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第二章 魔王と勇者、世界消失の謎
アランの野望
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ダンジョン攻略を終えたアランたちと命は、ダンジョン攻略成功を祝杯するために酒場を訪れていた。
アランたちが住むこの国――サルマサトラン共和国では、十五歳になれば飲酒を許されている為、パーティー最年少で十五歳のサミュカでもお酒を飲むことが出来るのだ。 因みに命は年齢を聞かれ、適当に十五歳と答えておいた。命の身体的な年齢は、世界が一度消滅した際の十四歳だが、創造主としての生を数えると約一〇五〇〇歳、人として生きていた時の年齢もあわせると、約一〇五一四歳ということになってしまう。
命がそんなご長寿おじいさんに見えるわけもなく、お酒を飲んだことの無かった命は、興味本位で飲酒を許される年齢を語ったのだ。
やって来た酒場は美味しいつまみと酒が人気の店で、店内には多くの客がいて飲食を楽しんでいた。
「……美味しいね」
「ミコトくん、お酒は初めてかい?」
店の席についた命は早速頼んだエールを飲んでみた。初めて飲んだお酒のおいしさに、命は柄にもなく驚いてしまい、呆然とした表情を見せた。
命と同じエールを片手につまみを食していたアランは、キラキラとした目でエールをガン見する命をからかう様に尋ねた。
「うん……今日はお兄さんたちが奢ってくれるって話だったけど、命たくさん飲むからやっぱり自分で払うよ」
「そうかい?そんなにお酒が気に入ったのなら、また今度おすすめの酒場を教えてあげるよ」
「ありがとう!お兄さん」
実はここに来る途中、アランは命が五階層で何度か戦闘をサポートしてくれたお礼に、この酒場での会計を奢ると言っていたのだ。
命は宣言通り、ダンジョンでの報酬を一切受け取らなかったので、アランはそれの代わりにしようとしたのだ。
だが流石の命でも、自分が人間の本能に忠実な創造主であること理解し始めていたので、随分気に入ってしまった目の前の飲料を馬鹿飲みしてしまうと予測できたのだ。それに加え、命は創造主であるせいで恐らく酒に酔うこともない。それではキリがないので、その会計をアランがするのは流石に気の毒だと感じたのだ。
だがアランにはそんな事情知る由もなく、せめてものお礼にアランはまた酒場を案内することを約束してくれた。
「……ミコトくん、ホントにお酒初めてかい?」
「うん、命そんなしょうもない嘘つかないよ。しょうもなくない嘘ならつくけど」
アランのパーティーと命との飲み会が始まってから約三時間。他のパーティーメンバー全員が酔いつぶれて爆睡する中、その意識を保っているのはアランと命の二人だけだった。
アランは女性陣ほど酒に弱くなく、そして命ほど大量に飲んでいた訳ではないので、多少顔を赤く染める程度だった。
対して命は既に五〇杯ほどのエールを飲み干していたが、顔色に入店時との変化は全くなく、アランの質問にも的確に答えていた。
だが命のあまりにもな飲みっぷりに対して、若干引いているアランの表情を目の当たりにした命は、自分が飲み干したことで空になった大量のグラスをじっと見つめた。
そして流石に自重しなければいけないと感じた命は、エールを飲み進める手を止めた。
「ねぇ、お兄さん。ダンジョンで手に入れた転移魔道具を使って、一体どこに行こうとしているの?」
「!……見ていたのか?」
命はアラン以外のパーティーメンバーが一人を除いて完全に眠っていることを確認すると、この時を待っていましたと言わんばかりにそのことを切り出した。
アランはダンジョン攻略後のアイテム回収の際に、目的の品であった転移魔道具をアイテムボックスに収納していたのだ。
転移魔道具はその名の通り、遠くの場所に転移する際に使われる魔道具だ。転移魔法を行使することのできる者にはそんなもの必要ないが、転移魔法をこの世界で使えるのは実力者のエルフか魔人だけだと言われている。
勇者と称えるられるほどのアランでも転移魔法を行使することはできない。なのでアランが転移魔道具を回収したことは矛盾してはいない。
アランは命が転移魔道具の存在と、それをアランが手に入れていることに勘付いていたことに驚きを隠せなかったのか、しばらく黙った後そう尋ねた。
「うん、お兄さんが何かを必死で探しているのは分かったから」
「そうか…………どこに行こうとしているのか?と聞いてきたけど、ミコトくんにはもう分かっているんじゃないか?」
「どうしてそう思うの?」
「なんとなく、そんな気がしただけだ」
命の質問にアランは質問で返した。アランには命がその質問の答えに既に辿り着いている気がしてならなかったのだ。それはエリンの言っていた命の〝異様な雰囲気〟と少し似ている感覚で、アランにも説明できない直感だった。
「ごめんね。お兄さんの言う通り、お兄さんがどこに行こうとしているのかは分かってるよ。魔人の国……だね?」
「……そうだ」
命が勘付いているのではないかと予測していたアランだったが、いざ現実を突きつけられるとやはり驚きを隠すことが出来なかった。
ヒューズドにおいて差別の対象となる魔人が住まう国――ザグナシア王国こそ、アランが転移魔道具で向かおうとしていた場所だったのだ。
「この世界の者たちは、誰も魔人が住むザグナシア王国に行こうだなんて考えないからね。あの国に向かうための交通手段がないんだよ」
人間がザグナシア王国に訪れることを禁じられている訳ではないが、この世界では差別の対象である魔人の住む国になど、誰一人として向かおうとはしない為、ザグナシア王国までの長い長い道のりを進むための手段がないのだ。
アランたちの住むサルマサトラン共和国からザグナシア王国までは、いくつもの海や山を越えなければ辿り着けない為、流石のアランでも転移魔道具なしでは不可能なのだ。
「どうして魔人の国に行きたいんだい?」
「……魔王は知っているかい?」
「魔王……あぁ、魔人の国の王様だね。恐らくこの世界で最強の魔法使い」
魔王。それは魔法の才に恵まれた魔人の中でも最も優れた才を持つ魔人だ。魔王はその名の通り国の王でもある。魔法の才が最も優れているものが国を仕切るという考えは、やはり魔法至上主義であるヒューズドならではのものである。
この世界の魔人の寿命は長く、平均寿命は一〇〇〇歳。そしてその寿命は多くの魔力を保持しているほど延び、現在の魔王は三〇〇〇歳にも拘らず、まるで二〇代後半のような容姿をしているらしい。
「そう。俺はその魔王に、昔救われたことがあるんだ」
「魔王に?どういう経緯で?」
この世界で魔人と他の種族はまず接触する機会がない。魔人は他国を訪れることを禁じられ、他の種族も魔人たちに近づこうとはしないからだ。
そんな中、どうして人間であるアランが魔王に救われるのか?それを命は首を傾げつつ尋ねた。
「俺は孤児でね。親に捨てられたんだ。親は生まれたばかりの俺を小舟に乗せて海に流した。そして海を流れているうちに、ザグナシア王国に近いところまで来てしまったようなんだ」
「なるほど。それを見つけて拾ったのが魔王ってわけだね」
アランが孤児であることを知っていた命は、すぐに経緯を把握した。命が推測を確認すると、アランは静かに頷くことで肯定を示した。
どうやらアランは赤ん坊の時、親の手で海に流され、流されているうちに魔人の国へと迷い込んでしまったらしい。
「俺を拾った魔王は、憎いはずの人間である俺を七歳になるまで育ててくれた。部下に反対されてもね。俺の魔法が上達したのも、魔王である彼に教えてもらったからなんだ。魔王は俺に才能があるからだって言っていたけど、魔王のおかげであることも事実だった。でも彼は、俺が七歳になると転移魔法でこの国に送ったんだ。もちろん、人間である俺がいつまでも魔人の国にいるわけにはいかなかったのは分かっている。それに、この国では七歳から冒険者としてギルドに登録することが出来るから、そこらへんも考慮してくれたんだと思う。だから魔王の気持ちを汲んで、俺からあの国に帰るのはやめようと思っていたんだ」
魔人の王である魔王が、自分たちを大した理由もなく忌み嫌う人間の子を育てるというのは、並大抵の決断ではなかったはずだ。多くの魔人の反対もあっただろうし、魔王とて人間に良い印象は持っていなかっただろう。
それでも魔王は人間であるアランを育てることを決断した。そして、アランが一人でも生き抜けるように、魔法を伝授した。
そのおかげでアランは七才という年で冒険者として一人で生き抜くことが出来、勇者と讃えられるまでになったのだ。
この世界の者たちがこの事実をすれば卒倒するだろう。自分たちが讃えてきた勇者が、差別の対象である魔人の長に育てられていたのだから。
「でも、この世界の魔人に対する差別を知って、いてもたってもいられなくなった。いつザグナシア王国が他の五つの国に戦争を仕掛けられるか分からない。そんな恐怖を抱えるくらいなら、俺がこの世界を変えようと思ったんだ」
「世界を、変える……か」
アランの言葉に命は何とも言えない表情を見せた。世界を安易に変えることは創造主である命や神には簡単にできても、それをすることはない。圧倒的実力を持つ存在が世界を変えることは、世界に住まう者の堕落を生むからだ。
そんな、創造主である命でさえも躊躇うことをやってのけると宣言するアランに、命は少なからず目を奪われた。
「実はこの国の中枢を担っている信頼できる人物に、魔人への差別撤廃についての計画を協力してもらったんだ。この国の重鎮は過半数がそれに同意してくれた。その人たちには他国とのパイプもある。あとは魔人側にそれを承認してもらうだけ。時間はかかると思うけど、魔人と他種族が共存できる世界の足掛かりになればと思ってるんだ」
「なるほど。それで魔人の国、ザグナシア王国に行きたかったんだね」
どうやらアランはこの計画のために随分前から根回しをしていたようで、あと一歩で魔人の差別撤廃が叶うのだ。
この計画が進めば、魔人が他国に立ち入るのを禁じる法は無くなり、魔人への差別的な行為を禁止する新たな法が出来上がる。そして他種族の幹部は積極的に魔人と関わることになるだろう。もちろん初めはアランの計画に賛同してくれた者たちだけだろうが。
だが法を変えるには、ザグナシア王国の承諾が必要。その承諾を得るために、アランは転移魔道具で魔人の国へ向かう必要があったのだ。
そこまで周到な用意をしていたアランに、命はついつい感心してしまった。ここまで来るのにどんな苦労をしてきたのか、命には想像することもできなかった。
全てを把握した命の言葉に、アランは頷くことで肯定を示した。
「そっか。じゃあお兄さん、ここで一つ提案だ」
「……なんだ?」
「命も魔人の国に連れて行って」
命の突然すぎる提案に、アランが目を見開いたのは言うまでもない。そして、そんなアランの表情が自分の愛する神々にとても良く似ていることに命は気づき、思わず破顔した。
アランたちが住むこの国――サルマサトラン共和国では、十五歳になれば飲酒を許されている為、パーティー最年少で十五歳のサミュカでもお酒を飲むことが出来るのだ。 因みに命は年齢を聞かれ、適当に十五歳と答えておいた。命の身体的な年齢は、世界が一度消滅した際の十四歳だが、創造主としての生を数えると約一〇五〇〇歳、人として生きていた時の年齢もあわせると、約一〇五一四歳ということになってしまう。
命がそんなご長寿おじいさんに見えるわけもなく、お酒を飲んだことの無かった命は、興味本位で飲酒を許される年齢を語ったのだ。
やって来た酒場は美味しいつまみと酒が人気の店で、店内には多くの客がいて飲食を楽しんでいた。
「……美味しいね」
「ミコトくん、お酒は初めてかい?」
店の席についた命は早速頼んだエールを飲んでみた。初めて飲んだお酒のおいしさに、命は柄にもなく驚いてしまい、呆然とした表情を見せた。
命と同じエールを片手につまみを食していたアランは、キラキラとした目でエールをガン見する命をからかう様に尋ねた。
「うん……今日はお兄さんたちが奢ってくれるって話だったけど、命たくさん飲むからやっぱり自分で払うよ」
「そうかい?そんなにお酒が気に入ったのなら、また今度おすすめの酒場を教えてあげるよ」
「ありがとう!お兄さん」
実はここに来る途中、アランは命が五階層で何度か戦闘をサポートしてくれたお礼に、この酒場での会計を奢ると言っていたのだ。
命は宣言通り、ダンジョンでの報酬を一切受け取らなかったので、アランはそれの代わりにしようとしたのだ。
だが流石の命でも、自分が人間の本能に忠実な創造主であること理解し始めていたので、随分気に入ってしまった目の前の飲料を馬鹿飲みしてしまうと予測できたのだ。それに加え、命は創造主であるせいで恐らく酒に酔うこともない。それではキリがないので、その会計をアランがするのは流石に気の毒だと感じたのだ。
だがアランにはそんな事情知る由もなく、せめてものお礼にアランはまた酒場を案内することを約束してくれた。
「……ミコトくん、ホントにお酒初めてかい?」
「うん、命そんなしょうもない嘘つかないよ。しょうもなくない嘘ならつくけど」
アランのパーティーと命との飲み会が始まってから約三時間。他のパーティーメンバー全員が酔いつぶれて爆睡する中、その意識を保っているのはアランと命の二人だけだった。
アランは女性陣ほど酒に弱くなく、そして命ほど大量に飲んでいた訳ではないので、多少顔を赤く染める程度だった。
対して命は既に五〇杯ほどのエールを飲み干していたが、顔色に入店時との変化は全くなく、アランの質問にも的確に答えていた。
だが命のあまりにもな飲みっぷりに対して、若干引いているアランの表情を目の当たりにした命は、自分が飲み干したことで空になった大量のグラスをじっと見つめた。
そして流石に自重しなければいけないと感じた命は、エールを飲み進める手を止めた。
「ねぇ、お兄さん。ダンジョンで手に入れた転移魔道具を使って、一体どこに行こうとしているの?」
「!……見ていたのか?」
命はアラン以外のパーティーメンバーが一人を除いて完全に眠っていることを確認すると、この時を待っていましたと言わんばかりにそのことを切り出した。
アランはダンジョン攻略後のアイテム回収の際に、目的の品であった転移魔道具をアイテムボックスに収納していたのだ。
転移魔道具はその名の通り、遠くの場所に転移する際に使われる魔道具だ。転移魔法を行使することのできる者にはそんなもの必要ないが、転移魔法をこの世界で使えるのは実力者のエルフか魔人だけだと言われている。
勇者と称えるられるほどのアランでも転移魔法を行使することはできない。なのでアランが転移魔道具を回収したことは矛盾してはいない。
アランは命が転移魔道具の存在と、それをアランが手に入れていることに勘付いていたことに驚きを隠せなかったのか、しばらく黙った後そう尋ねた。
「うん、お兄さんが何かを必死で探しているのは分かったから」
「そうか…………どこに行こうとしているのか?と聞いてきたけど、ミコトくんにはもう分かっているんじゃないか?」
「どうしてそう思うの?」
「なんとなく、そんな気がしただけだ」
命の質問にアランは質問で返した。アランには命がその質問の答えに既に辿り着いている気がしてならなかったのだ。それはエリンの言っていた命の〝異様な雰囲気〟と少し似ている感覚で、アランにも説明できない直感だった。
「ごめんね。お兄さんの言う通り、お兄さんがどこに行こうとしているのかは分かってるよ。魔人の国……だね?」
「……そうだ」
命が勘付いているのではないかと予測していたアランだったが、いざ現実を突きつけられるとやはり驚きを隠すことが出来なかった。
ヒューズドにおいて差別の対象となる魔人が住まう国――ザグナシア王国こそ、アランが転移魔道具で向かおうとしていた場所だったのだ。
「この世界の者たちは、誰も魔人が住むザグナシア王国に行こうだなんて考えないからね。あの国に向かうための交通手段がないんだよ」
人間がザグナシア王国に訪れることを禁じられている訳ではないが、この世界では差別の対象である魔人の住む国になど、誰一人として向かおうとはしない為、ザグナシア王国までの長い長い道のりを進むための手段がないのだ。
アランたちの住むサルマサトラン共和国からザグナシア王国までは、いくつもの海や山を越えなければ辿り着けない為、流石のアランでも転移魔道具なしでは不可能なのだ。
「どうして魔人の国に行きたいんだい?」
「……魔王は知っているかい?」
「魔王……あぁ、魔人の国の王様だね。恐らくこの世界で最強の魔法使い」
魔王。それは魔法の才に恵まれた魔人の中でも最も優れた才を持つ魔人だ。魔王はその名の通り国の王でもある。魔法の才が最も優れているものが国を仕切るという考えは、やはり魔法至上主義であるヒューズドならではのものである。
この世界の魔人の寿命は長く、平均寿命は一〇〇〇歳。そしてその寿命は多くの魔力を保持しているほど延び、現在の魔王は三〇〇〇歳にも拘らず、まるで二〇代後半のような容姿をしているらしい。
「そう。俺はその魔王に、昔救われたことがあるんだ」
「魔王に?どういう経緯で?」
この世界で魔人と他の種族はまず接触する機会がない。魔人は他国を訪れることを禁じられ、他の種族も魔人たちに近づこうとはしないからだ。
そんな中、どうして人間であるアランが魔王に救われるのか?それを命は首を傾げつつ尋ねた。
「俺は孤児でね。親に捨てられたんだ。親は生まれたばかりの俺を小舟に乗せて海に流した。そして海を流れているうちに、ザグナシア王国に近いところまで来てしまったようなんだ」
「なるほど。それを見つけて拾ったのが魔王ってわけだね」
アランが孤児であることを知っていた命は、すぐに経緯を把握した。命が推測を確認すると、アランは静かに頷くことで肯定を示した。
どうやらアランは赤ん坊の時、親の手で海に流され、流されているうちに魔人の国へと迷い込んでしまったらしい。
「俺を拾った魔王は、憎いはずの人間である俺を七歳になるまで育ててくれた。部下に反対されてもね。俺の魔法が上達したのも、魔王である彼に教えてもらったからなんだ。魔王は俺に才能があるからだって言っていたけど、魔王のおかげであることも事実だった。でも彼は、俺が七歳になると転移魔法でこの国に送ったんだ。もちろん、人間である俺がいつまでも魔人の国にいるわけにはいかなかったのは分かっている。それに、この国では七歳から冒険者としてギルドに登録することが出来るから、そこらへんも考慮してくれたんだと思う。だから魔王の気持ちを汲んで、俺からあの国に帰るのはやめようと思っていたんだ」
魔人の王である魔王が、自分たちを大した理由もなく忌み嫌う人間の子を育てるというのは、並大抵の決断ではなかったはずだ。多くの魔人の反対もあっただろうし、魔王とて人間に良い印象は持っていなかっただろう。
それでも魔王は人間であるアランを育てることを決断した。そして、アランが一人でも生き抜けるように、魔法を伝授した。
そのおかげでアランは七才という年で冒険者として一人で生き抜くことが出来、勇者と讃えられるまでになったのだ。
この世界の者たちがこの事実をすれば卒倒するだろう。自分たちが讃えてきた勇者が、差別の対象である魔人の長に育てられていたのだから。
「でも、この世界の魔人に対する差別を知って、いてもたってもいられなくなった。いつザグナシア王国が他の五つの国に戦争を仕掛けられるか分からない。そんな恐怖を抱えるくらいなら、俺がこの世界を変えようと思ったんだ」
「世界を、変える……か」
アランの言葉に命は何とも言えない表情を見せた。世界を安易に変えることは創造主である命や神には簡単にできても、それをすることはない。圧倒的実力を持つ存在が世界を変えることは、世界に住まう者の堕落を生むからだ。
そんな、創造主である命でさえも躊躇うことをやってのけると宣言するアランに、命は少なからず目を奪われた。
「実はこの国の中枢を担っている信頼できる人物に、魔人への差別撤廃についての計画を協力してもらったんだ。この国の重鎮は過半数がそれに同意してくれた。その人たちには他国とのパイプもある。あとは魔人側にそれを承認してもらうだけ。時間はかかると思うけど、魔人と他種族が共存できる世界の足掛かりになればと思ってるんだ」
「なるほど。それで魔人の国、ザグナシア王国に行きたかったんだね」
どうやらアランはこの計画のために随分前から根回しをしていたようで、あと一歩で魔人の差別撤廃が叶うのだ。
この計画が進めば、魔人が他国に立ち入るのを禁じる法は無くなり、魔人への差別的な行為を禁止する新たな法が出来上がる。そして他種族の幹部は積極的に魔人と関わることになるだろう。もちろん初めはアランの計画に賛同してくれた者たちだけだろうが。
だが法を変えるには、ザグナシア王国の承諾が必要。その承諾を得るために、アランは転移魔道具で魔人の国へ向かう必要があったのだ。
そこまで周到な用意をしていたアランに、命はついつい感心してしまった。ここまで来るのにどんな苦労をしてきたのか、命には想像することもできなかった。
全てを把握した命の言葉に、アランは頷くことで肯定を示した。
「そっか。じゃあお兄さん、ここで一つ提案だ」
「……なんだ?」
「命も魔人の国に連れて行って」
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