さよなら世界、ようこそ世界

乱 江梨

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第四章 最強幼女襲来、神々への敵意

約束の輪廻転生

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「…………」



 その日その時。天界には長い長い沈黙が流れていた。



 神々だけではなく命でさえも今の状況に当惑していて、目の前の困惑材料をまじまじと見つめている。その困惑材料は人間の幼女で、もちろん命が呼んだわけではない。



 艶やかな黒髪のおかっぱ頭、きめ細かい純白の肌は見惚れるほど美しく、その少女の可愛らしさを引き立てていた。くりくりとした大きな瞳も純黒で、細く長い睫毛が影を落としている。対照的に小さな唇には紅をさしていて、彼女の雰囲気が大人びて見える要因になっていた。



 そして身に着けている和服は黒と赤を基調としていて、鮮やかな模様が施されていた。下衣は和風のショートパンツのようで軽やかさを演出している。そして足元には高すぎる歯のついた下駄を履いていて、彼女の小さな背丈を大きく見せる手助けをしていた。





 何故この美幼女が天界に現れ、命たちが目を点にしているかを説明するには一時間ほど時間を遡らなければならない。













 ――一時間前――



「廻の代わりの神様を造ろー!」

「「おー……?」」



 唐突にそんなことを言い出した命に神々は微妙な反応を返した。確かに廻という神が人間になってしまったことで、天界に住まう神の席が一つ空いてしまっているのは事実だ。



 そのせいでルミカは一人で炎乱のという世界を管理することになり、時々他の神に手伝ってもらいながら神の勤めを果たしているのだ。



 それにも拘らず、神々が命の提案に当惑したのには理由があった。



 実は廻が人間となってから天界では二千年ほどの年月が流れていたのだ。天界の西暦は一二五六七年を迎えていて、当然人間になった廻、楓佳、その二人の子供も既に亡くなっていた。



 だが廻と楓佳の子孫はまだいて、命はたびたび暇を見つけては炎乱を訪れ、その子孫たちに会っていた。



 とにかく廻が天界を去ってからかなりの年月が経っているというのに、今更廻の代わりを造ろうと提案した命の考えが神々には理解できなかったのだ。





「今更感がすごいんだが」

「ふふふ……たけたけは分かってないなぁ、今新たな神を造ることに意味があるんだよ」

「どういうことですか?命様」



 命に妙なあだ名で呼ばれたせいで蟀谷に青筋を浮かべた武尽を余所に、デグネフは命に解説を求めた。



「魔王くんとの約束を果たすんだよ!」

「魔王……なるほど、そういうことですか」

「どういうことですか?」



 魔王という単語でクラン以外の神々は納得したように頷いたが、神一の馬鹿であるクランは全く理解していないようで可愛らしく首を傾げた。



「魔王くんは覚えてるよね?」

「はい!です。ヒューズドの国――ザグナシア王国の王で、神に匹敵するほど綺麗な魂の持ち主です!」



 クランの答えに花丸をつける様に命は首肯した。魔王ザグナンは以前ヒューズドで出会い、別れ際に命の子供……つまり神になることを約束した存在だ。



「最近魔王くんが亡くなってね…………でも大事な子たちに囲まれながら安らかに息を引き取ったんだ」



 ザグナンは齢五〇七〇で惜しまれつつも息を引き取った。だが平均寿命が一〇〇〇歳の魔人であるザグナンがそこまで生きたのは最早奇跡なので大団円なのだ。



 魔人は多くの魔力を保持しているほど長生きするので、ザグナンの生きた年月は彼の膨大な魔力をはっきりと示していたことになる。



「だから早速魔王くんの魂を神に輪廻転生させようと思って」

「なるほどです!」



 ようやく理解を示し、微笑ましい笑顔を浮かべたクランの頭を命は優しく撫でた。





 全員の理解を得たところで、命は早速新たな神を作り出すことにした。新たな神の条件は三つ。一つは性別が男であること。現在神は男神が五人と女神が六人。廻の空席を埋めるために創造する神なので、性別は男が良いだろうと判断したのだ。



 二つ目、三つ目はいつもと全く同じだ。健康で丈夫な身体で産まれてくることと、ある程度の知識を持っていること。



 この三つを条件に命は新たな神の身体を創造し、そこにザグナンの魂を入れ込んだ。



 すると一瞬のうちに新たな神は姿を現しその目を開いた。男性にしては低い一五〇センチという身長、灰色の髪は右側に行くにつれて長く、最も長い部分は肩まで達していた。



 瞳は淡い黄色で大きく、真っ直ぐに命を見据えていた。そして男神の容姿で最も特徴的だったのが背中と腕だった。



 男神には背中と腕にかけて純白の羽が生えており、その美しさはまるで天使と見間違えるほどのものだった。



 命はすぐに全裸状態の男神の下半身に真っ白な布を巻いてやると、まじまじと男神の姿を目に焼き付けた。



「羽だぁ……君は天使かな!?」



 惚れやすい命は男神の羽に一目惚れしたようで、目を星の如く輝かせるとその羽にダイブした。目を白黒させている男神をスルーしつつ、命は男神の右側の羽を高速で撫でまわした。その表情は恍惚そのもので、ハクヲの体毛を全身で感じている時と似たような崩れっぷりだった。



「命殿、むずむずするのでやめてもらえないか?」



 男神が口を開いた刹那、命は僅かな違和感を覚えた。それは男神の見た目にそぐわない話し方と、命に対する二人称だった。



「…………もしかして前世の記憶消えてない?」



 命は男神に与えた知識の中に自分の名前を含めていない。自分の口で伝えたいからだ。なのに男神は命の名前を確かに呼んだ。この男神が命の名前を知る機会があったとすれば、それは前世しかありえない。



 つまり男神はザグナン時代の記憶を失っていないということだ。



「あぁ。久方ぶりだな、命殿」



 男神は不敵な笑みを浮かべると命の推測を肯定した。その言葉で命以外の神々も全員が理解した。目の前の男神は前世の記憶を失わないまま輪廻転生を果たしたのだと。



 もちろん命が意図してそうなった訳ではない。だからこそ余計に命たちの驚きは大きかったのだ。



「前世の記憶が最初からあるなんて、カルマとカルナみたいだね!」



 カルマとカルナも前世で自分たちが双子だったことを記憶しており、それがこの二人の瓜二つな容姿の要因でもあった。途中で無理矢理記憶を取り戻した祈世と違い、産まれた時から前世の記憶を失っていないという特徴が、この二人と酷似していたのだ。



「俺もまさか今までの記憶をそのまま受け継ぐとは思わなかった……だが姿が変わり、こうして命殿の家族になれたのは恐悦至極だ」

「命も嬉しいよ!……姿と言えば、君のその容姿はもしかしてハルピュイアかな?」



 ハルピュイアとは半人半鳥の怪物で、人間と鳥の特徴を両方兼ね備えた生物だ。男神の腕から背にかけて生えている純白の羽を見て、一番近い容姿の種族に関する仮説を立てた命だったが、いくつか不明な点があった。



「ですがハルピュイアとは性別が女だったはずでは?」

「だよねぇ……それにハルピュイアなら、背中だけじゃなくて脚にもその特徴が出てるはずなんだけど」



 命が頭の中で引っかかっていた事項をリンファンが指摘した。



 そもそもハルピュイアという名が〝掠め取る女〟を意味していて、ハルピュイアの性別は女というのが鉄則なのだ。



 しかも男神の身体に現れているハルピュイアの特徴は背中から腕にかけての羽だけで、他の部分は全て人間のものだったのだ。



「まぁ、容姿が違うだけでみんな種族を答えるとするなら神族だからなぁ…………みんなの容姿そのままの種族がいなくても不思議じゃないか。あ、それか本当に天使っていう線もあるね!」



 神の容姿は特に固定されたものがない。命が容姿を気にしなかったからだ。だから神々の容姿はランダムになる。その容姿は存在する種族そのものの確率が高い。



 デグネフはエルフ。武尽は鬼。ハクヲは九尾の白狐。ルミカはサキュバス。そして静由、千歳、クラン、カルマ、カルナ、リンファンは人間。祈世もおそらく人間の容姿と思われるが、珍しい肌の色はまるでダークエルフのようなので判別がつかない。



 だがそれは容姿だけの問題だ。姿形は違えど全員が等しく神であり、そこに違いはない。だから例え外見の種族を判別できなくても何ら問題はないのだ。



「ふむ……まぁ本来半人半鳥の女であるハルピュイアの更に半分……半ハルピュイアとでも言ったところだろうか?」



 若干の神(主に武尽)が真面目に聞かないことで有名な命の話を真面目に聞いた男神は納得したように呟くと、勝手にオリジナルの種族名を完成させた。



 そんな男神に命は謎の尊敬視線を向けていて、武尽はそんな命を死んだ目で見つめていた。高低差のあり過ぎる二人の態度に男神は困惑してたが、これが天界の通常運転なのですぐに慣れるだろう。



「じゃあそんな半ハルピュイアの男神くんの名前を付けないとね!どんなのがいいかなぁ……」



 命はほんの少し考え込むとひらめいたように目を輝かせた。



「男神くんの名前は未乃みのくんにしようと思う!どうかな?」

「どういう意味なのだ?」

「命の生まれ故郷では乃という漢字には汝という意味があるんだ。君は容姿からしてまだ未完成だ。でも未完成というのは伸びしろがまだ残っているということでもある。〝あなたはまだまだ成長できる〟そんな意味を込めてつけてみたんだ!」



 汝は未完成――汝には伸びしろがある。そんな思いを込め、命は男神に未乃みのという名前を付けた。そんな命の思いを知った未乃は静かに破顔一笑した。



「感謝する。命殿」



 名前を付け終えた命は早速未乃のための衣服を選ばせようと準備に取り掛かった。刹那、命は何者かの気配を感じ取り、冷静な顔つきを見せて周囲を警戒した。



 神々もその気配に気づいたようで、天界に殺気だった空気が数秒流れると、それをぶち壊すような奇声が上方から聞こえてきた。





「のぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!位置間違えたのじゃあああああああああああ!!!」

「「!!」」



 数秒後、天界の広間の天井部分に異空間のような穴が空き、そこから涙目の幼女が降ってきて、このままでは地面に正面衝突してしまう勢いだった。



「おっとっと……」

「っっっっっ…………?ん?痛覚を感じないのじゃ。何故じゃ?」



 間一髪のところで命が幼女の身体をキャッチしたことで、幼女の血が流れることは無かった。命は着地すると、片足で何歩かステップを踏んだ後に安定した形に入った。



 予期していた痛みが全く身体に訪れないことを不審に感じた幼女は、そろりとその大きく可愛らしい黒目を開いた。パチクリと瞬きを繰り返すその瞳は命を見据えていて、目の前の存在が何なのか理解しようとしている視線だった。



「お嬢ちゃん、だぁれ?」

其方そち……もしや創造主の命か!」



 命は何の警戒心もなく幼女に尋ねた。一方の神々はボケーっとしているのと興味なさそうにしているコンビを除けば、全員が警戒態勢に入っていて、幼女が少しでも敵意を見せようものなら息の根を止めかねない勢いだった。



 するとようやく命に対する答えを見つけた幼女は嬉々とした表情で飛び上がった。



「……そうだけど、よく知ってるね」



 命は心底驚愕したようで呆けた表情と共に幼女の問いに答えた。創造主という存在だけでなく、命の名前を知っていることが衝撃的だったのだ。



 そのまま命の腕から脱した幼女は仁王立ちになると自信にあふれた表情を向けた。



「ふふん!当然なのじゃ…………あぁ!わらわが誰かじゃったな。わらわは……インフェスタ最強の人類なのじゃ!」



 可愛らしい声高々に宣言し、右手を斜め下に突き出した幼女を、神々は異分子を見る目で、命は好奇心旺盛な表情で見つめた。





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