さよなら世界、ようこそ世界

乱 江梨

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第一章 世界の終わり、世界の始まり

武尽という鬼神の実力

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 少年は前世の記憶を得た祈世の頭を覗くことで、その記憶を共有した。



「創造主様…………ごめんなさいっ!」



 祈世は今にも壊れそうな苦しげな表情を向けると、少年に謝罪の言葉を告げた。すると一瞬のうちにその場から姿を消した。



 今の祈世は前世のカミロの記憶や憎しみをそのまま受け継いだ状態だ。つまり祈世であるのと同時に、カミロでもあるのだ。二重人格の一歩手前のような状態とも言える。



 この状況で一番どうするべきなのか分からず困惑しているのは祈世だ。



 前世の記憶から世界に対する憎しみを確かに抱いているが、何百年も傍で仕えてきた少年を裏切るようなことをしたくないという思いも確実にあった。



 だからと言って世界への復讐を諦めるという選択をとることもできず、頭がぐちゃぐちゃの状態になってしまった祈世は少年から逃げてしまったのだ。





「はぁ…………まったく祈世は、可愛いなぁ」



 少年は祈世がいなくなった場所を見つめため息を吐くと、祈世のことが心底愛おしいといった様子で破顔した。



「この僕から本気で逃げられると思ってるのかな?」















 一方その頃、神々のいる天界では武尽と祈世の分身体との攻防が繰り広げられていた。



「おいお前ら。手ぇ出すんじゃねぇぞ」

「誰もあなたの邪魔なんてしませんよ」



 他の神々を守る様に、天界に現れた三体の祈世の分身体の前に立ちはだかった武尽は釘を刺した。武尽の性質上、武尽の戦闘を邪魔すればどうなるか、その場にいる神々は全員理解していたので最初から手を出すつもりなど無かった。



 その旨を伝えたデグネフの言葉に満足したような笑みを浮かべた武尽は、以前少年から授かった剣を取り出した。



 その剣を武尽は完全無色アブソリュートスケルと名付け、自分の愛刀にするほど大事にしているのだ。



 完全無色アブソリュートスケルを武尽が構えると、その透明な刃は色を漆黒に変えた。完全無色アブソリュートスケルは元々は色の無い刃だが、所有者である武尽の思った通りの働きに応じてその色を、その形状を変えるのだ。



 そしてその色は武尽の心情とリンクしていることが多い。



 漆黒。それは武尽の絶対的な敵対心。目の前の敵を完全排除しようとする意気込みが込められている色なのだ。



「さーて。漸く吾輩の力の一端を披露する機会が訪れたな」

「別にそんなことをしなくても、武尽さんの力は全員よく分かっていますよ…………あっ、敵が来ますよ!」



 武尽が心底嬉しいといった表情を見せると、カルマは率直な意見を述べた。



 神々は異次元の力を持っているが、それを発揮する場はあまりない。そんな環境は自分の実力を試すための戦闘に情熱を注ぐ武尽にとっては退屈でしかない。



 その為こういった機会は武尽にとっては棚から牡丹餅だったのだ。



 普段その力を発揮できないと言っても、武尽の戦闘能力を理解していない者などこの場にはいなかった。武尽は自画自賛する程の最強武神で、それは他の神々も認めている事項なのだから。



 カルマが苦笑していると、祈世の分身体が武尽に向かってきていた。武尽はニヤリと精悍な笑みを浮かべると、分身体に向かって完全無色アブソリュートスケルによる素早い連撃を繰り出した。



「ふっ……やはり脆いな。所詮は分身体……創造主のように本体の力をそのまま受け継いでいる訳ではないからな。そもそもあの創造主、分身なんて言っているがあれはどちらかというと複製コピーじゃないのか?」



 武尽の攻撃によってばらばらに砕けた三体の分身体を目にした武尽は失望したように呟いた。



 祈世の造った分身体は祈世自身の力には何の影響も出ないのだが、造った分身体は造った数だけその力が分配されているのだ。



 つまりこの三体の分身体は本来の祈世の実力の三分の一をそれぞれが持っているということになる。



 最強武神である武尽にとって分身体は、例え神の創造物でも大した脅威ではないのだ。



 だが創造主である少年の分身体は違う。少年が分身と言っていたそれは、少年の本来の力そのままを継承しているのだ。もちろんその分身体は本体である少年の命令に従うのだが、少年の命令であれば少年と同じ実力を発揮することが出来るのだ。



 だから武尽は少年の分身を複製コピーと称したのだ。



 少年もそれが分身でないことは当然理解しているのだが、分身と言った方が忍者のようでカッコいいという安直でくだらない理由でそう称しているのだ。



「はっ!武尽さん、油断大敵ですよ!」

「あ?」



 バラバラになった分身体が復元していったことを視認したカルマは、咄嗟に武尽にそれを指摘した。武尽はすぐに攻撃しようとしてくる分身体の存在に気づき、それをかわしたが一歩遅かったようで、左頬と片腕片足に一筋の切り傷をつけてしまった。



「へぇ……なかなかやるじゃねぇか」

「武尽坊ちゃん……治癒しましょうか?」

「あ?いらねぇよ」



 分身体だからとその実力を少々甘く見ていた武尽にとって、その傷は喜ばしいイレギュラーだった。武尽は自分の勝利が遠い場所にあればあるほど燃えるタイプなので、これは自然なことだった。



 すると武尽の傷を心配そうに見つめた千歳は傷の手当てを提案した。



 千歳は創造主である少年から高い治癒の力を授かった女神で、神々の中で最も治療を得意としているのだ。他の神々も簡単な治癒ならいとも簡単にやってのけるため、この程度の傷で千歳がその力を使う必要はないのだが。



 因みに武尽のことを〝武尽坊ちゃん〟などと呼ぶのは森羅万象の中で千歳だけである。



「それにしてもあんなにバラバラにしたのに復元できるんだな」

「祈世は物理的な攻撃があまり効きませんからね。それが分身体にも影響しているんでしょう」



 武尽の攻撃で負ったダメージを一瞬でなかったことにしてしまった分身体に、武尽は疑問の声を上げた。



 それについての仮説を唱えたのは、祈世とペアを組んで世界を管理しているリンファンだった。リンファンはこの五〇〇年の間に聞こえすぎる自分の聴覚をコントールすることが出来ていた。



 そのため少年から貰った音を調節するヘッドホンはもう耳にはつけていない。だが少年から貰った大事なヘッドホンを手放すことが出来なかったリンファンは、今でも首からかけて肌身離さず持っているのだ。



 そんなリンファンは祈世とペアを組んでいる為、少年の次に祈世の特性を理解している。祈世はパワーもあって魔法も使える。だが防御力となると話が変わってくる。



 祈世に物理的な攻撃は効かない。剣や銃弾、体術では傷つけることはできてもすぐ再生出来てしまうのだ。



 そんな祈世をもし殺そうと考えるのであれば、有効なのはこの世に二つしかない。



 一つは創造主である少年の力。そしてもう一つは――。



「なら、魔法ぶっ放せばいいってことだな!」



 そう、祈世に有効な攻撃手段は魔法である。魔法であれば祈世の身体は治癒しないと元には戻らず、自然回復することは無い。その特徴が分身体にも受け継がれているのだ。



「…………武尽……創造主に、怒られるよ?」

「「??」」



 嬉々とした表情で魔法攻撃をしようとする武尽を見た静由は、何故かそんな発言をした。祈世の分身体の対処は少年自ら武尽に託したのだから、武尽の行動は咎められるようなことではないはずだった。その為他の神々は静由の言っている意味を理解することが出来ず首を傾げた。



「武尽……多分…………禁忌魔法、やろうとしてる」

「「!」」



 静由の口から発せられた単語で神々は意味を理解することが出来た。〝禁忌魔法〟といっても、威力が強すぎて魔法を行使する者への負担が大きく、使うとその者の生命力を奪ってしまうので使用を固く禁じられている魔法…………などではなく。単にその魔法の威力がデカすぎて他の神々に飛び火してしまうから、少年が使用を禁止にしただけの魔法である。



 武尽が少年に怒られるのではないかと危惧したのは、少年との通信の際、少年が武尽に周りに飛び火させないように言い含んでいたからだ。



 禁忌魔法などを発動すれば、思いっきり他の神々に飛び火する可能性があるので、静由の意見は尤もだったのだ。



「神なんだから自分の身ぐらい自分で守れるだろうが」

「はぁ、相変わらずですね…………結界に自信が無い方は僕とカルナの後ろにいてください」



 少年の注意などお構いなしに禁忌魔法を発動する気の武尽に、呆れたような表情を浮かべたカルマは他の神々にそう伝えた。



 カルマとカルナ。この双子の神々は魔法に対する防御力がどの神々よりも優れていて、その結界を破れるのは恐らく少年だけなのだ。神々は全員が攻撃から身を守るための結界を張ることが出来るが、その出来はそれぞれなのだ。



 ハクヲ、千歳、リンファン、クランは防御力にあまり自信が無いらしく、カルマとカルナの後ろに待機した。そしてデグネフと静由はそれぞれ自分で結界を張り、武尽の禁忌魔法に備えた。



 カルマとカルナの結界は二人の力を合わせて張ることによって効果が上がる為、二人は手を繋いだ状態で巨大な結界を張った。



 少年曰くカルマとカルナの結界はシャボン玉のように美しいのに、脆いシャボン玉とは比べ物にならないほど強固な結界で惚れ惚れする、らしい。



 少年も当然同じものを創ることが出来るのに、なぜそこまで褒め称えるのか双子には理解できていないのだが。



「吾輩の禁忌魔法で消滅することを誇りにするといいぞ。……絶炎ぜつえん!」



 武尽は精悍な笑みを浮かべると禁忌魔法を展開した。絶炎という名の通り、この魔法は炎属性の魔法である。武尽はネーミングセンスが乏しい割にかっこつけなので、詠唱しなくても放てる絶炎の名をわざわざ口にしてから魔法を放つのだ。



 炎は一瞬のうちに天界全体に広がり、分身体を消し炭になるまで焼き払った。因みにこの天界の物は全て創造主である少年の創作物なので、いかに禁忌魔法の絶炎と言えどもそれらに傷をつけることは一切できない。



 でなければこの天界が消滅しているところなのだから。



 他の神々は結界の中なのでその身を守ることが出来た。絶炎は武尽も燃やす勢いの魔法だが、自分の魔法で自分が傷つくことは神々の場合ない。



 神々には自分の魔法に耐性がついているので基本的に効かないのだ。



 分身体が完全に消滅したことを確認した武尽は魔法を収めた。その顔はとても満足そうで、武尽の戦闘に対する欲求がある程度満たされたことを確認することができた。



「ふっ……この吾輩がわざわざ分身体如きに力を振るったのだ。感謝しろよお前ら」

「自分から要求した癖になんですか?その言いぐさは」



 最初は創造主である少年が一瞬にして分身体を消し去ることを提案していたのを、己の欲望を満たすために名乗り出たのは武尽自身であって、それは完全に自分本位のものだった。



 にも拘らず結界から出てきた神々にそんな傍若無人な態度をとった武尽に、デグネフは正論過ぎる正論を返した。



 だが武尽はそんなことはお構いなしで満足げに高笑いした。そんな武尽の無神経な笑い声が天界中に響き渡った。







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