さよなら世界、ようこそ世界

乱 江梨

文字の大きさ
21 / 75
第二章 魔王と勇者、世界消失の謎

アランの野望

しおりを挟む
 ダンジョン攻略を終えたアランたちと命は、ダンジョン攻略成功を祝杯するために酒場を訪れていた。



 アランたちが住むこの国――サルマサトラン共和国では、十五歳になれば飲酒を許されている為、パーティー最年少で十五歳のサミュカでもお酒を飲むことが出来るのだ。 因みに命は年齢を聞かれ、適当に十五歳と答えておいた。命のな年齢は、世界が一度消滅した際の十四歳だが、創造主としての生を数えると約一〇五〇〇歳、人として生きていた時の年齢もあわせると、約一〇五一四歳ということになってしまう。



 命がそんなご長寿おじいさんに見えるわけもなく、お酒を飲んだことの無かった命は、興味本位で飲酒を許される年齢を語ったのだ。





 やって来た酒場は美味しいつまみと酒が人気の店で、店内には多くの客がいて飲食を楽しんでいた。





「……美味しいね」

「ミコトくん、お酒は初めてかい?」



 店の席についた命は早速頼んだエールを飲んでみた。初めて飲んだお酒のおいしさに、命は柄にもなく驚いてしまい、呆然とした表情を見せた。



 命と同じエールを片手につまみを食していたアランは、キラキラとした目でエールをガン見する命をからかう様に尋ねた。



「うん……今日はお兄さんたちが奢ってくれるって話だったけど、命たくさん飲むからやっぱり自分で払うよ」

「そうかい?そんなにお酒が気に入ったのなら、また今度おすすめの酒場を教えてあげるよ」

「ありがとう!お兄さん」



 実はここに来る途中、アランは命が五階層で何度か戦闘をサポートしてくれたお礼に、この酒場での会計を奢ると言っていたのだ。



 命は宣言通り、ダンジョンでの報酬を一切受け取らなかったので、アランはそれの代わりにしようとしたのだ。



 だが流石の命でも、自分が人間の本能に忠実な創造主であること理解し始めていたので、随分気に入ってしまった目の前の飲料を馬鹿飲みしてしまうと予測できたのだ。それに加え、命は創造主であるせいで恐らく酒に酔うこともない。それではキリがないので、その会計をアランがするのは流石に気の毒だと感じたのだ。



 だがアランにはそんな事情知る由もなく、せめてものお礼にアランはまた酒場を案内することを約束してくれた。











「……ミコトくん、ホントにお酒初めてかい?」

「うん、命そんなしょうもない嘘つかないよ。しょうもなくない嘘ならつくけど」



 アランのパーティーと命との飲み会が始まってから約三時間。他のパーティーメンバー全員が酔いつぶれて爆睡する中、その意識を保っているのはアランと命の二人だけだった。



 アランは女性陣ほど酒に弱くなく、そして命ほど大量に飲んでいた訳ではないので、多少顔を赤く染める程度だった。



 対して命は既に五〇杯ほどのエールを飲み干していたが、顔色に入店時との変化は全くなく、アランの質問にも的確に答えていた。



 だが命のあまりにもな飲みっぷりに対して、若干引いているアランの表情を目の当たりにした命は、自分が飲み干したことで空になった大量のグラスをじっと見つめた。



 そして流石に自重しなければいけないと感じた命は、エールを飲み進める手を止めた。



「ねぇ、お兄さん。ダンジョンで手に入れた転移魔道具を使って、一体どこに行こうとしているの?」

「!……見ていたのか?」



 命はアラン以外のパーティーメンバーが完全に眠っていることを確認すると、この時を待っていましたと言わんばかりにそのことを切り出した。



 アランはダンジョン攻略後のアイテム回収の際に、目的の品であった転移魔道具をアイテムボックスに収納していたのだ。



 転移魔道具はその名の通り、遠くの場所に転移する際に使われる魔道具だ。転移魔法を行使することのできる者にはそんなもの必要ないが、転移魔法をこの世界で使えるのは実力者のエルフか魔人だけだと言われている。



 勇者と称えるられるほどのアランでも転移魔法を行使することはできない。なのでアランが転移魔道具を回収したことは矛盾してはいない。



 アランは命が転移魔道具の存在と、それをアランが手に入れていることに勘付いていたことに驚きを隠せなかったのか、しばらく黙った後そう尋ねた。



「うん、お兄さんが何かを必死で探しているのは分かったから」

「そうか…………どこに行こうとしているのか?と聞いてきたけど、ミコトくんにはもう分かっているんじゃないか?」

「どうしてそう思うの?」

「なんとなく、そんな気がしただけだ」



 命の質問にアランは質問で返した。アランには命がその質問の答えに既に辿り着いている気がしてならなかったのだ。それはエリンの言っていた命の〝異様な雰囲気〟と少し似ている感覚で、アランにも説明できない直感だった。



「ごめんね。お兄さんの言う通り、お兄さんがどこに行こうとしているのかは分かってるよ。魔人の国……だね?」

「……そうだ」



 命が勘付いているのではないかと予測していたアランだったが、いざ現実を突きつけられるとやはり驚きを隠すことが出来なかった。



 ヒューズドにおいて差別の対象となる魔人が住まう国――ザグナシア王国こそ、アランが転移魔道具で向かおうとしていた場所だったのだ。



「この世界の者たちは、誰も魔人が住むザグナシア王国に行こうだなんて考えないからね。あの国に向かうための交通手段がないんだよ」



 人間がザグナシア王国に訪れることを禁じられている訳ではないが、この世界では差別の対象である魔人の住む国になど、誰一人として向かおうとはしない為、ザグナシア王国までの長い長い道のりを進むための手段がないのだ。



 アランたちの住むサルマサトラン共和国からザグナシア王国までは、いくつもの海や山を越えなければ辿り着けない為、流石のアランでも転移魔道具なしでは不可能なのだ。



「どうして魔人の国に行きたいんだい?」

「……魔王は知っているかい?」

「魔王……あぁ、魔人の国の王様だね。恐らくこの世界で最強の魔法使い」



 魔王。それは魔法の才に恵まれた魔人の中でも最も優れた才を持つ魔人だ。魔王はその名の通り国の王でもある。魔法の才が最も優れているものが国を仕切るという考えは、やはり魔法至上主義であるヒューズドならではのものである。



 この世界の魔人の寿命は長く、平均寿命は一〇〇〇歳。そしてその寿命は多くの魔力を保持しているほど延び、現在の魔王は三〇〇〇歳にも拘らず、まるで二〇代後半のような容姿をしているらしい。



「そう。俺はその魔王に、昔救われたことがあるんだ」

「魔王に?どういう経緯で?」



 この世界で魔人と他の種族はまず接触する機会がない。魔人は他国を訪れることを禁じられ、他の種族も魔人たちに近づこうとはしないからだ。



 そんな中、どうして人間であるアランが魔王に救われるのか?それを命は首を傾げつつ尋ねた。



「俺は孤児でね。親に捨てられたんだ。親は生まれたばかりの俺を小舟に乗せて海に流した。そして海を流れているうちに、ザグナシア王国に近いところまで来てしまったようなんだ」

「なるほど。それを見つけて拾ったのが魔王ってわけだね」



 アランが孤児であることを知っていた命は、すぐに経緯を把握した。命が推測を確認すると、アランは静かに頷くことで肯定を示した。



 どうやらアランは赤ん坊の時、親の手で海に流され、流されているうちに魔人の国へと迷い込んでしまったらしい。



「俺を拾った魔王は、憎いはずの人間である俺を七歳になるまで育ててくれた。部下に反対されてもね。俺の魔法が上達したのも、魔王である彼に教えてもらったからなんだ。魔王は俺に才能があるからだって言っていたけど、魔王のおかげであることも事実だった。でも彼は、俺が七歳になると転移魔法でこの国に送ったんだ。もちろん、人間である俺がいつまでも魔人の国にいるわけにはいかなかったのは分かっている。それに、この国では七歳から冒険者としてギルドに登録することが出来るから、そこらへんも考慮してくれたんだと思う。だから魔王の気持ちを汲んで、俺からあの国に帰るのはやめようと思っていたんだ」



 魔人の王である魔王が、自分たちを大した理由もなく忌み嫌う人間の子を育てるというのは、並大抵の決断ではなかったはずだ。多くの魔人の反対もあっただろうし、魔王とて人間に良い印象は持っていなかっただろう。



 それでも魔王は人間であるアランを育てることを決断した。そして、アランが一人でも生き抜けるように、魔法を伝授した。



 そのおかげでアランは七才という年で冒険者として一人で生き抜くことが出来、勇者と讃えられるまでになったのだ。



 この世界の者たちがこの事実をすれば卒倒するだろう。自分たちが讃えてきた勇者が、差別の対象である魔人の長に育てられていたのだから。



「でも、この世界の魔人に対する差別を知って、いてもたってもいられなくなった。いつザグナシア王国が他の五つの国に戦争を仕掛けられるか分からない。そんな恐怖を抱えるくらいなら、俺がこの世界を変えようと思ったんだ」

「世界を、変える……か」



 アランの言葉に命は何とも言えない表情を見せた。世界を安易に変えることは創造主である命や神には簡単にできても、それをすることはない。圧倒的実力を持つ存在が世界を変えることは、世界に住まう者の堕落を生むからだ。



 そんな、創造主である命でさえも躊躇うことをやってのけると宣言するアランに、命は少なからず目を奪われた。



「実はこの国の中枢を担っている信頼できる人物に、魔人への差別撤廃についての計画を協力してもらったんだ。この国の重鎮は過半数がそれに同意してくれた。その人たちには他国とのパイプもある。あとは魔人側にそれを承認してもらうだけ。時間はかかると思うけど、魔人と他種族が共存できる世界の足掛かりになればと思ってるんだ」

「なるほど。それで魔人の国、ザグナシア王国に行きたかったんだね」



 どうやらアランはこの計画のために随分前から根回しをしていたようで、あと一歩で魔人の差別撤廃が叶うのだ。



 この計画が進めば、魔人が他国に立ち入るのを禁じる法は無くなり、魔人への差別的な行為を禁止する新たな法が出来上がる。そして他種族の幹部は積極的に魔人と関わることになるだろう。もちろん初めはアランの計画に賛同してくれた者たちだけだろうが。



 だが法を変えるには、ザグナシア王国の承諾が必要。その承諾を得るために、アランは転移魔道具で魔人の国へ向かう必要があったのだ。



 そこまで周到な用意をしていたアランに、命はついつい感心してしまった。ここまで来るのにどんな苦労をしてきたのか、命には想像することもできなかった。



 全てを把握した命の言葉に、アランは頷くことで肯定を示した。



「そっか。じゃあお兄さん、ここで一つ提案だ」

「……なんだ?」

「命も魔人の国に連れて行って」



 命の突然すぎる提案に、アランが目を見開いたのは言うまでもない。そして、そんなアランの表情が自分の愛する神々にとても良く似ていることに命は気づき、思わず破顔した。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~

とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。 先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。 龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。 魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。 バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

処理中です...