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現実世界での戦争

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 現実世界



 都城 竜馬はワイバーンMkⅦと言う機体に乗って部隊を率いていた。
 万が一にもアーリア社とネクシルの関係性を現実で知られない為にワイバーンと言うAPを使い、光学迷彩を纏って周囲を索敵していた。

 この機体はカーボンを使ったベンタブラックを装甲材に採用しているのでレーダーには殆ど感知されないステルス性を得ており、静粛稼働性も高く、機体の動力には変換効率が100%近いWNコンバータを採用しているので熱も発生しない。
 ただし、核融合等の補助動力が無い分、機体出力は落ちておりSWN下での機体の安定稼働性が低下している。

 ただ、そのステルス性は極めて高く、アメリカやイラクのレーダーや衛星に引っ掛かる事なくイラク領内で問題なく活動している。

 彼らが追っているのは最近、アーリアサイバーテクノロジー社の名前を騙るテロリストの調査と排除だ。
 背後関係を調べた後にしっかりと排除する予定だ。



「この辺で活動しているはずだが……」



 竜馬はイラクにあるアメリカ軍の空軍基地周辺を見渡す。
 最近、空軍の基地を攻撃する謎の武装勢力に悩まされている。
 その勢力はかなり短いスパンで現れては消え、現れては消えを繰り返し電撃的に基地を攻撃し壊滅させており、周辺の空軍基地は大きな痛手を受けている。

 この短時間の間にあり得ないほどの出現頻度で攻撃を加えているのだ。
 パイロットの疲労などを一切無視していると思える労働時間と言えるだろう。



「どこにいる……」



 すると、センサーが西の方角に熱源と戦闘音を探知した。
 遠くで爆発が起きているようでありその方角からは煙も見えた。



「あそこか……」



 竜馬はその方角に向かい、戦域に突入した。
 網膜投影越しに見えるのはアメリカ陸軍の駐屯地があった街だ。
 そこには街の住人の断末魔や焼き焦げた黒い影の跡などが残されていた。



「酷いな……」



 まさに地獄絵図と言える惨状だ。
 前方を見ると陸軍の歩兵部隊が空中を浮遊しながら高機動で移動する複数の重装甲な人型にライフルを乱射していた。

 その後ろには戦車や装甲車部隊もおり主砲を空中に向けて発砲していた。
 だが、人型は歩兵の攻撃を諸共せずに3次元的に宙返りして戦車部隊の攻撃を回避しながら頭上を取り手持ちのライフルを発射した。
 戦車や装甲車はその一撃で轟沈しその爆発や破片に巻き込まれた兵士達の肢体も爆散する。



「見た目の割に動きが良いな……」



 竜馬はワイバーンのセンサーを精密化させてスキャンさせた。



「やはり、何かしらのカモフラージュ機能か……余程、隠したい事があるらしいな」



 竜馬はステルス最大にしながら敵に急接近した。



「各機。赤い指揮官機と随伴機はオレがやる。他を相手しろ」

「「「了解」」」



 レーダーと目視から完全に消えているワイバーンMkⅦ オニキスは透明化されたライフルを敵に向けて発砲した。
 敵は完全にこちらに気づいておらず完全に側面から運動性の要である脚部を狙った。
 だが、その弾丸は弾かれた。



「バリア機能搭載型か……面倒な」



 今の一撃で敵もこちらが攻撃を仕掛けた事に気づいたようだ。
 だが、辺りをキョロキョロしている辺り完全に捕捉は出来ていないらしい。




「敵がこちらを捕捉する前に叩く」



 バリア機能搭載型だとしても弱点はある。
 局所的な攻撃負荷を受けるとシステムの一部が加熱され機能が低下する。
 この場合、一点射撃か接近武器による局所攻撃が有効となる。



「潰させて貰う」



 竜馬はライフルをマウントハンガーに格納し両腕に装備されたナックルガードを展開する。
 そのまま、指揮官機と思わしき赤い重装甲な機体に肉迫した。
 指揮官機は不意を突かれて竜馬の右ストレートを諸共に食らい、そのまま道路に叩きつけられる。



「このまま、行動不能に追い込む!」



 竜馬は倒れた指揮官機に肉迫し機体の速度を乗せて拳を機体に叩きつけて右脚を潰した。



「そらっ!そらっ!そらっ!」



 竜馬は素早く拳を左脚、右腕、左腕と叩きつけ、更にその衝撃を全体に伝播させ、スラスターも潰す。
 機体の赤い装甲の破片が飛ぶ。
 フレームから歪んだ機体は軋みを上げて、電装系が露出し火花を散らす。
 これで機体を動かしたくても動かない。



「ぬん!」



 竜馬は咄嗟に距離を取る。
 殆ど、直感だった。
 だが、その予感はあっており自分がさっきまでいた箇所に弾丸が横切った。
 すると、まるで指揮官機を庇うように随伴機が竜馬の前に立ちはだかり銃を乱射した。

 相手は竜馬の姿を見えていない。
 恐らく、さっきの攻撃も指揮官機が攻撃されている事で破片の飛び散り方などでなんとなく狙いをつけただけなのだろう。
 狙いが甘かった事からもそれが窺える。



「やはり、この敵は対人やステルス機慣れしていないな……」



 戦い方でなんとなく分かる。
 相手は対人戦での読み合いがまるで成っていない。
 指揮官ですらこの有様であり恐らく、今までの戦闘は機体性能や現代とは設計思想が違う兵器をぶつけた事で得られたアドバンテージで優位に働いていただけなのだろう。
 敵の動きからしてステルス機との戦闘経験がないと分かる。



「だが……悪くない腕だ。」



 対人とステルス戦が不得手である事を加味してもこの随伴機は初めてにしては良いセンスをしており要点を押さえている印象がある。
 才覚があるパイロットなのは窺える。



「だが……狙いがまるでなっていない!」



 竜馬は今度は随伴機に頭上から肉迫して頭部に拳を叩き込もうとした。
 敵の警戒範囲が平面的なので隙がある頭上から問答無用に拳を振り下ろす。
 だが……拳が当たる前に敵の機体は姿を消した。



「なに……」



 敵はまるで初めから存在しなかったように忽然と姿を消した。
 だが、存在しなかった訳ではない。
 下を見下ろすと破損した赤い装甲の破片が蒼い粒子となって消えかけていた。



「よく分からんが……ふん!」



 竜馬は目力を入れると粒子となって消えかけていた破片が元に戻った。
 この世界の粒子はWN粒子で出来ている。
 それを認識する事で初めて具現化し物や魔術と言う形で事象として顕現する。
 竜馬は認識が苦手な方ではあるが存在を失いかけた破片程度ならこの世界に存在する物として認識する程度には卓越していた。
 竜馬は破片を右手で拾い上げた。




「どれ……犯人の手がかりが分かれば良いが……」



 竜馬はワイバーンのセンサーでこの装甲材が何で出来ているか調べ始めた。
 もしかすると、装甲材や塗料などから足取りが掴めるかも知れないからだ。



「終わったか……どれ」



 竜馬は解析結果を見た。




「うん!こ、これは……いや、そんなはずは……」



 竜馬は我を疑った。
 解析結果にはレッドドラゴンの鱗と表示されていたからだ。
 それはNOの世界でしか取れない素材だ。
 悪い考えが過った。
 アーリアの中で裏切り者でもいるのではないか……と。



「いや、落ち着け……それはない筈だ」




 アーリアを裏切ると言うのはまず、考えられない。
 人間同士の裏切りとは違い、アーリアにおける裏切りの対価は死以上の意味を持つ。
 そもそも、裏切るメリットが全くないと言えるのだ。
 その可能性はすぐに忘却した。



「分からんな……とにかく、黄燐に連絡した方が良いな」



 竜馬は戦域にアメリカ空軍が接近するのを探知するとすぐに撤退の指示を出し戦域から退避した。
 その片手間で黄燐にこの件が伝わる事になる。
 これらの出来事は現実世界では1日すら経っていない間の出来事である。
 ただ、かの世界ではその1日の長さが長大なのである。
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