5 / 75
第一章 世界の終わり、世界の始まり
名付け2
しおりを挟む
――耳の良い男神の場合――
「…………」
「…………」
「「?」」
一人の男神と少年以外の全員がその二人の行動に首を傾げた。何かしていることは分かるが、何をしているのかが全く分からなかったからだ。
男神の方は少年に創造され、衣服を着用した後はずっと部屋の隅の方で耳を塞いで座っていたのだが、少年がそんな男神に歩み寄り何かを察知すると今の状況が出来上がったのだ。
僅かに二人の口が開いていたので会話をしているということは神々にも判断できたが、あまりに小さい声でその内容を聞き取ることはできなかった。
その男神は身長約一七〇センチで健康的な体格をしていた。胸の部分まで伸びた長髪は水色で、センターで分けた前髪も十分に長いものだった。
男神は神父が着るような純白のカトリックに身を包んでおり、その端正な顔立ちからも清廉さが滲み出ている容姿だった。
全体的に色素の薄い男神だったが、ただ一点、その瞳だけが少年と同じ日本人のような純黒だった。
『君、耳が良すぎるんだね。良すぎるから、普通の音がとてもうるさく感じてしまう。今の僕の声なら大丈夫?』
『はい。お手間を取らせてしまい、申し訳ありません。能力とも言っていいこの聴覚を私はコントロールすることが出来ないんです』
少年はこの男神の超聴覚に気づき、常人では聞き取れないような、常人では発することが出来ないほど小さな声で男神に話しかけたのだ。
『今から僕が君の能力をコントロールできるようにするのは簡単だ。でもそれじゃあ僕の力に依存することになる。僕は君たちに出来うることは君たちにやって欲しい。だから君がその聴覚を制御できるまでは、これをあげる』
『これは?』
少年が男神に手渡したのはヘッドホンのようなものだった。黒を基調とし、所々に水色があしらわれたまさにこの男神のためのヘッドホンだったが、もちろん音楽を聴くためのものでは無い。
『これは君の聞こえすぎる耳を常人レベルにまで下げることが出来る道具だよ。今創った』
『!……ありがとうございます』
男神は少年からヘッドホンを受け取ると、感激したような声でお礼を言った。
少年になら男神が自分自身の力で超聴覚を制御できるようにすることができる。だが少年は自分の力で子供である神々の成長を阻むことをしたくはなかったのだ。
少年は創造主になった時から決めていた。この絶対的な力は、家族を守るために使うのだと。
少年が神々のために何でもかんでも力を与えることは、守ることとイコールではない。だからこそ、少年は応急処置としてその道具を男神に手渡したのだ。
男神はヘッドフォンを耳につけると驚きと感激で目を見開いた。先刻まで聞こえていた生物の呼吸音、心臓の音、誰かが僅かに動いた音……その全てが全く気にならないほど聞こえなくなったからだ。
「すごい……」
普通の音量でしゃべっても自分の声がうるさいと感じることがなかった。この異様な変化に男神は驚きを隠せずただ呆然としてしまった。
「じゃあ男神くんの名前はリンファン……でいいかな?」
「はい。一刻も早く、この能力を制御してみせます」
勢いよく立ち上がり笑顔で男神の名前を呼んだ少年に、男神――リンファンは跪き頭を下げると、少年への忠誠を誓った。
――双子の神の場合――
「可愛い……って、僕ってばさっきからこれしか言ってない気がする」
((確かに……))
少年の意見に神々は心の中で同調した。心の声を聞くことのできる少年からすれば、口に出そうが思っていようがどちらも聞こえるので違いはさしてない。それが本心か上辺のものかという違いがあるだけで。
少年がまたしても心を奪われたのは子供の容姿をした二人の神だった。
身長約一二〇センチと二人とも小学生ほどしかない背丈の男神と女神で、よく似た顔はまるで双子の様な神だった。
男神と女神は二人ともクリーム色のふわふわとした髪をショートカットにしていて、髪型で唯一違ったのは男神の前髪は左分けで、女神の方は右分けという点だけだ。
この二人の容姿で異なる点はもう一つ。それは目だ。二人は互いに隻眼で片目を眼帯で隠していたのだが、その左右が逆だったのだ。
男神の方は左目が、女神は右目がそれぞれ機能しておらず、その代わりに見えている方の赤い目はすさまじい視力を持っているのだ。
男神はシンプルな白のシャツにチェック模様のついた茶色のサスペンダー付きショートパンツをはいていて、子供の容姿にぴったりの格好をしている。
女神も男神とほぼ同じ格好をしていたが、ショートパンツの部分がショートスカートになっていて、女の子らしさが出ていた。
そして二人とも脛の部分まで長さがある白い靴下に黒いローファーを履いていた。
そんな可愛らしい容姿の二人が仲良く手を繋いでいるという状況で、更に愛らしさが増した二人を見て、少年は先刻の言葉を漏らしたのだった。
「創造主様は千歳や武尽に対しても可愛いと仰っていたので、我々とものの捉え方が違うのかと思いましたが、あの二人に関しては同意見と言わざるを得ませんね」
ハクヲの意見に他の神々も同調するように頷いた。それ程までに二人の神の容姿は可愛らしく、庇護欲を掻き立てるものだったのだ。
特にかわいいもの好きのデグネフは、二人のあまりの可愛さにプルプルと震えながら口元を抑えており、その感情を周りの神々に読まれまいとしていた。
「そうかぁ?吾輩はガキが嫌いだからな、どうも分からん」
「確かにあの二人の神は容姿こそ子供ですが、年は私たちと同じですよ」
「吾輩、形から入るタイプだからな」
「何ですかそれ」
二人の神に対する評価に難色を示したのは武尽だった。そんな武尽に正論をぶつけたデグネフに、武尽は苦しい言い訳しかできていなかった。
最も武尽は子供が嫌いというよりも、あの二人の神と自分が少年の目には同じ〝可愛い〟という印象に映っているという事実から目を逸らしたかっただけなので、本心からの言葉ではないのだ。
「君たちそっくりだね」
「僕たちは前世で双子だったんです」
「そ、そうなんです……」
少年が屈んで二人の神に話しかけると、男神の方がはきはきと応答した。一方の女神は恥ずかしがるように男神の背中に隠れると、細々とした声で答えた。この少しの会話だけで二人の関係性や性格がはっきり分かり、少年は思わず破顔してしまった。
「へぇ、前世の記憶があるのか……珍しいね。僕とおそろいだ」
「おそろい……ですか?」
「うん。まぁ僕の場合は創造主だから前世っていうのとは少し違うのかもしれないけど」
基本的に輪廻転生に従って生まれ変わった魂というのは前世の記憶を無くす。だが極稀に前世の記憶を持っていたり、何かのきっかけで前世のことを思い出す魂が存在する。
それがこの双子の神だった。
創造主である少年の場合は人間として死んだ後、その意識を保ったまま創造主となり、身体を創ったので輪廻転生とは少し違うのだが、少年の人間だった頃は前世といっていいものなのだ。
少年の言葉に可愛らしく小首を傾げた男神の姿に、少年は思わず笑みを零した。
「じゃあ前世の君たちは余程の善行を積んだんだろうね」
「いえ、そんな褒められるほどでは……」
明らかな謙遜だった。理由は簡単、そうでなければ神になどなれないからである。
神という生物は創造主である少年が厳選した善良な魂から選ばれ誕生する。前世で積み重ねてきた善行の褒美として神に生まれ変わり、特別な力が与えられるのだ。
だからこそ前世の記憶を持つ男神のこの言葉は謙遜以外の何物でもなかった。
「前世……?」
少年と男神の会話で交わされた〝前世〟という単語に反応したのは祈世だった。大きく目を見開き、ポカンと口を開けたその表情は、まるで何か大事なことを思い出せそうな、そんな不安定なものに見えた。
「祈世、どうかした?」
「……あっ、いえ……何でも、ありません」
祈世の様子がおかしいことを瞬時に感じ取った少年は心配そうに尋ねた。だが少年の質問に祈世は適切な答えを出すことが出来ず、言葉を濁すことしかできなかった。
祈世にも分からなかったのだ。この奇妙な感覚が何なのか、自分は何をこんなにも不安に感じているのか。どうして前世という単語に酷く反応したのか。
「前世が双子だったなら……男神くんがカルマ、女神ちゃんがカルナ、でいいかな?」
「「はい」」
少年の問いかけに男神――カルマははっきりと、女神――カルナは細々とした声で返事をした。少年は二人の可愛らしさに微笑みつつも、先刻の祈世の様子の変化が気になり真剣な表情に戻った。
だがいくら祈世の心を読もうが、本人にも正体が掴めない、得体の知れない不安を拭うことは流石の少年でもできないので、少年はこの件を保留にすることにした。
その時の少年は、そして祈世は知らなかったのだ。この不安の正体が、後にどんな事態を招くのかを。
「はいはーい!デグネフ、祈世、武尽、ハクヲ、千歳、静由、クラン、リンファン、カルマ、カルナ。全員ちゅうもーく!」
全員の神の名付けを終えたところで、少年は教壇のようなものの上でジャンプすると、同時に片手を勢いよくあげて神々たちに号令をかけた。それにより、先刻まで爆睡していた静由も流石に目を覚まし、少年の方へ歩み寄った。
「えー、これからのとりあえずの目標というか、やるべきことを発表しまーす」
少年は創造主としてこれからすべきこと、そして神々がすべきことを明確にするために神々を呼んだのだ。少年は創造主として生まれた瞬間から、自分のすべき使命というものを直感的に理解した為、それを神々に伝えたかったのだ。
それに加え、創造主としてではなく、少年自身が行いたいこともあったので、その旨を神々に説明しようと考えたのだ。
「まず一つ、世界を創造すること。まぁこれは僕の仕事だね。世界と神の創造は創造主にしかできないことだから。そして二つ、その世界を管理すること。これは皆の仕事だ。僕がこれから創造する五つの世界をみんなには二人一組になって管理して欲しいと思ってる」
「二人一組?」
世界の創造、そしてその管理。これが少年が創造主としてすべき絶対項目だった。逆に言えばそれ以外は特に何もしなくてよいのだ。不測の事態でもない限り。
世界の創造と違い、世界の管理は神々の仕事だ。創造主にしかできないことは少年がやり、それ以外は神の仕事というのが暗黙の了解で、それについては誰も疑問を呈さなかった。
だが少年が発した〝二人一組〟という単語に武尽は不満気な声を上げた。
「おやおや、何か不満かね?武尽くん」
「何で一〇の世界を創って一人に担当させないんだ?吾輩たち一人一人じゃ不満ってことか?」
教壇に乗っているからか、少年は教師のような口調で武尽に問いかけた。武尽は世界の管理が神である自分たちでも手に余る事項であると少年が考えているのではないかと思い、それを危惧したのだ。
超人的な力を有する神々の中でも武尽は最強武神にふさわしい戦闘力を持つ鬼神だ。だがそんな武尽にも敵わない存在がいる。それこそが唯一無二の創造主だ。
武尽にとっての絶対的強者である創造主に認められるか否かという問題は、武尽の中でかなり重要視されるもので、少年が自分のことを一人前だと認識していないということになると、武尽にはかなりショックなことなのだ。
「違う違う。もう、武尽ってば拗ねないでよ」
「す、拗ねてねぇよ」
少年が武尽を宥めると、武尽は異論ありげに慌てて否定した。
「いい?世界の管理は非常にデリケートな問題なんだ。神がむやみにその力を世界に住まう生物のために使うのはマナー違反だし、かといって何もせず放っておくわけにもいかない。その絶妙な距離感を保たないといけない。だからこそ、二人一組になって行動することで、自分のことを必ず客観視してくれる相手が常にいてくれる状況が生まれるんだ。分かる?」
神はむやみに世界に住まう生物に干渉してはいけない。理由は簡単、人間が神の力に依存してしまうからだ。
例え世界で非常事態、例えば戦争が起きても神はその力で戦争を収めることを基本的にしてはいけない。一度そんなことをすれば、人間は神の力に頼り、依存し、堕落していく。
そうすれば戦争など起きなくても、その世界は終わったも同然になってしまうのだ。だから神は生物のために力を振るうことはほとんどない。
そして、神々が行う世界の管理は非常に曖昧なもので、これといった絶対的な手本が無いのだ。だから時には神が世界との距離感を間違えてしまうことがあるかもしれない。そんな時にそれを指摘してくれるパートナーがいた方が少年は安心だったのだ。
「……理解した」
「物分かりが良くて助かるよ。武尽は何だかんだでいい子だね」
「うるせぇ……つか手ぇどけろ」
少年は教壇+背伸びで武尽の頭まで手を伸ばすと、いい子いい子と宥めるようにその頭を撫でた。完全に少年から子ども扱いをされていることに腹を立てた武尽はその手を払うと、若干赤くなった顔で少年を睨みつけた。
またもや少年に対して不躾な態度をとった武尽にデグネフは射殺さんばかりの眼光を向けたが、武尽にダメージは全くなかった。
「えーっと、世界の創造の他にすべきこと……というか僕が個人的に調べたいことがあるんだけど、聞いてくれるかな?」
「何ですか?」
これから絶対的に行わなければならないことが世界の創造と管理なら、必要に迫られるわけでは無いが少年が個人的にやりたいことがこれから話す事案だった。
流石に少年の考えを読むことはできない為、神々はそれぞれ首を傾げ、カルマは疑問の声を上げた。
「僕は、以前の創造主について調べたいと思っているんだ」
「…………」
「…………」
「「?」」
一人の男神と少年以外の全員がその二人の行動に首を傾げた。何かしていることは分かるが、何をしているのかが全く分からなかったからだ。
男神の方は少年に創造され、衣服を着用した後はずっと部屋の隅の方で耳を塞いで座っていたのだが、少年がそんな男神に歩み寄り何かを察知すると今の状況が出来上がったのだ。
僅かに二人の口が開いていたので会話をしているということは神々にも判断できたが、あまりに小さい声でその内容を聞き取ることはできなかった。
その男神は身長約一七〇センチで健康的な体格をしていた。胸の部分まで伸びた長髪は水色で、センターで分けた前髪も十分に長いものだった。
男神は神父が着るような純白のカトリックに身を包んでおり、その端正な顔立ちからも清廉さが滲み出ている容姿だった。
全体的に色素の薄い男神だったが、ただ一点、その瞳だけが少年と同じ日本人のような純黒だった。
『君、耳が良すぎるんだね。良すぎるから、普通の音がとてもうるさく感じてしまう。今の僕の声なら大丈夫?』
『はい。お手間を取らせてしまい、申し訳ありません。能力とも言っていいこの聴覚を私はコントロールすることが出来ないんです』
少年はこの男神の超聴覚に気づき、常人では聞き取れないような、常人では発することが出来ないほど小さな声で男神に話しかけたのだ。
『今から僕が君の能力をコントロールできるようにするのは簡単だ。でもそれじゃあ僕の力に依存することになる。僕は君たちに出来うることは君たちにやって欲しい。だから君がその聴覚を制御できるまでは、これをあげる』
『これは?』
少年が男神に手渡したのはヘッドホンのようなものだった。黒を基調とし、所々に水色があしらわれたまさにこの男神のためのヘッドホンだったが、もちろん音楽を聴くためのものでは無い。
『これは君の聞こえすぎる耳を常人レベルにまで下げることが出来る道具だよ。今創った』
『!……ありがとうございます』
男神は少年からヘッドホンを受け取ると、感激したような声でお礼を言った。
少年になら男神が自分自身の力で超聴覚を制御できるようにすることができる。だが少年は自分の力で子供である神々の成長を阻むことをしたくはなかったのだ。
少年は創造主になった時から決めていた。この絶対的な力は、家族を守るために使うのだと。
少年が神々のために何でもかんでも力を与えることは、守ることとイコールではない。だからこそ、少年は応急処置としてその道具を男神に手渡したのだ。
男神はヘッドフォンを耳につけると驚きと感激で目を見開いた。先刻まで聞こえていた生物の呼吸音、心臓の音、誰かが僅かに動いた音……その全てが全く気にならないほど聞こえなくなったからだ。
「すごい……」
普通の音量でしゃべっても自分の声がうるさいと感じることがなかった。この異様な変化に男神は驚きを隠せずただ呆然としてしまった。
「じゃあ男神くんの名前はリンファン……でいいかな?」
「はい。一刻も早く、この能力を制御してみせます」
勢いよく立ち上がり笑顔で男神の名前を呼んだ少年に、男神――リンファンは跪き頭を下げると、少年への忠誠を誓った。
――双子の神の場合――
「可愛い……って、僕ってばさっきからこれしか言ってない気がする」
((確かに……))
少年の意見に神々は心の中で同調した。心の声を聞くことのできる少年からすれば、口に出そうが思っていようがどちらも聞こえるので違いはさしてない。それが本心か上辺のものかという違いがあるだけで。
少年がまたしても心を奪われたのは子供の容姿をした二人の神だった。
身長約一二〇センチと二人とも小学生ほどしかない背丈の男神と女神で、よく似た顔はまるで双子の様な神だった。
男神と女神は二人ともクリーム色のふわふわとした髪をショートカットにしていて、髪型で唯一違ったのは男神の前髪は左分けで、女神の方は右分けという点だけだ。
この二人の容姿で異なる点はもう一つ。それは目だ。二人は互いに隻眼で片目を眼帯で隠していたのだが、その左右が逆だったのだ。
男神の方は左目が、女神は右目がそれぞれ機能しておらず、その代わりに見えている方の赤い目はすさまじい視力を持っているのだ。
男神はシンプルな白のシャツにチェック模様のついた茶色のサスペンダー付きショートパンツをはいていて、子供の容姿にぴったりの格好をしている。
女神も男神とほぼ同じ格好をしていたが、ショートパンツの部分がショートスカートになっていて、女の子らしさが出ていた。
そして二人とも脛の部分まで長さがある白い靴下に黒いローファーを履いていた。
そんな可愛らしい容姿の二人が仲良く手を繋いでいるという状況で、更に愛らしさが増した二人を見て、少年は先刻の言葉を漏らしたのだった。
「創造主様は千歳や武尽に対しても可愛いと仰っていたので、我々とものの捉え方が違うのかと思いましたが、あの二人に関しては同意見と言わざるを得ませんね」
ハクヲの意見に他の神々も同調するように頷いた。それ程までに二人の神の容姿は可愛らしく、庇護欲を掻き立てるものだったのだ。
特にかわいいもの好きのデグネフは、二人のあまりの可愛さにプルプルと震えながら口元を抑えており、その感情を周りの神々に読まれまいとしていた。
「そうかぁ?吾輩はガキが嫌いだからな、どうも分からん」
「確かにあの二人の神は容姿こそ子供ですが、年は私たちと同じですよ」
「吾輩、形から入るタイプだからな」
「何ですかそれ」
二人の神に対する評価に難色を示したのは武尽だった。そんな武尽に正論をぶつけたデグネフに、武尽は苦しい言い訳しかできていなかった。
最も武尽は子供が嫌いというよりも、あの二人の神と自分が少年の目には同じ〝可愛い〟という印象に映っているという事実から目を逸らしたかっただけなので、本心からの言葉ではないのだ。
「君たちそっくりだね」
「僕たちは前世で双子だったんです」
「そ、そうなんです……」
少年が屈んで二人の神に話しかけると、男神の方がはきはきと応答した。一方の女神は恥ずかしがるように男神の背中に隠れると、細々とした声で答えた。この少しの会話だけで二人の関係性や性格がはっきり分かり、少年は思わず破顔してしまった。
「へぇ、前世の記憶があるのか……珍しいね。僕とおそろいだ」
「おそろい……ですか?」
「うん。まぁ僕の場合は創造主だから前世っていうのとは少し違うのかもしれないけど」
基本的に輪廻転生に従って生まれ変わった魂というのは前世の記憶を無くす。だが極稀に前世の記憶を持っていたり、何かのきっかけで前世のことを思い出す魂が存在する。
それがこの双子の神だった。
創造主である少年の場合は人間として死んだ後、その意識を保ったまま創造主となり、身体を創ったので輪廻転生とは少し違うのだが、少年の人間だった頃は前世といっていいものなのだ。
少年の言葉に可愛らしく小首を傾げた男神の姿に、少年は思わず笑みを零した。
「じゃあ前世の君たちは余程の善行を積んだんだろうね」
「いえ、そんな褒められるほどでは……」
明らかな謙遜だった。理由は簡単、そうでなければ神になどなれないからである。
神という生物は創造主である少年が厳選した善良な魂から選ばれ誕生する。前世で積み重ねてきた善行の褒美として神に生まれ変わり、特別な力が与えられるのだ。
だからこそ前世の記憶を持つ男神のこの言葉は謙遜以外の何物でもなかった。
「前世……?」
少年と男神の会話で交わされた〝前世〟という単語に反応したのは祈世だった。大きく目を見開き、ポカンと口を開けたその表情は、まるで何か大事なことを思い出せそうな、そんな不安定なものに見えた。
「祈世、どうかした?」
「……あっ、いえ……何でも、ありません」
祈世の様子がおかしいことを瞬時に感じ取った少年は心配そうに尋ねた。だが少年の質問に祈世は適切な答えを出すことが出来ず、言葉を濁すことしかできなかった。
祈世にも分からなかったのだ。この奇妙な感覚が何なのか、自分は何をこんなにも不安に感じているのか。どうして前世という単語に酷く反応したのか。
「前世が双子だったなら……男神くんがカルマ、女神ちゃんがカルナ、でいいかな?」
「「はい」」
少年の問いかけに男神――カルマははっきりと、女神――カルナは細々とした声で返事をした。少年は二人の可愛らしさに微笑みつつも、先刻の祈世の様子の変化が気になり真剣な表情に戻った。
だがいくら祈世の心を読もうが、本人にも正体が掴めない、得体の知れない不安を拭うことは流石の少年でもできないので、少年はこの件を保留にすることにした。
その時の少年は、そして祈世は知らなかったのだ。この不安の正体が、後にどんな事態を招くのかを。
「はいはーい!デグネフ、祈世、武尽、ハクヲ、千歳、静由、クラン、リンファン、カルマ、カルナ。全員ちゅうもーく!」
全員の神の名付けを終えたところで、少年は教壇のようなものの上でジャンプすると、同時に片手を勢いよくあげて神々たちに号令をかけた。それにより、先刻まで爆睡していた静由も流石に目を覚まし、少年の方へ歩み寄った。
「えー、これからのとりあえずの目標というか、やるべきことを発表しまーす」
少年は創造主としてこれからすべきこと、そして神々がすべきことを明確にするために神々を呼んだのだ。少年は創造主として生まれた瞬間から、自分のすべき使命というものを直感的に理解した為、それを神々に伝えたかったのだ。
それに加え、創造主としてではなく、少年自身が行いたいこともあったので、その旨を神々に説明しようと考えたのだ。
「まず一つ、世界を創造すること。まぁこれは僕の仕事だね。世界と神の創造は創造主にしかできないことだから。そして二つ、その世界を管理すること。これは皆の仕事だ。僕がこれから創造する五つの世界をみんなには二人一組になって管理して欲しいと思ってる」
「二人一組?」
世界の創造、そしてその管理。これが少年が創造主としてすべき絶対項目だった。逆に言えばそれ以外は特に何もしなくてよいのだ。不測の事態でもない限り。
世界の創造と違い、世界の管理は神々の仕事だ。創造主にしかできないことは少年がやり、それ以外は神の仕事というのが暗黙の了解で、それについては誰も疑問を呈さなかった。
だが少年が発した〝二人一組〟という単語に武尽は不満気な声を上げた。
「おやおや、何か不満かね?武尽くん」
「何で一〇の世界を創って一人に担当させないんだ?吾輩たち一人一人じゃ不満ってことか?」
教壇に乗っているからか、少年は教師のような口調で武尽に問いかけた。武尽は世界の管理が神である自分たちでも手に余る事項であると少年が考えているのではないかと思い、それを危惧したのだ。
超人的な力を有する神々の中でも武尽は最強武神にふさわしい戦闘力を持つ鬼神だ。だがそんな武尽にも敵わない存在がいる。それこそが唯一無二の創造主だ。
武尽にとっての絶対的強者である創造主に認められるか否かという問題は、武尽の中でかなり重要視されるもので、少年が自分のことを一人前だと認識していないということになると、武尽にはかなりショックなことなのだ。
「違う違う。もう、武尽ってば拗ねないでよ」
「す、拗ねてねぇよ」
少年が武尽を宥めると、武尽は異論ありげに慌てて否定した。
「いい?世界の管理は非常にデリケートな問題なんだ。神がむやみにその力を世界に住まう生物のために使うのはマナー違反だし、かといって何もせず放っておくわけにもいかない。その絶妙な距離感を保たないといけない。だからこそ、二人一組になって行動することで、自分のことを必ず客観視してくれる相手が常にいてくれる状況が生まれるんだ。分かる?」
神はむやみに世界に住まう生物に干渉してはいけない。理由は簡単、人間が神の力に依存してしまうからだ。
例え世界で非常事態、例えば戦争が起きても神はその力で戦争を収めることを基本的にしてはいけない。一度そんなことをすれば、人間は神の力に頼り、依存し、堕落していく。
そうすれば戦争など起きなくても、その世界は終わったも同然になってしまうのだ。だから神は生物のために力を振るうことはほとんどない。
そして、神々が行う世界の管理は非常に曖昧なもので、これといった絶対的な手本が無いのだ。だから時には神が世界との距離感を間違えてしまうことがあるかもしれない。そんな時にそれを指摘してくれるパートナーがいた方が少年は安心だったのだ。
「……理解した」
「物分かりが良くて助かるよ。武尽は何だかんだでいい子だね」
「うるせぇ……つか手ぇどけろ」
少年は教壇+背伸びで武尽の頭まで手を伸ばすと、いい子いい子と宥めるようにその頭を撫でた。完全に少年から子ども扱いをされていることに腹を立てた武尽はその手を払うと、若干赤くなった顔で少年を睨みつけた。
またもや少年に対して不躾な態度をとった武尽にデグネフは射殺さんばかりの眼光を向けたが、武尽にダメージは全くなかった。
「えーっと、世界の創造の他にすべきこと……というか僕が個人的に調べたいことがあるんだけど、聞いてくれるかな?」
「何ですか?」
これから絶対的に行わなければならないことが世界の創造と管理なら、必要に迫られるわけでは無いが少年が個人的にやりたいことがこれから話す事案だった。
流石に少年の考えを読むことはできない為、神々はそれぞれ首を傾げ、カルマは疑問の声を上げた。
「僕は、以前の創造主について調べたいと思っているんだ」
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~
とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。
先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。
龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。
魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。
バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる