でこのスーツで負荷を10倍に引き上げてから仕上げをするつもりです」




 そう言ってアイカは笑みを浮かべてながら右人差し指でスーツの胸元を指指した。



「えぇ……あ、うん。そうですか……」



 何が大丈夫なのか全然、変わらないが分かった事があった。
 アイカもやはり、異常と言うか人外だった。
 500kgの10倍は5000kgつまり、5トンだ。
 そんな重量を仮に再現できるとして人間の心肺機能が持つはずがない。
 もしかすると今の訓練も500kgを上げているようで実はもっと高い負荷を体にかけてウォーミングアップと称しているなら彼女の人外ぷりが目に浮かぶ。
 だが、それにはある種の憧憬があった。

 そこまでの肉体を得るには途方もない努力があったはずだと……「努力」と言う物にある種の拘りがあるシュウにとってその途方もない努力をした化身とも言えるアイカはある意味、自分が目指す理想系のように見えた。



「アイカ……そのダイレクトスーツは肉体に対する負荷を上げられるのか?」



 リリーシャが目を輝かせて尋ねた。




「えぇ、その通りです」

「おぉ、なんて素晴らしい!これはどこで販売しているんだ!わたしも欲しい!」

「あぁ、これはわたしのお手製だから、販売はしていません」

「なんと、自分で作っているのか!」

「もし、良ければあなたの為に1着作りますけど……」

「ほ、本当か!是非頼む!」



 やはり、この2人は馬が合うようだ。
 根っからの戦闘民族で強くなる事にひたすら貪欲なのだ。
 戦闘狂とかバトルマニアと言えなくもないがそれとは少し違う。
 この2人は自分の根幹となる目的を果たす手段として“武”を極めているだけであり“武”を極める事を目的としていない。
 シュウはそのように感じた。
 そうでなければ、ここまで頑張れないと「努力」と言う物に敏感な彼はそう思うのだ。



 ◇◇◇



 この時のアイカはまだ、比較的に安定しておりまるで嵐の前に静けさのように穏やかだった。

 だが、災いとは突然に来るのだ。
 ノアの洪水がノア以外に分からなかったようにそれは突然、来るのだ。
 シュウがその事を知るのはこれから少し後の事だ。
 ノアのように事前に知れたら少しはマシな結果になったかも知れないが運命は奇しくもシュウにノア以上に困難な道を与える事になった。
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