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第三章 男神と神子、手にできなかった愛情
閑話:少年が溢れる何かを知らない季に
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(熱い、痛い……痛いなぁ)
少年がその苦しみを声に出すことは無かった。声に出したことろで意味なんてないことを思い知っているからだ。
だが少年にも人並みの痛覚は当然あった。クラスメイトに浴びせられた熱湯は、少年の肩に耐えられぬほどの激痛を与え、醜い火傷の跡を残した。
クラスメイトは何かがお気に召さなかったようで、少年に耳が汚れるような暴言を吐いた。だが少年は痛みに耐えるのに精一杯で、その内容を理解するほどの余裕を持ち合わせてはいなかった。
まともな思考ができない状況でも、少年はふと考えた。自分が目の前の誰かを怒らせているのは、自分が何の反応も見せないからではないかと。
だが少年は他人から苦痛を与えられて泣き叫ぶ程、世界に希望を持っていなかった。泣くという行為をここ何年もしていないことから、少年がこの世界に対して何も思わなくなったのがかなり前であることは容易に想像できる。
泣けば誰かに気づいてもらえる。助けてもらえるなんて幻想だ。誰も何もしない。人は他人にそれ程までの興味など持ち合わせていないのだから。
少年もそれは同じだった。例え殴られても、蹴られても、物を隠されても、侮辱されても、持ち物に落書きをされても、何も感じなくなってしまった。どうでもよくなってしまったのだ。
それが日常になってしまえば、それに対して何の不満もなくただただ享受し続ける。それに少年は慣れてしまったのだから。
唯一いじめから助けてくれようとした男性教師は、児童ポルノに引っかかるような変態教師だったので少年は希望というものを全く期待していなかったのだ。
少年が呆然と思考していると、少年の周りにクラスメイト達は既にいなく、少年は下手な処置をする前に病院へと向かった。
しばらくの期間を置けば火傷による痛みは治まった。痛みを感じないのなら跡が残ろうが残るまいが少年にはどうでもいいことだった。
「…………」
「……なに?」
滅多に顔を合わせない母親と着替えている最中に少年は鉢合わせた。母親が少年の身体をじっと見つめたまま何の反応も見せなかったので、少年は怪訝そうに尋ねた。
だが聞くまでもなく、少年は母親の答えを知っていた。少年は生まれた時から人の感情や魂の声を聞くことが出来たからだ。もちろん親と呼ぶに値しない少年の両親がその事実を知っているわけもないのだが。
少年の知り得た母親の感情を言葉にするとこんな感じだ。
『気持ち悪い』
実に少年の知る母親らしい感情で、彼は思わず乾いた笑みを零した。そんな少年の様子を気にかけることなく、母親はすぐに家から姿を消した。
カーテンを閉め切っているせいであまりにも暗い殺風景な家の中、一人取り残された少年はふと考えた。
それは他にあまり関心を示さない少年が珍しく気にしていることで、少年の人生を左右するに違いないことでもあった。
「世界……大丈夫かなぁ」
少年は誰も聞いていないその空間でぽつりと呟いた。少年が危惧していたのは今後の世界の行く末だったのだ。
少年は生まれ持った厄介な力で世界の嘆きの感情を知っていた。それがどういう理由で起きているのか少年に知る術はなかったが、ただ一つはっきりしていたのが世界に危機が訪れているということだったのだ。
「誰からも愛されないまま世界が終わるのは嫌だなぁ……神様がいるなら祈るのもありなのかな?」
少年は神の存在を疑っても信じてもいなかった。はっきり言ってしまえばどうでも良かったのだ。いようがいまいがどうでもいい。いたところで自分には対して関わりのない存在だからだ。
だがこの状況ではそうも言ってられなかった。少年は自殺しない程度にはこの世に未練を感じている。その未練は人生における楽しみを全く感じたことが無いというものだった。
本当の家族、友人、幸せを少年は知らない。それを知らないまま、無知のまま世界の終わりを迎えるのは少年の本意ではなかった。
「世界が終わっても、自我を失いたくない。今の僕に幸せを教えてあげたい。お願いします、神様……?」
少年はまるで他人事のように祈った。少年にとって輪廻転生した後の幸せなど何の価値もなかったのだ。輪廻転生した後の存在は自分ではないのだから。だから少年は今の自分で、幸せという曖昧なものを知りたかった。祈るほどに。
大して信じてもいない存在に祈るなんて普段の少年なら絶対にしないことだ。柄にもないことをする程に、少年はこの状況を懸念していたのだ。
この時の少年は知る由も無かった。冷たい床に一人しゃがみ込んでいる自分が、何物にも代えがたい家族を手に入れ、溢れるばかりの曖昧な何かを知るという未来があることを。
想像もしていなかったのだ。
少年がその苦しみを声に出すことは無かった。声に出したことろで意味なんてないことを思い知っているからだ。
だが少年にも人並みの痛覚は当然あった。クラスメイトに浴びせられた熱湯は、少年の肩に耐えられぬほどの激痛を与え、醜い火傷の跡を残した。
クラスメイトは何かがお気に召さなかったようで、少年に耳が汚れるような暴言を吐いた。だが少年は痛みに耐えるのに精一杯で、その内容を理解するほどの余裕を持ち合わせてはいなかった。
まともな思考ができない状況でも、少年はふと考えた。自分が目の前の誰かを怒らせているのは、自分が何の反応も見せないからではないかと。
だが少年は他人から苦痛を与えられて泣き叫ぶ程、世界に希望を持っていなかった。泣くという行為をここ何年もしていないことから、少年がこの世界に対して何も思わなくなったのがかなり前であることは容易に想像できる。
泣けば誰かに気づいてもらえる。助けてもらえるなんて幻想だ。誰も何もしない。人は他人にそれ程までの興味など持ち合わせていないのだから。
少年もそれは同じだった。例え殴られても、蹴られても、物を隠されても、侮辱されても、持ち物に落書きをされても、何も感じなくなってしまった。どうでもよくなってしまったのだ。
それが日常になってしまえば、それに対して何の不満もなくただただ享受し続ける。それに少年は慣れてしまったのだから。
唯一いじめから助けてくれようとした男性教師は、児童ポルノに引っかかるような変態教師だったので少年は希望というものを全く期待していなかったのだ。
少年が呆然と思考していると、少年の周りにクラスメイト達は既にいなく、少年は下手な処置をする前に病院へと向かった。
しばらくの期間を置けば火傷による痛みは治まった。痛みを感じないのなら跡が残ろうが残るまいが少年にはどうでもいいことだった。
「…………」
「……なに?」
滅多に顔を合わせない母親と着替えている最中に少年は鉢合わせた。母親が少年の身体をじっと見つめたまま何の反応も見せなかったので、少年は怪訝そうに尋ねた。
だが聞くまでもなく、少年は母親の答えを知っていた。少年は生まれた時から人の感情や魂の声を聞くことが出来たからだ。もちろん親と呼ぶに値しない少年の両親がその事実を知っているわけもないのだが。
少年の知り得た母親の感情を言葉にするとこんな感じだ。
『気持ち悪い』
実に少年の知る母親らしい感情で、彼は思わず乾いた笑みを零した。そんな少年の様子を気にかけることなく、母親はすぐに家から姿を消した。
カーテンを閉め切っているせいであまりにも暗い殺風景な家の中、一人取り残された少年はふと考えた。
それは他にあまり関心を示さない少年が珍しく気にしていることで、少年の人生を左右するに違いないことでもあった。
「世界……大丈夫かなぁ」
少年は誰も聞いていないその空間でぽつりと呟いた。少年が危惧していたのは今後の世界の行く末だったのだ。
少年は生まれ持った厄介な力で世界の嘆きの感情を知っていた。それがどういう理由で起きているのか少年に知る術はなかったが、ただ一つはっきりしていたのが世界に危機が訪れているということだったのだ。
「誰からも愛されないまま世界が終わるのは嫌だなぁ……神様がいるなら祈るのもありなのかな?」
少年は神の存在を疑っても信じてもいなかった。はっきり言ってしまえばどうでも良かったのだ。いようがいまいがどうでもいい。いたところで自分には対して関わりのない存在だからだ。
だがこの状況ではそうも言ってられなかった。少年は自殺しない程度にはこの世に未練を感じている。その未練は人生における楽しみを全く感じたことが無いというものだった。
本当の家族、友人、幸せを少年は知らない。それを知らないまま、無知のまま世界の終わりを迎えるのは少年の本意ではなかった。
「世界が終わっても、自我を失いたくない。今の僕に幸せを教えてあげたい。お願いします、神様……?」
少年はまるで他人事のように祈った。少年にとって輪廻転生した後の幸せなど何の価値もなかったのだ。輪廻転生した後の存在は自分ではないのだから。だから少年は今の自分で、幸せという曖昧なものを知りたかった。祈るほどに。
大して信じてもいない存在に祈るなんて普段の少年なら絶対にしないことだ。柄にもないことをする程に、少年はこの状況を懸念していたのだ。
この時の少年は知る由も無かった。冷たい床に一人しゃがみ込んでいる自分が、何物にも代えがたい家族を手に入れ、溢れるばかりの曖昧な何かを知るという未来があることを。
想像もしていなかったのだ。
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