さよなら世界、ようこそ世界

乱 江梨

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第一章 世界の終わり、世界の始まり

世界の異変

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 「ど、どうなっているんだ!」



 一〇〇年以上続く人間の国と他種族たちの国の間で起きている大規模な戦争の最中、それは起こった。



 突如空から降ってきた超大規模な攻撃魔法のようなもので、人間も他種族も動物でさえも大半が塵と化していったのだ。



 その攻撃は半径十メートルほどの範囲にいる者を瞬殺できる威力を持っており、それが一気に何発も撃ち込まれたのだ。



 音もしないその攻撃は神々しい金色の光と共に現れかと思うと、一瞬のうちに姿を消した。



 炎乱の者たちは一体何が起きたのか、それを考えることもできない程呆けてしまい、どこからか大声で疑問の声を上げた者がいなければ、しばらくその状態が続いていただろう。



「あの攻撃は魔国の仕業か?……だがあんな大魔法の使い手がいただろうか?」

「国王!魔国に潜入していた兵士によると、魔国側にもこちらと同じような大魔法の攻撃があり、多くの兵士が死亡したようです!」

「何だと!?」



 人間が治める国――采国さいこくの国王は、配下の者からの報告に驚きの声を上げた。采国だけでなく、敵側の魔国にも同じ攻撃があったのならば、これが一体誰の仕業なのかが不可解だからである。



 魔国というのは魔導連邦国の略称でエルフや魔人といった、魔法の力を有する種族が治めている采国の永遠の敵とも呼べる国である。



「どういうことだ……この炎乱が神の怒りに触れたとでも言うのか?」



 国王は国の大半の人間が一瞬にして消失した事実に愕然とし、くうを見つめるとそう呟くことしかできなかった。

















 一方その頃その神は国王程では無いものの、今の状況についていけてはいなかった。



「どうなってんだよこれ。訳分かんねぇ」

「これ程威力のある魔法だからね。目的は分からないけど相当な実力者の仕業か、あるいは…………」



 少年はそこまで言うと口を閉ざした。武尽たちは少年が何を言いかけたのか疑問に思ったが、それを追求することは無かった。



「うーん……まぁ僕なりに調べてみるよ。武尽たちもよろしくね」

「創造主はどうやって調べるの?」



 炎乱で起こった異常事態を調べようにも、少年や神々にできるのは液晶パネルを観察することだけだと静由は思っていた。だから別行動を提案しているようにも聞こえる少年の言葉に、静由は疑問を呈したのだ。



「ん?とりあえず炎乱に行ってみようかなと」

「は!?」



 少年の突拍子もない発言に武尽は声を荒らげ、普段無表情をキープしている静由でさえも少し表情に驚きの色を見せた。



 二人がそんな反応を見せるのも無理はなかった。何故なら少年が世界を創造してから約五〇〇年。ただの一度も少年が下界に降りたことは無かったのだから。



 それだけではない。神々という生き物は人間に過度な祝福を与えることを禁じられている。にも拘らず、神々の更に上の実力を持った創造主が下界に降りるということが許されるものなのかという疑問もあり、二人は困惑してしまったのだ。



「んなことしてもいいのかよ?」

「へ?あぁ、まぁいいんじゃないの?」

「適当だな……」



 少年の覚束ない態度に武尽は苦笑いを零すしかなかった。基本的に少年の発言は世界のルールにもなるので問題はないのだが、それにしても創造主が下界に降りることで起こる事態を想像しきれない武尽は不安を拭うことなどできないのだ。



「大丈夫、大丈夫!無闇に人の願いを聞いたりしないし、少し様子を見てくるだけだから」

「ならいいけどよ」

「ふふっ……やっぱり武尽はいい子だね、えらいえらい」



 ぶっきらぼうに返事をした武尽だったが、少年は武尽が自分を本心では心配してくれていることに気づいていたので、嬉しそうにふんわりとはにかむと武尽の頭を撫でてやった。



 以前ならすぐに怒ってその手を振り払った武尽だったが、最近では拒否するのも面倒臭くなったのか不満そうな表情を浮かべるだけになっていた。



「それじゃ、いってきまーす!」

「は、もう行くの…………」



 少年は満面の笑みで敬礼すると出発の挨拶をした。まさか今この瞬間に下界に降りるとは思ってもおらず、武尽が呆気にとられているとそこには既に少年の姿はなかった。



「いってらっしゃい……」

「はぁ…………」



 静由はもういない少年に向かって挨拶の返事をした。一方の武尽は自分よりも自由奔放な少年に振り回され、その上隣には少年といい勝負をするであろうマイペース男神の静由しかいないという現状に、小さなため息を漏らすことしかできなかった。





















 少年は下界に降りてからすぐさま自分のオーラを完全に抑え込んだ。そうしないと普通の人間は少年の姿を目にしただけで死んでしまうからだ。



 高貴な人間ほどその尊顔を窺うのは無礼であると考えられているが、創造主である少年の場合は本来物理的に見ることが不可能なのだ。



 少年の持つ本来のオーラというものは誰しもが畏怖するもので、それは神々も同様だ。だがその度合いとなると話が別になってくる。



 普通の魂を持つ生物はそのオーラを纏った少年の姿をまともに見ることもできずに死んでしまう。同じ生物でも、来世神になれるほど純真な魂を持つ者ならば、恐れはしてもその姿を見ることが出来るし、死ぬこともない。



 そして神々は畏怖こそするものの、少年のオーラに対する恐怖で動けなくなったりすることは無い……というか、もはや慣れの境地なのだ。



 初めは神々の前でもオーラを隠していた少年だったが、今ではそうすることもなく普通に過ごすことが出来ている。



 そんな感じで少年の持つ存在感は生物を簡単に殺してしまうので、無駄な死人を出さないためにも少年は自分のオーラを封じ込める必要があったのだ。







 オーラを隠したことにより顔の紋章が消えた少年が降りた先は、炎乱の大規模な戦争が行われている戦場に近い森の中だった。そこには愛らしい動物しかおらず少年は笑みを零したが、遠くから聞こえる物騒極まりない音でその表情も元に戻った。



 少年が下界に降りてまで、あの攻撃のことを調べようと思ったのには訳があった。



 少年には予感があったのだ。最も当たって欲しくない予感が。



 それはあの攻撃が少年の愛する神の内の誰かの仕業ではないかというものだった。



 少年が誰よりも信用している神々に対してそんな疑念を抱くのには、それ相応の理由があった。その理由は大きく分けて二つ。



 一つ目はそれ程までにあの魔法攻撃が強大だったこと。あれ程までの魔法を行使することが出来る者など、今現在存在する五つの世界の住人全てを入れても数えるほどしかいない。その数えるほどしかいない者を除けば、あとは神以上の存在でしか不可能な攻撃なのだ。



 二つ目は攻撃が降ってきた位置。あの攻撃が上空、もしくはそれよりも遥か上から降ってきたように少年には見えたのだ。だから少年は思った。あの魔法は攻撃者が空から放ったのではなく、どこか別の場所にいた攻撃者が魔法だけ上空から放たれるように操作したのではないかと。



 そう、何かしらの理由があって直接攻撃しに行けなかった誰かが仕方なくそうしたのではないかと。



 この二つから、少年は最悪の状況も視野に入れつつ、あの攻撃の謎を調べることにしたのだ。





 少年が森をしばらく歩いていると旅人らしき一人の男の姿が目に入った。その男は高身長でひょろっとした、静由に似た体形で大した防具もつけずに戦場が近いこの森を歩いていた。



 だが少年にはその男がそこら辺の兵士の何倍も実践に長けていて、力のある者だということが即座に分かった。ただの人間だったので魔力量で力を量ることが出来ない以上、その実力を見抜くのは少年だからできる芸当だ。



 男は腰に拳銃を何丁もぶら下げていた為、少年はこの男が拳銃の達人なのだろうと予想をつけた。



 少年が男の方に歩み寄ろうとすると、男も少年の存在に気づいたようで距離を縮めてきた。男の目には少年がただの子供に映っているのだが、もしも少年の正体を知ったら男は卒倒することだろう。



 もっとも、神の存在の是非があやふやなこの世界で、創造主という存在を理解できるかどうかはまた別の問題なのだが。



「お嬢ちゃん、ここは危険だから今すぐこの森から出ていけ」



 男は大いなる勘違いをしていたが、少年はその間違いを正す前に男の言葉に対する返答をすることにした。



「心配しなくても、この場所に長居するつもりはないから大丈夫だよ。それよりお兄さん、さっきの大規模な魔法攻撃を見た?」



 男は冷たい印象を全身から放っていたが、少年を心配している心情がひしひしと感じられたのと、その魂の色で少年はこの男がかなりの善人であることを悟った。



「あぁ、お嬢ちゃんもこの近くにいたんなら見ただろ?」

「見たは見たんだけど、じっくり見れなくて。お兄さんはあの魔法どう思った?」



 液晶パネル越しよりも実際にこの地であの攻撃を目撃した者の意見を聞きたかった少年は男にそう尋ねた。



「あんな魔法見たこともねぇしなぁ……威力もヤバかったし……それに雲よりもたけぇところからあの魔法出てた気がするな。あぁ!それととんでもなく綺麗な金色の光っていう印象だったな」

(やっぱり……)



 液晶パネルから観察していた自分の推測が間違いでは無かったことを確認できた少年は、とりあえず天界に戻ることにした。



「でもそれがどうしたんだ?」

「いや、少し気になっただけだよ。あと僕はこれでも男だよ、お兄さん」

「え?あぁ……そいつは悪かったな坊主」

「ううん、よく間違われるし、平気だよ」



 男は少年が完全に女であると思っていたらしく、一瞬少年が何を言っているのか理解できていないように固まった。だがすぐに状況を把握すると、困ったように頭を掻きながら陳謝した。



 〝よく間違われる〟というのはもちろん少年が創造主になる以前の話だ。



「いやぁ、それにしても男にしては随分……って、いねぇし」



 男が少年に話しかけようとした時には少年は既に姿を消しており、男は首を傾げつつ辺りを見渡すことしかできなかった。















「だから何度も言ってんだろうが。アイツはその魔法攻撃を調べるために下界に行ったんだって」



 その頃天界――神々の住居では武尽が面倒臭そうにデグネフにこの状況を説明していた。



「それはもう何度も聞きました。私が尋ねているのはどうしてそれを早く私たちに知らせなかったのかということです。創造主様の身に何かあっては全ての世界が滅んでしまうのですよ」

「アイツに何かあるなんてこと、天地がひっくり返ってもねぇだろうが。創造主なんだから」

「…………」



 少年が下界から返ってくると既にこの二人の喧嘩は始まっていて、少年はそれを宥めることもせずただ傍観を続けていた。



 下界にいた時間は僅かで、しかも時間の進みがこの天界よりも早い炎乱にいた為、少年は数分で帰ってくることができた。



 だがデグネフは創造主である少年が初めて下界に降りたことをすぐに報告しなかった武尽に抗議をし、武尽はそれを鬱陶しく思い、今の状況が出来上がったのだ。



「だいたい静由はどうなんだよ?」

「彼は神生じんせいの三分の二を寝て過ごしている神なのでそもそも期待していません」



 武尽・静由ペアの部屋の隅っこで寝息を立てている静由を指さして武尽は抗議した。静由も少年が下界に降りたことを知っていたからだ。だがそもそもデグネフは静由にそんな期待などしておらずそんな風に返した。



 神による喧嘩が繰り広げられている最中でも、平気で爆睡をかます静由を目の当たりにした武尽は、デグネフの言い分に納得してしまい黙り込んでしまった。



「まぁまぁ、そもそも勝手に行った僕が悪いんだし。喧嘩もいいけど、二人ともほどほどにね」

「申し訳ありません、創造主様」



 漸く二人を宥めた少年にデグネフは頭を下げた。デグネフが少年に謝罪したのは今回のことだけが原因では無い。



 デグネフと武尽――この二人は普段から喧嘩をすることが非常に多いのだ。原因は主に武尽の少年に対する態度なのだが。



 真面目なデグネフは上下関係をしっかりしたいらしく、武尽に突っかかることが多い。そして自由に行動したい武尽にとってそれは迷惑以外の何物でもないため、自然と喧嘩に発展してしまうのだ。



「それで?何か分かったのかよ」

「今のところは何とも言えないね」



 デグネフとの言い争いが終わったところで、武尽は少年に下界に降りた成果を尋ねた。少年から返ってきた返事からは何の収穫も得られないように感じたが、少年のどこか嬉々とした表情が武尽にその感覚を疑わせた。



「創造主様、どうされたのですか?」

「ふふふ……僕ね、これから…………五人になろうと思います!」

「「……は(い)?」」



 またもや突拍子もない、今回は加えて意味の分からない発言を繰り出した少年に、武尽とデグネフは間の抜けた声で返答することしかできなかった。







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