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岸田家の守護者

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 アレから1ヶ月の時が流れた。

 世界の情勢は大きく変わっていた。
 自由信仰同盟によるテロ行為が散発しインドでは国連からの脱退を表明しテロ支援国家に認定される等、様々起きた。
 その度にギデオンクラスターが出撃し武装集団を鎮圧したのは別の話だ。
 


 ◇◇◇



 駒澤高校 校舎裏



「急に呼んですいません」

「いえ、大丈夫です」



 そこには修也とカナがいた。
 ここには2人しかいない。
 修也の復讐は終わった。
 だからこそ、新たな1歩を自分に正直に打ち明ける時が来たと思った。
 1人でいる事が好きだった男がこんな気持ちを抱くなど前の修也なら考えられなかった。



「カナ……わたしと付き合ってくれませんか?」

「……はい。喜んで」




 もっと苦闘すると思ったがカナはあっさりと快諾した。



「ずっと待ってました」

「随分と待たせました」



 その場の流れ的に2人は抱擁を交わした。
 ただ、新たな繋がりが出来た矢先、災いが突然、訪れるようにその電話が入った。
 カナが電話を取る。
 それがある種の悲劇の始まりだった。
 それから紆余曲折あり白井修也は福岡に呼ばれていた。



 ◇◇◇



 岸田家



 40代でありながら20代くらいの外観をしたマナとカナの父である岸田 正敏は厳しそうな顔で白井修也を見つめていた。

 それと言うのも1ヶ月前の出来事が発端だ。
 正敏はニュースを見ていた。
 何でも日本に国連軍ができると言う注目度の高いニュースだった。
 そこまでだったらただの興味で終わっていたのだが、そこには彼にとって容認できない者が映っていた。
 なんと、2人の愛娘が組織の幹部として同席しているのだ。
 この件で親戚中がパニック状態になった。

 すぐさま、娘達に連絡を取ったが留守電で一切連絡できなかった。
 そして、最近になってようやく、通話が繋がった。
 一体、何があったのか?と聴いてみると「ゲームやった」→「実はゲームじゃなかった」→「人類の存亡に関わる。ついでにわたし達が最大戦力になった」→「アーリア社の社員になってGCとして活動」→「命がけの戦いを何度も経験」→「最近、ヤバい奴と戦ったり組織設立のごたごたで連絡取れなかった」→「今に至る(恋人できた)」と言うものだった。

 正敏としては100歩くらい譲ってGCになった事は攻めるつもりはなかった。
 反対する気持ちはある。
 娘が命がけの戦いに身を投じる等、親として気が気ではない。
 だが、GCの国際的な立ち位置をみれば、寧ろ誇らしくもあった。
 「うちの娘は世界の為に戦っているぞ!」と誇れる自慢の娘になっていた。

 ただ、どうしても許せん事があった。
 娘のカナになんと恋人ができたのだ。
 しかも、その男は上官であり既に子供を持っているというではないか。
 不純な男に見えなくもないがそんな事はどうでも良かった。
 いつの間にか娘の心にその男が居座っていたのが正直、気に入らないのだ。
 親バカカンストしている正敏にとって娘を奪ったそいつは害虫でしかない。
 心の中でナチュラルに「よし……殺そう」と思ったほどだ。
 そして、その男と対面している。
 こちらが顔に皺を寄せているにも関わらずその男、白井修也は淡々と茶を啜るだけで何も言わない。
 そして、その沈黙に耐えかねて正敏が口を開く。



「娘はやらん」

「断る」



 即答だった。
 「娘はやらん」と言う返答に対して「断る」と断言したのだ。



「娘さんは貰っていきます。あなたから奪うとしても……」



 修也は強い眼差しで見つめ返す。
 凄い変化球のような返答に本当に殺してやろうかと思ったがその眼光の鋭さに押される。
 その目には覚悟が据わった男の目があった。
 目を口ほどにモノを言うとはよく言うが本当にその通りだと思えた。
 強い意志があった。
 どんな強敵であっても必ず娘を守り抜くとすら確信させるだけの目をしていた。
 頭では理解できた。
 この男に任せても良いと……しかし、親としてどうしても一歩が踏み出せない。
 正敏は沈黙した。



「あなた、修也さんなら問題ないと思いますよ」



 そのように口添えしたのは妻の楓だった。
 楓も娘達を心配している気持ちは同じはずだった。
 だが、それでも彼女は修也を肯定した。



「娘をこのまま独り身にするのも可愛そうでしょう。それに修也さんは誠実そうですから、どこかで妥協すべきだと思います」

「しかし……」

「良いから決めなさい」

「あ、はい……」



 愛妻家でもある正敏は妻の提案をあっさりと呑んだ。



「そうだな……金治を倒せたら……」

「及第点?」

「うん。まぁ……」

「やったわね。カナ。あなたの伴侶ができる可能性が1%は増えたわ!」



 楓は本当に嬉しそうに微笑んだ。
 それを聴いた修也の目をギラついた。



「つまり、その金治なる者を倒せば認めると……」

「う、うん。そうだ。倒せるならな」

「ふん……なら、どんな手を使っても倒さねばなりませんね」



 修也は不敵に笑った。
 正敏は少し引いた。



 ◇◇◇



 岸田家 道場



 岸田家の実家は弟夫妻と一緒に住んでいる事もあり大きい。
 そして、その弟と言うのが岸田 金治であり何と自衛官で陸自の1佐だ。
 剣道等を7段まで体得しており自衛隊でもかなり強いと言われている。
 そんな男と修也は竹刀を持って対峙していた。



「……」

「……」



 金治も修也も沈黙していた。
 互いに思った。

 隙が無い。

(流石、剣道7段……簡単には隙をみせませんか)

(くっこの男……剣道家と言うより剣士に近い型をしやがって、実戦型か!)



 剣道家と剣士では似ているようで違う。
 剣道はあくまでスポーツの範疇を出ないが剣士は本当に殺す事に特化している。
 畑違い同士がぶつかると僅かに戸惑い、拮抗が生まれる。
 しかし、このままでは行かないので修也が先に動いた。

 身体能力をフルに活かして金治の目の前に肉迫し突きを放つ。
 金治はそれを竹刀の刀身でガードした。
 だが、修也の突きが早過ぎた事もあり金治の竹刀は砕け、突きが胸部に当たる。
 体を貫くような衝撃に金治は思わず膝をついた。



「参った。降参だ」



 金治は敗北を宣言した。
 そして、胸を押さえるようにゆっくりと立ち上がった。
 修也はそっと近づくと回復魔術“ヒール”をかけて相手を治療した。
 金治の痛みは嘘のように消えた。



「なるほど……GCのシュウは伊達ではないようだな」

「そのように言って貰えたなら勝った甲斐がありますよ」

「さっきの剣は見事だった。僅かな結び合いだったが数年分の鍛錬に勝るものがあったぞ」

「わたし等、剣士としてまだまだですよ。少なくとも彼女には勝てませんしね」



 そう言って修也は道場の戸口でこちらを見つめるリリーシャを見た。
 リリーシャも修也の護衛としてこの家に来ている。
 一応、近くで修也を護衛し話には一切介入していない。



「ほう……彼女が噂の剣の女神か。手合わせ……してみたいが本物を見ると、とても勝てる気がしないな」

「それが分かるだけでもあなたは十分強いです」



 修也と金治は互いに健闘を讃えた。
 すると、正敏が近付いた。



「修也君」

「はい」

「次に暇な時があったら、食事でもしようではないか」



 それだけを言い残し彼は道場を去った。
 不承不承ではあるが認めてくれたと言う事だろう。
 本来はこの後でも食事をすべきなのだろうが未だGCの雑務が残っている中で無理をして来たのだ。
 そろそろ、戻らないとならない。



「まずは一歩……踏み出せましたか」



 この結果に満足しながら修也は転移で用賀駐屯地に戻った。
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